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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第6章 辺境弱小ダンジョンの収穫

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3.王宮の豚

 エルフ側の事情を説明されたあと、いっしょに腹を立てているディオさんに、長老はこう言ったそうだ。


「そういうわけだから、お前が開発した安定化魔法を渡せ」


 安定化魔法。

 ディオさんがトラウマとなった講演会で発表し、最も評価を受けた例の魔法だ。


 それまで里の歓迎を受け、上級資料室にまで立ち入りを許可され、わだかまりもかなり消えていたディオさんは、もちろん快く了承した。


 だが、その「渡せ」の対象は、ディオさんの全ての権利だった。

 エルフの作ったものを人間が管理するのはおかしい。それはエルフの資産とならなければならない。これまで里に貢献してこなかったお前に、里のためにできることを見つけてやった私に感謝しろ。


 北部ダダリア語で言えば「何ボケたことさらしてけつかんじゃい!」って話だ。

 当然ディオさんは拒否した。


「あの魔法はディオの魔法です。エルフの魔法じゃないです。

 管理もお断りするです。使いたいなら、学会にお金を払うです。

 金額も、ディオにどうこうすることはできないので、学会と交渉するです」


 長老は、それを聞いて嘆いたそうだ。


「そうか、やはり人間と関わると、そのような考え方になるのだな。

 やはりお前を外に出したのは失敗だった。

 お前は里に戻りなさい。

 戻って、人間と縁を切ると言うならば、お前を次の次の里長の候補に推薦してやろう。

 人間で言えば、褒美ということになる。

 どうだ、これならば文句はあるまい?」

「……お断りするです。

 これ以上話してもムダなので、ディオはお家に帰るです」

「出ていけば、二度とこの森には戻らせないぞ」

「……さようなら、おじいちゃん」


 そう言って、ディオさんは席を立ち、「お前はもう孫ではない!」という長老の声を背に、そのまま里を出てきたそうだ。


「森を守るのはいいことです。

 エルフは警戒感の強い種族ですから、王子のやったことを考えれば、結界を強化しようとするおじいちゃんの気持ちもわかるです。

 でも、それとディオの魔法を取り上げるのは全然関係ないのです!」


 いつだったか、ガロヌ侯爵が「森も木も見なければ領主は務まらない」みたいなことをヴァネに言ってたけど、まさにそれだ。

 長老の目には、エルフ・人間という森しか見えておらず、独立した一本の木であるディオさんを、最後まで見ることはなかった。


「ディオさんが全面的に正しい!

 むしろ、出禁になってよかったじゃん!

 ディオさんは、里のことなんか気にしないで、好きなようにすればいいと思う!」

「やっぱりミリちゃんもそう思うですか。

 わかりました! ディオはもう里のことは忘れるです!」

「そうそう。忘れて忘れて。

 もしいつか思い出して、会いたくなったら、出禁とか無視して勝手に行けばいいだけだし!」

「そうか! ディオは出禁に返事してないです!」

「はい、勝ったね!」

「勝ったです!」


 私も盆地のジジイのうっぷんを吐き出し、すっきりした気持ちで店を出ようとしたとき、

ディオさんが「あ、そう言えば、盆地のコアで思い出したですけど」と里の上級資料室で読んだ話を聞かせてくれた。


 それは、エルフの森にあるダンジョンの話だった。


 昔、火事で森の半近くが焼けてしまったとき、当時のエルフはダンジョンの力を借り、森を復活させた。

 だが、力を使い過ぎたために、ダンジョンコアはひび割れ、崩壊の危機に陥ったそうだ。

 今のジジイの一歩手前という感じだ。


 様々な試行錯誤の末、結局エルフは、コアの修復に成功するのだが、有効だった方法はただ一つ、他のダンジョンコアを吸収させることだった。

 エルフは冒険者となって、多くの小ダンジョンを潰して回り、破壊したコアを里に持ち帰った。  

 どれもがレベルⅠかⅡの小さなコアだったが、里のコアを修復するのに必要だった数は、実に30以上にもなったそうだ。


「盆地のコアは、ひび割れじゃなくて、完全に崩壊したですよね?

 ということは、リリちゃんがダンマスになっても、歪みが直らないのは当たり前だと思うです」


 ええと、つまり、その話を先に知っていれば、ジジイのお涙話をストップできたってこと?

 そんなの知りたくなかった!

 がんばって納得しようとしてたのに、そんなこと聞いたら、また怒りがぶり返すじゃないか!


「ごめんなさいです! ディオ、余計な事言ったです!」

「いや、ディオさんのせいじゃないよ?

 ディオさんは、向こうで知ったことを話してくれただけだもん」


 じゃあ悪いのは誰か?


「……これって、王子のせいだよね?」

「……です!」


 王子さえいなければ、リリの件も、もうちょっとで納得できそうだった。

 エルフの森の結界強化も必要がなかった。

 ディオさんが、お爺さんと決裂する必要もなかった。


「ディオさん、王子の情報って知ってる?」

「おじいちゃんから聞いた話だけしか知らないです」

「だよね。じゃあ、知ってそうなヤツに聞こうか。

 ちょうどリムズデイルに来てるし」


 私たちは、店から出た足で、子爵家を急襲した。

 子爵令嬢は、恒例の王都外交で不在のユードラさんに替わって、執務室でまじめに仕事をしていた。


 「話したいことがあったので、近々行こうと思っていたところだったんですー」と自分の話をはじめようとするのを制して、私たちが王子の情報を教えろと迫った。


「第3王子ですかー? 知ってますよー」 


 いつもは控えめなディオさんの圧にビビり、ヴァネは知る限りの情報を話してくれた。


「確か、名前はバンスタンタンだったと思いますー。

 でも、貴族の間では、その名前で呼ぶ人はほとんどいなくて、みんな『王宮の豚』って呼んでますねー」

「豚?」

「はいー。私は一度遠目に見ただけですが、横幅が隣の護衛の3倍くらいありましたー。

 子供のころは、すごくできる子だったみたいですがー、王様と正妃が揃って溺愛したせいで画に描いたようなダメ王子になっちゃったみたいですー」

「ああ、そういう……」


 ここにきて、テンプレさん登場ですか。


「ガロヌのおじさまも、コンチェッタのおじさまも、王様に色々言ったみたいですけどー、口では厳しくするって言うだけで、甘やかしっぱなしだってため息ついてましたー。

 王都のサロンの話をしたら、バカにしてるのかって怒ったそうですー。

 でも、どうしてそんなこと知りたいんですかあ?」


 リリのことは話せないので、ディオさんがエルフの里での顛末を説明した。 


「なるほどー。

 ちょっとは仕返ししたいところですねー。

 王都のことはコンチェッタおじさまのほうが詳しいので、ちょっと相談してみますー」


 そう言って淑女の微笑みを浮かべりヴァネを、私は慌てて止めた。


「やめてね?私の名前とか絶対に出さないでね?

 公爵にいいようにやられたの忘れたの?

 王様が溺愛してるんでしょ?

 そんなのにちょっかい出したら、何されるかわかんないよ?」

「えー? そうなんですかあ?

 でも、公爵様とは今じゃ仲良しですよー?」

「え? そうなの?

 そう言えばコンチェッタのおじさまとか言ってたわね」

「はいー。

 ガロヌのおじさまに紹介していただいたら、すごく話のわかる方でしたー。

 王都でのサロン戦争、完敗でしたって言ったら、なかなか手強かったぞって褒めてもらえましたー」


 ヴァネがダンマス公表以来顔を見せなかったのは、別に気まずかったからではなく、公爵がらみで色々動いていたからだった。

 私の公表を潰したことについては、案の定、何とも思っていなかったけど、まあ、過ぎたことだし、特にダメージもないので、特に突っ込まなかった。


 この期間で、ヴァネは大きく方針を変換し、公爵のダイエットサロンにダンジョンパンの供給をはじめていた。

 公爵がどんなにがんばろうとも、ダンジョンパンを作り出すことはできない。

 ダンマスであることを公表したと同時に、ヴァネは「ダンジョン産のカロリーゼロのパン」を公爵に売り込んだのだ。


「だって、王都を追い出されたのに何もしないのは悔しいじゃないですかー。

 それで、色々考えているうちに、ダンマスであることを利用すればいいんだって思ったんですよー。

 それで、ダンジョンパンを武器に、ダイエット業界を裏から牛耳ることにしたんですー。

 ダンマスになって本当によかったですー」


 パン屋はとても順調で、春からは、公爵と共同で一般販売もはじめるらしい。

 DPをそちらに集中させるために、サロンは、ダンジョンではなく、リムズデイル郊外のリアルな森に移転させることを決めたそうだ。


 ダンジョンパン屋特化。

 私だったらそんなこと思いつきもしないだろう。


「ヴァネッサちゃん、決断力すごいです!」


 ディオさんが手放しで褒める。

 うん。ウザいけど、こいつがただもんじゃないのは確かだわ。


 私も素直にヴァネを褒め、喜んだヴァネは、晩御飯をご馳走してくれた。

 子爵家の料理人の手による、絶品お貴族様魔物肉料理。

 レストランの魔力なし料理を食べなかった私は、とても美味しくいただいた。

 さっきまでお皿を積み上げていたディオさんは、私の倍食べた。


 久しぶりの3人でのおしゃべりはすごく盛り上がった。

 王宮のブーちゃんは優秀だった。もちろんディスり大会の燃料として。

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