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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第6章 辺境弱小ダンジョンの収穫

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13.王子がやせたへんきょうのダンジョン

 午後からの観戦は、匍匐前進明けから。


 カメラをオンにして少し経つと、土まみれのブーちゃんが出てきた。

 モニタ観戦の村人から拍手が起こる。


 ブーちゃんのあとからランドさん。これで全員通過。

 他の22名はとっくに抜け終わっていて、出てくる王子を待っている。


 ブーちゃんは、自分が進行を遅らせていることに気づき、ある日、決然とした顔で最後尾になることを申し出たのだ。

 「殿しんがりは絶対に許可できません!」という隊長さんの意見で、それ以降、後ろから2番目がブーちゃんの定位置となった。


「待たせた」

「いえ。毎回早くなっておいでです」

「そうか。だがまだまだだ」


 ブーちゃんは自力で立ち上がり、服についた土を払った。


「いや、ブーちゃんはよくやってるぞ!」

「そうだ、最高記録だ!」


 画面に向けて声が飛ぶ。


 短い休憩を挟んで一行は進む。


 また道幅が広くなる。

 その先の地面からは24本の持ち手が突き出ている。

 地中の細長い岩が24分割され、それぞれに持ち手がついている形だ。

 ざっくり言えば“24人で引き抜く巨大なカギ”のようなものだ。

 ひとつ約50kgある。


 解除方法は、「同時に抜いて、同時に戻す」。それを5セット。

 少しでもタイミングがずれるとやり直し。24本の鍵を一瞬のずれもなく同時に回すようなものだ。

 これで、その先の扉のロックが解除される。


 岩が底から同時に離れればいいので、引き抜くのは少しはやりやすいが、戻すのが難しい。

 岩と岩の間に許された隙間は小さいので、全部が入るように位置を合わせ、底につかない位置でキープしてから一斉に手を放すしかない。


「ああ~」


 失敗。

 息を詰めて見守っていた観客からため息が漏れる。


「斜めったらタイミングずれるだろうが!」

「ワグネルだろ、今の?

 あいつ手ぇ離すときに手前に引く癖あんだよ」

「ラーコフ食わねえからだ!」  

 

 かわいそうなので、「最初から」とはしてないけど、この回はやり直しだ。

 後になるにつれて腕に披露が溜り、こういうミスが起こりやすくなる。

 最初は、ここを抜けるのに3時間半かかった。

 キレた兵士の剣も4本犠牲になった。


 ブーちゃん軍は学習する隊だ。

 今はもう、帯剣している者は誰もおらず、残りの大剣は終着地点にまとめて置かれている。

 「軍人の誇りだ」と、最後まで剣を手放さなかったランドさんは10日目で諦めた。


 ランドさん嫌いのイーサンさんは「ケッ、ちゃっちい誇りだな!」と悪態をついて、ランドさんファンの奥さんからひっぱたかれたそうだ。


 少し長めに休憩を取り、次の回を無事成功させた24人は、平坦な道を2kmほど歩いて最終エリアに到着する。


 最終エリアは、手前→奥に5つの小エリアからなる。

 砂地→池→岩壁→小広場→コアルーム、という構造だ。


 砂地の広場の向こうに青々とした水を湛える広い池。

 その先に崖には「↑ ダンジョンコア」の文字が大きく彫られている。


 ここが一番の難関なので、挑戦時間は4時間くらいを想定している。

 メインは個人戦。


 「ひとりずつ、順番に、ミスなく、全員が」クリアして、初めてコアルームへの扉が開く。


 挑戦者はまず、直径400mの池を渡り、次に12mの岩壁を登る。

 登った先は小さい岩の広場で、その奥の短い道の突き当りがコアルームへの扉だ。


 池の半分あたりに、透明な膜のような結界が水面と直角に張られており、そこから先はひとりしか入れない。

 登頂者がコアルームの扉に魔力を流すと、次の者が池の結界を超えられるようになる。


 先に登った者は別の結界に阻まれて、後から来る者の手助けはできない。

 誰かが壁登りに失敗すると、1人めからやり直しだ。

 登頂者はむなしくスタート地点まで自力で戻るはめになる。

 チーム全体が、その一人の失敗でアウト。

 精神力も試させていただく。


 おまけに一日の挑戦権は1回のみ。

 ここまで酷使して疲れが溜まった身体に、失敗してはいけないというプレッシャー。

 最終エリアにふさわしい難易度である。


 実にいやらしい。

 これをほぼひとりで考えたリリはもしかして相当に腹黒いのではと一瞬思ったが、怖いのでそれ以上考えないことにした。


 ブーちゃんの挑戦が始まった。

 失敗確率が最も高いので、最初の挑戦者だ。


 泳ぎはけっこううまい。

 隊長に褒められて、「幼いころから、別荘のビーチで泳いでいるからな!」と胸を張っていた。


 そしてボルダリングエリア。

 だいぶ引っ込んだ腹をさらに引っ込めて、慎重に登ってゆく。

 池の縁から、ルートについてのアドバイスが飛ぶ。


 時間をかけるほど、腕は悲鳴を上げる。

 一瞬ぐらついたのをなんとかこらえて、ブーちゃんの手が頂上の壁の縁に伸びる。


「そこじゃない!」

「そこはダメ!」


 隊長さんの声と悲鳴にも似た村のお姉さんの声が重なるが、間に合わなかったブーちゃんの手がつかんだ壁の縁の岩は、ぼろっと外れて挑戦者を眼下の水面へとダイブさせた。


 このお約束だけは私の案。

 何度も見てわかっていても、とっさに掴んでしまうのは止めようがない。


 村人からは落胆の声が上がるが、現場に動揺はない。

 池から上がって頭を下げる王子を称えている。

 ちょっと感動。いいチームになったもんだ。

 

 明日は滑り台から落ちたスタート地点への逆走ルートだ。

 そうしないとごはん出ないんだから戻るしかない。


「ダンジョン攻略ではなく、鍛錬だと思え!」


 隊長さん、それが設計コンセプトです。


 さらに12日が過ぎた。

 攻略初日から数えて、28日目となる。


 多少の誤差はあるだろうけど、そろそろDPが切れる。

 ダンジョンコアへの挑戦は、多くてあと3回って感じだ。

 惜しい挑戦は1回あったけど、ブーちゃん軍はまだダンジョン内だ。


 草原階層には、朝から多くの村人が詰めかけている。

 ディオさんもヴァネも仕事を休んで駆けつけた。

 分割ダンジョンの温泉も閉鎖した。


 ブーちゃん隊の勝負の日だからだ。

 彼らは、6日前から食事の量を少しずつセーブし、スープ以外を約3食分浮かせた。

 ドライフードだからやろうと思えばできる。


 昨日を完全休養日として、池の前で過ごし、浮かせた食料を食べた。

 何人かは池で楽しそうに泳いでいた。


 そして今、準備万端で壁に挑もうとしている。


「成功しそうやんか。

 敵なのに嬉しそやな」


 ネーさんがニヤニヤしながらからかってくる。


「大丈夫、とっくにプランBに変更してるから」

「さよか」


 事前に立てたプランは3パターン。


・プランA:踏破できずにダンジョン消滅。ブーちゃんたちは、心が折れて痩せて帰る。

・プランB:コアを破壊して、大喜びで痩せて帰る。

・プランC:万一、ダンジョン消滅後も帰らず、洞窟が見つかったら、2層と温泉を閉鎖してただの洞窟のふりをする。家族が対応している隙に、隠蔽魔法で姿を隠した私がコアを持ってリリを連れて盆地に逃げる。


 というものだった。

 敵だから、最初の狙いはプランAだったけど、今は全員プランB達成を願っている。


 さらにシャープさを増したブーちゃんが、あっという間に池を渡り切り、壁にとりつく。

 今までと身体のキレが違う。


「いきよったな」


 ネーさんが立ち上がる。


「どこ行くの? 成功しそうだよ?」

「B2や」

「え? あっちで見るの?」


 地下2階はコアルーム。ネーさんは結界を無視して出入りする。

 たしかにあっちの方が見やすいけど。


 村人の声援が大きくなり、私は画面に目を戻す。


 ブーちゃんはもう壁の上部だ。

 縁に手がかかる。


 村人の声が急に静まる。


「行けっ」


 つぶやいて、ヴァネが拳を握る。 


 ブーちゃんは、浮岩つかみ、水に落とす。

 手がかりを確かめ、何度もぐらつきをチェックする。

 ――そして、一気にその体を頂上へと引き上げた。


「……ぅぅうおおおおおおおおお‼」


 地鳴りのような歓声が草原階層を包んだ。

 抱き合う人、叫ぶ人、走り回る人、泣く人、もう大騒ぎである。

 ヴァネも笑顔で拍手している。


「ブーぢゃん、偉いです……」


 ディオさんは泣き組上位。


 大騒ぎのPV会場をよそに、壁攻略は着々と進む。

 鬼門の緊張しい、王子お付きのシルヴェストルさんも無事クリアして、気が付けば最後の隊長さんになっていた。


 もう安心して見ていられる。

 あんなに苦労していたのに、終わるときはあっけないものだ。


 登り切った隊長さんが扉に魔力を通し、コア部屋への道が開かれる。

 ブーちゃんたちの目の前には、正20面体のクリスタル。


「これがダンジョンコアか……」

「……きれいですね……」


 しばらくそれを見つめたあと、王子は瞑目する。


「この辺境のダンジョンに感謝を……」


 ブーちゃんが顔上げると、隊長さんが「では」と短剣を手渡す。

 正解。

 部分吸収で脆くしたのは大剣。短剣ならコアを壊せる。


「いくぞ……!」

「「「はっ!」」」


 王子が短剣を腰だめに構え、鋭い踏み込みとともにコアに突き刺した。

 

 一瞬の後、「キン」という小さな音とともに、コアクリスタルが砕け散る。

 地面が揺れる。

 光が溢れ、見つめる画面がホワイトアウトする。


 ――次にカメラが映し出したのは冬の森の道に佇む男たちだった。

 足元には砕けたダンジョンコアの欠片が散らばっている。

 我に返って、彼らが喜びの叫びをあげようとしたその時、彼らに巨大な影が落ちる。


 そして、巨大なドラゴンが森の一部を破壊しながら彼らの前に降り立った。


 その体から放たれる圧倒的なオーラに、ブーちゃん軍は身動きひとつできない。


「ネーさん……」


 嫌な予感しかしない。


 古龍の重々しい声があたりに響く。


「あたしは、通りがかりの古龍やけどな」


 普通、古龍は通りがからないと思う。


「一言言わしてもらうわ」


 声に怒りを滲ませ、古龍は吠えた。


「……お前ら、くっさいんじゃ!!!」


 世界中の時が止まった。

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