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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第5章 辺境ダンジョンのやかましい周辺

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8.踊らされたバカ者たちのお茶会

「ひどいです!」

「うん、私もそう思うよ? でも、言ってもどうしようもないでしょ?

 2ヶ月も経ったんだから、そろそろ毎日思い出し怒りすんのやめたら?」


 久しぶりに来たリムズデイルのカフェで、私はディオさんを宥める。


 あの騒動から2ヶ月。

 ディオさんはずっと怒っている。

 いや、基本はいつもとおんなじなんだけど、1日1回くらい、こうやって思い出しては鬱憤(うっぷん)をぶつけるのだ。私に。


 私たちは、あぶないダイエットを広めようとするコンチェッタ公爵を泣かすことを目指して色々頑張ってきた。

 けっこういいとこまではいったと思う。

 でも、講演会場に現れたディオさんの元上司によって、全部ぶち壊されてしまった。


 釈放されるときに1年間の出禁を言い渡され、ほぼ諦めていた私たちに、講演からおよそ1ヶ月後、学会から一通の封書が届いた。

 その冒頭に書かれていたのは、次のような一文だった。


「ディオニシア・ステファノプロスをB級魔導士に認定する」


 私たちは一瞬ポカンとし、そして狂喜した。

 一番評価を受けたのは、なんとあのプロジェクタ魔道具の表示安定化の魔道具で、その術式は、様々な魔法の大規模化に伴う弱点のカバーに応用可能な画期的なものだったらしい。

 今回の目玉を含むその他の魔法はCとD認定だったけど、そんなことはどうでもよくなるくらいの最高の結果だった。


 プロジェクタ魔道具の注文書まで添えられていた。

 

 ――そこまではよかった。

 でもその後に続く「通知2」を見た途端、喜びは吹っ飛んだ。


「B級魔導士ディオニシア・ステファノプロスをC級に降格処分とする」


 上げて、落とす。

 事務連絡なのに、悪意を感じる。


 処分理由は、器物破損だった。

 そんなのおかしいよね? ディオさんは攻撃を避けただけなのに。

 って思ったけど、次の説明を読んだら、渋々認めざるを得なかった。

 騒動の各フェーズに対する学会事務局の解釈はこうだ。


 ・質問者は無理解、無礼ではあったが、質問趣旨は講演内容に関するものであった。

 ・それに対し、講演者は理論で反論すべきところを、個人情報の暴露で返した。

 ・告発内容に関わらず、それは別の担当部署に行うべきで、講演の範疇を逸脱している。

 ・攻撃を回避するのは当然の権利だが、講演を行うのなら、その場での自衛手段は事前に用意されるべきであり、それを怠った結果、学会の器物を破損したことへの責任は免れない。


 聞けば、ディオさんが固まったのも、あのおっさんが精神干渉系の魔道具を使ったからだったらしい。

 実演が行われる会場なので魔法結界は緩く、弱い魔道具なら使用可能という点を突かれたかたちだ。

 でも、あの場を収めた司会の人も、A級魔導士だったらしいけど、ギリギリまで手をださなかったし、「そのくらい自分で何とかしろ」が前提なんだから、不本意ではあるが、反論できない。


 副長のおっさんは、魔導士資格剥奪。その後の調査で横領その他の罪も明らかになり、裁判を経て今は鉱山で働いているはずだから、処分としてはバランスも取れている。

 なので、処分の重さについてもクレームはつけられない。


 そんなわけで、初認定でB級は15年ぶり、即日降格は史上初、というある意味偉業を成し遂げた今のディオさんは、割とよくいるC級魔導士である。

 

「B級とC級は全然違うのです……」

「また頑張ればいいじゃん」

「ミリちゃんはわかってないです!

 ディオはもう頑張れないから怒ってるです!」

「まあ、そうかもしんないけどさあ……」


 ディオさんのトラウマリストに追加された「講演」。

 これを行わなければ、B級への昇格審査を受けることはできない。

 事実上、ディオさんの「永久C級」(語呂がいい!)は確定している。


 ほんとにあいつさえいなかったら……!

 

 でも、あの騒動が巷の話題となったことで、魔法薬ダイエットの危険性はだいぶ認知されたし、ダダリア栄養学の提唱者として、ディオさんの名前も知られはじめたから、全くの大損というわけでもない。

 一応当初の目的は達成したんだから、これでよしとするしかないよね。


「遅くなりましたー」


 遅刻したヴァネの声に振り返ると、意外な人物が立っていた。


「特別ゲストですー」


 女子会におっさん連れてくんなよ……。


「久しぶりだな」

「あ、はい。お久しぶりです、侯爵様」


 昔は呼び出されてちょこちょこお茶した仲だけど、直接会うのはほんと久しぶりだ。

 

「ユードラのところに来たら、お前たちが集まると聞いてな、久しぶりにミリの顔でも見るかと思って付いてきたわい。なあに、すぐ帰る」

「あ、それは、……ありがとうございます?」

「ふふっ。相変わらずのようで何よりだ」


 公爵は笑いながら、私の隣に着席した。

 すぐ帰るんじゃねーの?


「ま、色々あったようだが、とりあえずは成功といったところか?」


 公爵は、ニヤニヤ笑いながら私たちの顔を見回した。


「まあ、結果だけ見れば……」

「副長が……」

「ふたりは過ぎたことを引きずり過ぎですー。

 前向きにいきましょうよー。

 私は、邪魔者がいなくなって、絶好調ですよー」


 公爵の逃げ足は早かった。

 魔法薬ダイエット店は、講演の1週間後には全店が閉店した。

 陰謀説を唱えた公爵のお抱え医師は、だんまりを決め込んでいる。


「近々、新しく5店舗をオープンする予定ですー。

 独占状態になったので、ちょっとだけ値上げしようかなあって考え中ですー」


 やりたい放題だな。

 今回、一番おいしい思いをしたのはヴァネかもしれない。

 ちゃっかり、王都にダイエット市場を築きやがった。しかもライバルは撤退。


「それはやめておいた方がいいかもな」

「え? どうしてですかー?」


 「昨日送られてきた」と侯爵がテーブルに数枚の紙を放り投げる。


「えっ⁈ 何ですかこれはっ⁉」


 さっと目を通したヴァネが、間延びなしの声で叫ぶ。

 公爵が持ってきたのは、ダイエット店の開店告知チラシ。


 【痩身学の第一人者ステファノプロス博士の理論に基づいた画期的ダイエット!】

 【王都で開発された最新の運動魔道具を導入!】

 【有名シェフと公爵様主治医が協力して開発した、絶品ダイエット食のレストランを併設!】

 【西部方式はもう古い! 王都民なら王都式ダイエットを!】


「丸パクリじゃないですか!」

「ま、そうだな。だが法は犯しておらん。

 来月、15店同時に開店するそうだ。

 ちょっと調べてみたが、場所を聞きたいか?」

「……どこですか?」

「元のダイエット魔法薬店だ」

「ブッ!」


 思わずお茶吹いた。


「コンチェッタのヤツ、はじめからこれが狙いだったのかもな。

 いや、とりあえずちょっかいをかけてみて、お前たちの動きを見ながら作戦を決めたってところか」


 侯爵がぼそっとつぶやいた。


「どういうことです?」

「ディオが学会に提出した魔法、あれは全部認定されたな?」

「はいです」

「となると、認定と同時に公開されるわけだ」

「え、じゃあ……」

「そう。学会に使用料を支払えば、誰でも使えることになる。

 許諾権限は学会にあるからな。認定された以上、開発者は口出しできぬ」

「あっ!」

「学会の収入源だから、悪用や改編などがなければ、喜んで許諾するわな。

 お前のところにも近々金が入るだろう。

 公爵は、正規の使用料を払って、これまで購入すらできなかった魔道具のコア魔法を手に入れ、傘下の魔道具商会にそれを作らせている。

 それを使えば、ミニサロンなどすぐに作れる。

 王都はヤツの庭だから、ヴァネッサのやり方を王都流にアレンジすれば直にお客もつくだろうな。

 ――まあ、お前たちは公爵の店の露払いをさせられたわけだ」

「そんな……」

「さすがタヌキジジイ、やりおるわい」


 ハッハッハッ、と侯爵は愉快そうに笑った。


「なぜ笑っているんですか! 相手は王都貴族ですよ!?

 おじさまも関わったことじゃないですか!?」

「いや、儂はディオを学会につないだだけだ。

 いいか? 王都だろうと西部だろうと、エルフだろうと人間だろうと、敬意を払うべき者はいる。ディオやミリのようにな」


 見ないで! その敬意いらない!


「塊に見える遠い森でも、それを作っているのは木だ。

 将来領主になるなら忘れるな。集団ばかり見ていると目が曇るぞ」

「ぐっ……」


 絶句するヴァネ。珍しいので脳内動画フォルダに保存した。


「それにな、これはそんなに悪いことでもない。

 儂が動いているのは、もちろん西部のためだが、同時に国のためでもある。

 ファーレンは魔道具で活気づいているから気づかんだろうが、この国は停滞しておる。

 儂らが働きかけても、王が無能なせいで王宮が動かんのだ。

 まあ、今回の件で、王都の魔道具産業にも多少やる気が戻るだろう」


 貴族の話題はでかすぎてつまんない。


「王は凡人以下だが、王太子には見どころがある。

 次男は凡人で三男に至っては愚物だが、王太子だけはまともで助かった。

 あれが王になる前に、儂らおいぼれはできることをやっておかねばな。

 ま、お前らも頑張れ。

 公爵にケンカを売るにはちと早すぎたみたいだがな。

 はっはっは……」


 ガロヌ侯爵は笑いながら立ち上がった。


「邪魔をしたな。では、帰るとするか」

「……はい。お気をつけてー……」


 けっこう衝撃。


 最終勝者はコンチェッタ公爵。

 私たちはその掌で勝手に踊っていただけ。

 泣かそうとした公爵は、今頃大笑いしてるだろう。


「あーあ、です」


 ディオさんがカフェの天井を仰いだ。

 うん。もう「あーあ」しか出てこないわ。


「帰りましょうかー」

「だねー」


 私たちはとぼとぼと、でもなんか清々しいような変な気持ちで、カフェを後にした。

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