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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第5章 辺境ダンジョンのやかましい周辺

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9.強者は戦わないのだ

 一番目立ったのは無関係の宮廷魔導院副長の自爆、というバカバカしい戦いから、数か月が過ぎた。

 私は相変わらずだけど、ディオさんとヴァネには変化があった。


 最大の変化は、ディオさんが有名人の仲間入りしたことだ。

 王都で大人気になっている公爵のダイエットサロンが、「ステファノプロス博士」をガンガン宣伝してくれるおかげで、「栄養学とダイエット学の権威」という名声がすっかり定着した。


「ディオは博士じゃないです」


 とか、あまり興味なさそうにしてるけど、やっぱりちょっとは嬉しいらしく、C級降格ショックからは完全に立ち直った。


 それから、ディオさんの商会が、村に引っ越してきた。

 とは言っても、今までの商会や外注の職人さんたちは、そのまま子会社とその発注先としてリムズデイルに残る。引っ越したのはいわゆる本社機能と商会長だけ。

 新しい会社兼自宅は、ダンジョン第2層の草原。うちのお隣さんだ。

 受付ハウスに増築した転移部屋から、すぐにリムズデイルにも跳べる。

 職住超接近、支社までもひとっ跳び。最高の引っ越し先だと思う。


 ディオさんにとっては、学会から正式に認定された魔導士として、師匠との修行時間を増やせることになるし、商会にとっては商人税の節税になる。

 とってもナイスなアイディアだ。


 そのせいもあって、ヴァネの機嫌はよろしくない。

 王都での商売で公爵に敵うはずもなく、ミニサロンは撤退を余儀なくされ、さらにはダイエット魔道具のシェアも公爵傘下の王都の商会に奪われ、おまけに領内の優良商会が隣の領に移転する、というトリプルパンチを喰らった。

 出資者としての慰留を振り切って移転されたのだから、ショックは大きい。


「ミリちゃん先輩ー。ディオちゃんさん返してくださいー」

「いや、私が決めたんじゃないから」

「そんなー。

 ずるいですよー。私だけかわいそうだと思いませんかー」


 ここんとこ毎日来る。ほんとウザい。


「ちょっとは同情するけど、商売ってそういうもんでしょ?

 ディオさんの転移魔道具だって、ライバルと競い合ってるんだよ?

 それに、商会が儲かれば出資者への配当も増えるじゃん。

 独占が崩れたぐらいでガタガタ言うんじゃありません」

「言い方が冷たいですー。

 じゃあ、その代わり何かアイディアくださいー」


 何のかわり? と返すとさらにウザくなりそうなので、適当に返す。


「ダンジョンに人でも集めたら?

 あのサロン階層、広いんだから色々できるでしょ」

「ああ、そういうのもありますねー。

 でも、今のお客様に迷惑がかかりますから、やるなら新しい階層ですねー」

「作っちゃえば?」

「いやあ、そっちは長期計画があるので、まだ手をつけたくないんですよー」

「長期計画?」

「はいー。ミリちゃん先輩聞きたいですー?」


 そんなでもないけど、ダンマスとして聞いとくか。


「まあ、どっちかと言えば聞きたいかな?」

「素直じゃないですねー。

 じゃあ、特別に教えて上げますー。

 ダンマスは基本不死なので、ずっと続けられる目標を立てたんですよー。

 将来的には、うちのダンジョンはレベルを上げられるだけ上げて、リムズデイルを一大ダンジョン都市にしたいんですー」

「あ、それ無理だから」

「えー? どうしてですかー?」

「だって、あんたのダンジョン、レベルⅡ以上進化できないから」

「え……?」


 私は最近爺さんコアから聞いた分割ダンジョンの制約を説明した。

 分割された方のダンジョンは、オリジナルダンジョンの分割実行時のレベルまでしか成長できないのだ。

 ヴァネのダンジョンは、レベルⅡの私のダンジョンから分かれたので、成長限界もレベルⅡ。

 子に親は超えさせない。ダンジョンの防衛機能のひとつだ。

 

「はあぁぁ……」

「怒んないでよ? 私だって知らなかったんだから」

「怒りませんけど、計画が台無しじゃないですかあ……」

「ま、あんたは次の領主でもあるんだから、広い視点で何か考えるしかないじゃん。

 私もビレン領の知名度上げるために、そのうちダンマスだって発表するつもりだし、ヴァネんとこには有名人のユードラさんもいるんだから、うまく使いなよ」

「……わかりましたー。考えてみますー……」


 その後も、しばらくブツブツ不満を垂れ流して、ようやくヴァネは帰っていった。

 元々マイペースキャラだったけど、ダンマスになって自己中具合が増した気がする。

 ディオさんが引っ越してきたから、ほんとリムズデイルとの転移陣撤去しようかな。


 ディオさんが講演で「温泉ダイエット発祥の地」と棒読みしてくれたおかげで、「ビレン領のダンジョン温泉」の名は、王都でもほんの少しだけど知られるようになった。

 まあ、場所が場所だからお客さんが増えたわけじゃないんだけど、またバタバタするのはいやだから、そろそろ次の計画くらいは考えはじめた方がいいかもしれない。


 ヴァネには「そのうち」って言った「美少女ダンマスミリちゃん」のデビューも、方向性くらい決めといたほうがいいかな。

 「会えるダンマス」的な庶民派アイドル路線か、「遠くからでもお姿を拝みたい」的な高嶺の花路線か、あ、「見たらいいことがあります」っていう幻のダンマスっていうのはどうだろ? それなら、あんまし人前にでることもなさそうだし。


 とかゆるゆる考えてた翌々日。

 ディオさんが衝撃のニュースを運んできた。


「ユードラが、サロンダンジョンがファーレンにあることを発表したです。

 ヴァネッサちゃんがダンマスであることも」

「やりやがった!」


 いや、よく考えたら、私が口を滑らせてたんだけど、昨日の今日でそれやる?

 このあとうちが何をやっても二番煎じにもならない。

 だって、あっちはスパ完備の超高級サロンダンジョン、こっちはサウナ自慢の日帰り温泉ダンジョン。

 あっちは有名人二世の子爵令嬢ナイスバディダンマス、こっちは猟師の娘の平民ナイスボードダンマス。

 勝負になんないじゃん!

 ……なんだよ良い板って……。


 ――そうだった、元々別に仲良くしたいわけじゃなかったんだ。


「ディオさん。今日からヴァネは敵だ。

 公爵は泣かせられなかったけど、あいつは泣かせてやる!」

「ミリちゃん……、それヴァネッサちゃんが聞いたら大喜びすると思うです」


 今「ミリちゃん先輩と戦うんですかあ? 楽しそうですー」っていう幻聴が聞こえた。

 ……負ける未来しか浮かばない。


「やっぱやめた!」


 左様。真の強者はいらぬ戦いはせぬのだ。

 なんだかんだで付き合いも深くなったし、「ギリギリ仲間」くらいのポジションには置いといてやるか。


 そもそも、村のアイドルリリにさえ勝てない私が、「ダンマス」っていうだけで集客アイテムになれるはずないんだよ。


 この間、この国唯一のS級冒険者とかいう冒険者ギルドのトップが盆地の視察に来たんだけど、その帰りに温泉に立ち寄って、リリにデレデレになってた。

 「友達のドラゴンと殴り合うのがライフワーク」とか頭のおかしいことを言って、実際世界を渡り歩いてそれをやっちゃってる、ほぼ人外がだよ?


 リリはもう、「世界の孫」というふたつ名でも名乗ったらいいんじゃないかと思う。

 でも、誰にもやらんからな!


 ギルマスはネーさんの正体は当然知っていたけど、一目見ただけで「お見それしました」って深々と頭を下げたそうだ。

 どっかのバカみたいに舎弟化しなくてよかった。


 私が公爵の掌でダンスしているうちに、冒険者ギルドのニーニャ村出張所は動き出していて、うちの温泉にもB級冒険者がたまに来るようになった。


 「古龍の盆地」への挑戦の仕組みも決まった。

 それは、まず西の森の奥まで入って、ソロならBランク以上を、パーティーならAランク以上を討伐し、次に「ケット・シーは神」との模擬戦を行い、最後に魔法契約を結んでようやく盆地への入域資格が与えられるという、厳しいものだった。


 今のところ、ソロのA級冒険者が一人だけその資格を得たけど、盆地のワイバーンは他より強いらしく、まだお宝を手にすることはできていない。


 ネーさんが近づいただけで逃げるから、そんなに強くないイメージだったけど、あの盆地の魔力を浴びているんだから、そんなわけないの当然か。

 視察に来たギルマスは、襲ってきたヤツを瞬殺して、「なんでこんなのに手こずるんだ?」ったマジ顔で首を傾げてたらしいけど、あんたが特殊なだけだからね?


 その話を聞いて思ったんだけど、ネーさんから逃げるワイバーンが、ドラゴンと互角のギルマスには襲いかかったってことは、ネーさんはそのドラゴンよりはるかに強いってことだよね?

 ギルマスも頭を下げるわけだ。

 

 ああ、確かに自然現象だわ。やっと腑に落ちたよ。

 さっき、舎弟のジャンゴさんとまた腹パン遊びしてたけど、ジャンゴさん誰に腹パンしてるのかわかってんのかな?


 ちょうど受付前で高速腹筋してるから聞いてみよう。

 ジャンゴさんはバカなので、思いついたらどこでも腹筋をはじめる。

 うちの温泉の名物になりつつある。


「あ゛っ!? そんなのっ! 姐さんにっ! 決まってんっ! だろがっ!」


 そういうこと聞いてるんじゃないけど、質問した私がバカだった。

 あと、腹筋しながら答えなくていいから。

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