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5.引きニートの誘惑

 しばらくダラダラした。


 大幅にグレードアップしたコア部屋はとても快適で、前世から特に日光など必要としない私にとっては、惰眠をむさぼり放題の天国みたいな環境だった。

 

 私が大人しくしてるとコアちゃんも安心なようで、うとうとし始めるとスッと照明を落としてくれたりするから、もうこのままでもいいかなって気持ちになる。


 ダンマスボディなのでお腹は空かないけど、そういえば転生して何も食べてないなって言ったら、ロールパンくらいのサイズの白パンを出してくれた。

 「食べる必要がないのにどうして出せるの?」って聞いたら、『ダンジョンマスター候補の人とお話しする時に使います』とのこと。

 ダンジョン視点では、ダンマスの強制任命ってかなり非常識なことらしく、候補者説得時のおもてなしアイテムを出す能力がデフォルトであるんだって。


 無断でダンマスにされた身として、「そんなの聞いてません!」って抗議したら、『お水は出しました。それに死にそうだったじゃないですか』って冷静に返された。


 言うようになったね、君も。

 まあ、おっしゃる通りだし、出せるものは水とパンだけだったので悔しくはなかった。


 私は少し焦り過ぎだったのかもしれない。

 そういった細かいことも、ちゃんと確認しておくべきだったね。

 デビリンの行動パターンとか。


 4年以上見てきたんだから、そりゃコアちゃんは知ってるよね。

 それによると、デビリンが狩りに行くのは3~4日に一度。

 トイレは外。

 それ以外は寝てるというグータラっぷりだった。


 交友関係も聞いたけど、友達ナシ、彼氏ナシ!

 女子ですと!? ってびっくりしたけど、確認したら女子でしたわ。


 縄張りパトロールも兼ねているのか、狩りの時は半日以上外出するようだ。


 確認したら今日がその外出日だったので、その隙を狙って入口まで転移してみた。

 やり方は、転移場所の景色を思い浮かべて、そこに巨大な手で自分の体を運ぶように念じるだけ。

 言われるままにやってみたらあっさり出来て、何度か往復したら完全に感覚をつかめた。

 私って才能あるんじゃね?って自慢したら、『ダンマスなら当然です』だって。

 新米ダンマスなんだから褒めてくれてもいいのに。


 新設した泉も初めて直に見た。

 しっかり水量もあり、溢れた水が小川になって森の中へと流れ出していた。

 水は泉の底から湧き出していて、澄んだ泉の底で小石が動いているのが見えた。


 覗き込むと、少し揺れる水面に私の顔が映った。

 

 うん。地味。

 まあ、かわいいっちゃかわいい。

 一応ちょっとは期待したけど、こんなもんよね。


 転生担当の白いおっさんお薦めの聖女を選んでたら、きっとすごい美貌だったんだろうけど、ランダム平民だから、実に平民っぽい容姿だ。

 不老不死の私は、この先この姿で生きてゆくことになる。


 年齢は18歳くらいかな?

 ブルネットのショートヘア、目は明るい緑でややタレ目。

 コア部屋で確認済みだった平板な胸部装甲も含め、実にボーイッシュな見た目だ。


 ――この子はどこから来たんだろうか?

 私がこの体を使っているということは、元の持ち主は亡くなったということになる。

 デビリンに襲われたのか、他の原因があるのかわからないけど、この森のどこかで命を落としたんだろう。

 この子のことを知るすべがないのが悲しい。


 私は泉の水を掬い、顔をザブザブ洗う。


 そうだよね。

 この子の分までとか、おこがましいことを言うつもりはないけど、体を引き継いだ者の責任として、ちゃんと生きなきゃいけないとは思う。


 コア部屋に転移して、これからのことを考える。

 うーん。やっぱり外に出るしかないと思うんだよなあ。


 おうちをプチリニューアルしたとはいっても、デビリンが出て行かない保証はないんだから、次の手を早めに考えておかないと、万が一の時に手遅れになってしまう。

 ここから動けない以上、それは比喩じゃなくて命に係わる。


 少なくとも、ダラダラ引きこもるのはいかん。

 このまま快適な引きこもりを続けたら、私は確実に引きニート化するだろうから。


「ねえ、コアちゃん。やっぱり森に出ちゃダメかな?」

『……どういうことですか?』


 思いっきり不機嫌な声が返ってきた。

 

「あ、もちろん、安全第一で行くよ? この前みたいな無茶はしない。

 でもね、このままじっとしていてもデビリン頼みっていう問題をなんとかするためには、外に出るしかないと思うんだよ」

『デビリンちゃんはいなくなりません!』


 ちゃん呼び……。


「名前をつけてかわいいのはわかるけど、それはコアちゃんの希望でしょ?」

『で、でも、森に出るのは今じゃなくてもいいと思います』

「うん。確かに今すぐじゃなくてもいいかもしれない。

 けど、引き伸ばして何かが変わる?」

『う……。それは……、変わらないと思いますけど……』

「じゃあ、早い方がいいと思わない?」

『……。…………ます』

「え?」


『わたしが行きます!』


 コアちゃんがキレ気味に変なことを叫んだ。


『だって、マスターは異世界人だからこの世界のこと知らないじゃないですか!

 何が危険かわからないのに、安全第一なんて言わないでください!』

「いや、そこはコアちゃんが教えててくれれば……」

『ダンジョンを出たらリンクが切れるんですよ?

 念話も通じないし、私がわかるのは、マスターが生きているかどうかだけです!

 マスターはわたしが知らないところで、勝手に動き回るに決まってます!

 だから、行くのならわたしが行きます!』

「そんなことしないから!

 だいたい、コアちゃん動けないでしょうが!」

『分体を作れば動けます!

 DPが少ないので弱くなっちゃいますが、それでもマスターがひとりで行くよりマシです!』

「ちょっと待って!」


 なんか爆弾発言が聞こえたんですけど。

 一旦落ち着こう。

 私は深呼吸を3回してから、コアちゃんに確認する。


「分体って何?」

『ダンジョンマスターがダンジョンを長期間離れるケースを想定して用意されている機能です。

 この移動体を用いることによって、コア本体は分体の視覚・聴覚を共有することができるため、情報を素早く確認し、訪れる冒険者などに対する準備を行うことが可能になります』


 コアちゃんがマニュアルを読むような口調で答えた。


「じゃあ、コアちゃんも外に出られるってこと?

 でも、その分体を作ったら、コアちゃんに悪影響とかないの?」

『現在のDPの20%を使用しますので、コア本体は一回り小さくなります。

 本来はDPが十分増えてから作成するものですが、わたしのDPは少ないので、分体も強度のない小さなものとなります』

「じゃあ、やめておいた方がいいよ」

『大丈夫です。

 強度がなくても、分体は転移が使えます。

 それに、独立した人格が状況を瞬時に判断できるので、危険を感じたらすぐに戻って来られます』

「え? 独立した人格?」

『質問は後にしてください。作成します。もう決めましたから。

 マスターはしばらく後ろを向いていてください』

「え? なんで?」

『は、恥ずかしいからです!』

「あ、はい……」


 コアちゃんの羞恥心の基準がよくわからないけど、私は言われるままにクリスタルに背を向けた。

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