9.王子様おもてなし作戦
王子を送り出して、ディオさんとヴァネが戻ってきた。
それぞれの進捗を報告しあう。
ディオさんとヴァネが動いて、王子軍の詳細な情報もわかった。
総勢は23人。
兵士20人と、王子のお付きが1人、雑用係が2人の構成だ。
あ、王子忘れてた。総勢24人。
どう見ても戦力外だから抜けちゃうんだよ。
ディオさんが12歳ムーブで雑用係の人から頑張って聞き出した情報によると、王子は移動中は馬車でのんびり過ごし、街では王命をかざし、領主や代官にたっぷり接待をさせていたそうだ。
小人数だし、長居もしなかったそうだから、領主たちも王族に媚びを売るために頑張ったみたいだ。
結果的に、行軍はスローペースになり、ちょこちょこ贅沢もできて、兵士たちの消耗もほどんどないようだ。
おまけに、その間に、イマイチだった10名も精鋭に鍛えられて強くなっていた。
兵士にとっては、メリハリのあるいい旅だったに違いない。
ほんと勘弁してほしい。
ディオちゃん12歳(笑)は、雑用係のデレクさんというおじさんとだいぶ打ち解けたようで、「できればデレクさんだけ優しくしてほしいです」と言っていたけど、ごめん、多分無理。
ヴァネの方は、物資にダンジョン産の食料を混ぜたそうだ。
パン以外はDP効率がすごく悪く、一度実験で作っただけだったが、今回の用途なら作る価値はある。
全部がダンジョン産だと、移動中のカロリーがゼロになるので、疲労度からバレる危険もあるが、混ざっているなら気づかれないだろう。
さすが腹黒ダンマス令嬢。
村に着くまでに、じわじわ体力を削ってくれるはずだ。
ふたりが集めてくれた魔石は、600DPくらいになった。
あんまり集められなかったって謝られたけど、この時期の辺境でそれだけ集まれば充分。
私が川で集めた魔石と合わせると約5300DPになって、迎撃階層構築に使えるDPはなんとか1万を超えた。
川の魔石は全部で550個くらいあった。
あの頃、見つける度に投げ込んでいたから、思ったより多かった。
1個1個のDPは10以下だったけど、チリツモで5000DP弱になったのは収穫だった。
リリが味見して「盆地の味がする」って言ってたけど、どうやら夏の間水浴びしていたネーさんの魔力が染み込んだらしい。
水浴びがなかったら危なかった。ほんと助かります。
私はネーさんとホーさんの協力が得られたこと、そのネーさんのアイディアで、新階層を王子様用ブートキャンプ施設にすることを報告した。
さて、ここからはマジで時間との勝負だ。
残り5日。
まず、やらなければならないのは、村人の避難だ。
ホーさんと私は、村の広場に集められた全領民103人を前に、事情を説明した。
「おいらの読みが甘かったせいで、こんなことになって申し訳ない」
ホーさんはそう言って村人に頭を下げた。
普段は何にもやらないけど、領民だけは何があっても守るという覚悟は、これまでも見てきた。
領主としての矜持は、たぶん大貴族より上だ。
公爵も侯爵も国が国が言うけど、国なんか滅んでも人は生きていける。
国は人を作れないけど、人が生きていれば国はまた作れるもんね。
あ、これ名言っぽい。
「収穫できない作物も出てくると思うけど、ここは逃げることを優先してほしい。
おいらは捕まって、領は滅びるかもしれないけど、そんなことは気にするな。
領も国も、人間を作ることはできないけど、人間がいれば領でも国でも作り直せるだろ?」
おい、領主! 私の頭の中パクんな!
ホーさんがパクった私の名言は村の人たちにちゃんと届き、全員の盆地への避難は、特に反対する人もなく了承された。
一点だけ、避難日がホーさんの考えより2日後になった。
ホーさんは1日で準備を終え、明日避難することを提案したが、王子の行軍ペースは相変わらず遅く、2日くらいの猶予はありそうなので、避難準備をしつつ、できるだけ収穫も行うことになったためだ。
偵察を送り、もし村への到達が早くなりそうなら、わかった時点で避難する。
100人しかいない村なら、それも可能だ。
村人が慌ただしく動き出し、私たちはダンジョンで迎撃階層の設計に入った。
残り4日。
私とディオさんとヴァネがあーだこーだ議論して、王子軍ブートキャンプの概要がほぼ固まった。
ダイエットサロン経営者のヴァネは、魔道具マシンを使った負荷のかけ方を参考に、必要な地形の構造を洗い出し、私はそれをダンジョンの設計に落とし込んでゆく。
消費カロリーの計算はディオさん。
いじめることが目的なので、一日あたりの設定は驚異の11000カロリー。
こなせば毎日1.5kgずつ痩せていく計算になる。
私たちは何だかハイになっていて、大笑いしながらハードな設定を追加してゆき、王子の「ブーちゃん」呼びも復活した。
私たちの目的は、いつの間にか、「いかに撃退するか」から「いかに痩せさせるか」に変わっていた。
残り3日。
ここからはリリも参加。
設計を伝えて、実際にかかるDPをはじき出してゆく。
ブーちゃんたちに、きれいな風景も魔物との戦いも必要ないので、草一本さえも削り、新階層は入口の洞窟、岩階層が2、砂漠階層が1の計4層構造となった。
奥に入らせて、閉じ込めて、それからはひたすらハードトレーニングの日々になる。
必要DPは1ヶ月の維持費込みで8700。たくさんのギミックに予算を突っ込んだ。
よし、これでOK! となったところで、ディオさんが気づいた。
「あ! これ、ブーちゃんたち死ぬです!」
「え?」
「食料を持ち込んだ場合は少しは伸びるですが、その食料も半分くらいはダンジョン産ですから、途中で消えてしまうです。
持ち込まなかったら、すぐに餓死するです」
「あ……」
そっか、食料のこと忘れてた。
「じゃあ、ご飯を出そう」ということで、完璧ダイエット食が入った宝箱を、定期的に出す仕組みを込み込んだ。
これがDPをがっつり持っていった。
必要DP2900。足りない。
「あと、600かあ……。
リリ、どうにかならない?」
「なるよ?」
「ほんと?」
「うん。えっとねえ、ミリねえたちがやりたいことは、そんなにDP使わなくてもできると思う」
「マジで⁉」
「うん!」
そう言えば、階層パーツを使って予算削減する方法を教えてくれたのもリリだった。
「じゃあ、お願い!」
「わかった!」
リリが出す改善案が、どんどん設計に反映されてゆく。
冒険者の訓練階層を作った時と同じように、階層は統合され、全2階層となった。
ベースの広い土の階層を岩と砂をパーツに使ってエリア分けすることで、小さな入口階層以外をひとつにまとめたのだ。
ギミックも構造に組み込まず、後付けのパーツで処理してゆく。
訓練階層の時に暴走してから色々勉強していたが、その成果がしっかりと現れている。
「みなさーん、うちの子すごいんですよー!」ってバカ親みたいに叫びたい!
残念ながら食事供給システムの予算は削れなかったけど、総費用は6700DP。
しっかり予算内に収まった。
これなら分割ダンジョン内をモニタするDPもギリギリ確保できる。
構築に必要な時間は、コアちゃんが本気出すので2時間あれば充分。
これで迎撃階層の準備は整ったことになる。
残り2日。
朝、村民ができる限りの収穫を終え、ダンジョン前に集合した。
王子の到着は想定通り2日後になりそうで、やりたかったことは全部やり切れたと満足そうだ。
皆を前に私は声を張り上げる。
「お疲れさまでした!
これからお昼まで、温泉を解放します。
短い時間だけど、疲れを癒してください!」
「うおおおお!」
男たちがが拳を突き上げて叫び、そこに女たちの甲高い歓声が混じる。
楽しそうだな、おい。
「これが最後だから」とは言えなかった。
迎撃用ダンジョンを分割してしまえば、残りは4300DP。
レベルⅡの要件を満たすことができないため、追加した施設は新しい順に消滅する。
レベルⅠ時代に作った最初の温泉は残るだろうが、営業を続けられるようなものではない。
無事撃退出来たらまたDP貯めて作るから、それまで待っててね。
最後の温泉を楽しんだ村の人たちは、私たちに手を振って、ネーさんの転移陣から盆地に避難していった。
リュックを背負って、まだ見ぬ場所へ向かう笑顔の脳筋の群れ。
もう遠足にしか見えない。護衛役のジャンゴさんも大はしゃぎ。
……メンタルは問題皆無。
盆地は冷えるけど、ホーさんが、土魔法で簡易の宿泊場所を作ったそうなので、心配する必要はなさそうだ。
家族のみんなは、頑として避難を拒否したので、ダンジョンに残る。
冒険者もとっくに退避していて、これで村に残るのはギルド出張所のアーノルドさんたち3人だけとなった。
私は温泉を閉じ、ワイバーンのギョーちゃんたちを送還した。
バイバイ。またいつか。
残り1日。
盆地から戻ってきたホーさんが、村とダンジョンをつなぐ道の途中に岩山を作った。
そこまでダンジョンから細く領域を伸ばし、分離用の階層を増設する計画だ。
ブーちゃんが目指すのは「岩山の洞窟温泉ダンジョン」なので、アーノルドさんが案内してくれれば、間違いなくそこに入ってくれる。
よし。これで準備完了。
そして次の日、ブーちゃん軍は村に到着した。




