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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第6章 辺境弱小ダンジョンの収穫

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8.優しい災害

「それは認められないって言ってるでしょ⁉」

『やらなければ、このダンジョンは破壊されてしまいます』

「だから、そうならないように考えるって言ってるじゃん!」

『じゃあ、今すぐそれを教えてください。時間がないんですよね?』


 ヴァネが王子の足止めをしている頃、私とコアちゃんは夜のコア部屋で口論していた。

 口論といっても、私が一方的に声を張り上げているだけだけど。

 

 状況をコアちゃんに説明し、今のダンジョンでは勝てないのは明らかだから、迎撃用にダンジョンを改造することまではすぐ決まった。


 だが、私が今のダンジョンに迎撃用階層を作る前提で話し出したら、いきなりコアちゃんがダンジョン分割を強く主張したのだ。

 盆地のジジイの話を聞いてコアちゃんもその危険性は充分わかっているはずなのに、なぜそんなことを言うんだろう。


「だから、こんなこと話してる場合じゃないんだってば!

 王子はもう」

『マスター!』


 コアちゃんの大声念話が私の言葉を遮った。


『まず落ち着いて話を聞いてください。

 その上で考えれば、どちらの生き残る可能性が高いかわかるはずです』

「……わかった。とりま、言い分だけ聞く」

『まず、分割したダンジョンを囮として使うのは、ダンジョン分割本来の使い方です。

 敵を囮に誘導できれば、オリジナルのコアは直接攻撃されることはなくなります』

「敵が囮じゃなくてこっちに来るかもしれないでしょ?」

『敵と私たちの間に囮を配置すれば、そのリスクは大きく減らせます。

 それでも危険ならば、囮が時間を稼いでいる間に逃げることも可能です』

「じゃあ、最初から逃げればいい」

『追いつかれたらその時点で終わりです。

 さらに言うなら……』


 コアちゃんは理路整然と私の感情論を打ち破っていった。

 

 私がなおも抵抗すると、リリがダンマスになったおかげできた直通回線を使って、元レベルⅣジジイの見解まで引っぱり出してきた。


 ジジイの見立ては、レベルⅡで2回目のダンジョン分割をすればコアは確実に弱体化する。だが、分割せずにこのダンジョンに乗りこまれるよりは、生き残る可能性は大きく上がるだろうというものだった。


『先輩のいた国の軍の兵士は、とても強かったそうです。この国がどうかは不明ですが、20人ということは、4~5個の冒険者パーティーが共同で攻略しに来たと思った方がいいという意見です。

 思い切った手を打たなければ、このダンジョンは確実に踏破されます』 


 「ちょっと考えさせて」と言おうとしてやめた。それはもう、私の感情を落ち着かせる時間でしかないからだ。

 結論は出ている。


「わかった。分割しよう」


 だが、そうなると今度は費用が問題となる。

 今の保有DPは5万とちょっと。

 前回の分割で激減したのを、ここまでコツコツ戻してきた。

 でも全然足りない。

 分割のために必要なDPは5万。

 残りで効果のある囮を作ることは無理だ。


 ディオさんやヴァネに頼んで魔石を集めてもらうことはできるだろう。

 でも、もうすぐ冬。

 魔道具が普及したおかげ増えた魔石の需要に冬の暖房魔道具用の需要が加わるため、数日で大量の魔石を集めることが難しい時期なのだ。


 あとは、ネーさんの滞在時間を増やしてもらうくらいしか思いつかない。

 ネーさんは人間同士の争いには関与しないって宣言しているから、応じてくれるかどうかわからないけど、明日ダメ元でお願いしてみよう。


 もうできることはないので、そっちはひとまず保留。

 次は肝心の迎撃用のダンジョンの内容だ。


 最初に3人で話し合って決めた方針は、「殺さないで、心を折って、帰らせる」。

 つまり侯爵様のご希望に沿う形だ。


 侯爵の話を聞く限り、もしダンジョンで王子が死んでしまった場合、さらに多くの兵士が討伐に出されるだろう。

 それだけは絶対にNG。

 心情的には若干面白くはないが、ある意味正解を出してくれているのだから、もうそれに乗っちゃった方が手っ取り早いか、ってことになった。


 では、具体的にどういう階層にすればいいんだろう?

 考えようとしたけど、ダンジョン分割のことで頭を使い過ぎたのか、集中力が限界だった。


 私はコアちゃんにおやすみを言って、自分の部屋に引き上げた。


 翌日、私は出勤してきたネーさんに時間をもらい、出勤してくるスタッフの邪魔にならないように、少し肌寒い広場の椅子に腰かけ、DPのことを相談した。

 ダンジョンの存続に関わる話を聞き終えると、ネーさんは大きくため息をついた。


「ミリなあ、なんで今その話をあたしにすんねん」

「ごめんなさい。ネーさんが関わらないっていうのは知ってるのに、他に手が思いつかなくて」

「アホ。そういうこと言うてるんやない。なんでもっと早う言わんかったんか言うとるんや。

 ええか? あたしは古龍として、人間の争いに手ぇ出すことは絶対にせえへん。それは前に言うたとおりや。

 でもな、温泉の熱波師としてなら、知恵くらい出すわ。自分の仕事場なくなるっちゅうのに、そんなん、何もせん方がおかしいやろ」

「えっ? じゃあ」

「メシんとき以外、ずっとここにったるわ。

 せや、ちょっとその辺で時間つぶしとき。すぐ戻るさかい」


 そう言うと、ネーさんはシュンっとスタッフルームの方に走っていった。


 泣きそう。

 前世でも現世でも、こんな優しい自然災害とか私は知らない。


 ネーさんは数分で戻ってきた。

 盆地に引きこもっていたホーさんの首根っこをつかんで。


「このアホ弟子何も分っとらんさかい、今の話もっかいしてやってんか?

 おい、アホ。よう聞いとけ。

 あたしの仕事場が危ないっちゅうに、のんきに土いじりしとる場合か」

「え? 師匠! そうなんですか⁉」


 ホーさんがクワッと目を見開く。

 ネーさんが絡むとやる気が違う。

 ホーさんは討伐対象だから、隠れていてもらった方が良さそうだけど、名ばかりでも領主ではあるんだから、準備の時くらい頑張ってもらいましょうか。


 私はホーさんに、王子軍が迫っていること、費用の問題と迎撃階層の内容をこれからつめなければならないことを伝えた。


「わかった。おいらにできることは何でも言って。

 あとは、村の人も避難してもらった方がいいな。

 避難先は盆地でいいか。100人なら避難もすぐに済むな。

 いやあ、こうしてみるとファーレンにビレント譲っておいてほんとによかった。

 おいら、先見の明があると思わない?」

「思わない! あったらこんなことになってません!」

「何だよ。ミリ、そういうとこだぞ?

 じゃあ、おいらは村に行ってくる!」


 ホーさんは自分のことを棚に上げて、村へ走っていった。

 もうすぐ馬車が出るのに何やってんだか。


 でも、ああなったらホーさんは超有能領主だ。そこだけは尊敬に値する。

 村の人にはダンジョンに避難してもらうつもりでいたけど、それよりもずっと心強い。


「ほんで、そのダンジョンの内容やけどな」


 小さくなるバカ弟子の背中を見ながら、ネーさんが言った。


「さっき、1号持ってくる時思いついたんやけど、デブ王子痩せさすっちゅうのはどや?」

「痩せさす?」

「せや。ほら、元々ここ弟子2号が痩せるための風呂から始まったやろ?

 デブいじめんのは得意なんとちゃうか?」

「……得意!」


 それなら、ネタ10個くらいすぐ思いつく。


「ネーさんありがとう! それなら作れそう。

 あ、でもDP足りるかな?」

「あたしがずっと居る分でいけるんとちゃうんか?」

「どうだろ……。ちょっと計算してみるね」


 ネーさんが1時間いてくれるだけで、ダンジョンには100DPちょっとは入ってくる。

 ダダリアの1日は25時間で、今の滞在時間は12時間くらいだから、食事でお家に帰るのを2~3時間とすれば、追加で1日1000DP以上が入ってくることになる。


 ヴァネによると、王子は今日あたりリムズデイルを発つそうだから、到着までに5000DPくらいは追加できそうだ。

 ただ、今日明日には温泉は閉じなくてはいけないから、その分の目減りもある。

 今の手持ち分と合わせると、約56000DP。

 そこから分割用に5万、維持費をしばらくネーさんに全部お願いするとしても、使えるのは最大6000DPだ。


「……微妙。作り方にもよるけど、足りない気がする」


 妥協して負けたんじゃ、全てが無駄になる。


「階層数とか、どこまで作り込むかとか、まだ詰めなきゃならないことはあるけど、最低でも1万は欲しい」

「さよか……。

 魔石で追加はしとるんやろな?」

「うん。ディオさんとヴァネが集めてきてくれることになっている。

 でも、今の時期だから、そんなには集まらないと思う」

「ん? せやなくて、ミリ、川に空の魔石沈めとったんとちゃうか?

 チビがそない言うとったぞ?」

「え? ……あ!」


 確かに空魔石の石英を川に浸けてた!

 まだリリがちっちゃかった頃、いっしょに魔石拾いしてた時だ。


「でも使えるかな?

 多分一度見に行ったと思うけど、全然魔力溜まってなかった気がする」

「そんなん見に行けばええやろ。行くで!」

「うん! ってネーさん場所知らないでしょ?」


 うろ覚えだけど、湖近く川だから場所は見当がつく。

 私は、さっさと歩き始めたネーさんの背中を追いかけた。

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