12.その名はミーシャ!
盆地に走っていったホーさんは、やるべきことを覚えていたらしく夕方に戻ってきた。
「山は冷える」と温泉に入った後、村行きの最終馬車に乗った。
「仕事が増えたから、カレルに色々押し付けないとダメだ!」
もう「押し付ける」って言っちゃってるし。
これ以上押し付けたら、カレルさん死んじゃう。じゃなかったら、ホーさんがカレルさんに殺されるか。
それでも、ダメ領主は仕事が早い。
翌朝、妹弟子の転移陣で隣領の領都リムズデイルに跳ぶと、お昼前にはもう戻ってきた。
私は朝イチでカレル村長から連絡がきて、ディオさんと村の集会所に呼ばれたのだが、着いたときにはホーさんはもういた。
隣には恐らく徹夜明けのカレル村長。転移陣番のディオさんもいる。
カレルさんのボロボロっぷりがすごい。目の下には巨大なクマ。
ミーシャと名付けよう。クマだから。左右2頭いるけどまとめてミーシャ。
そんなことを考えながら、ディオさんの隣に着席。
「えーと、全員揃ったから、結論だけ言うと、冒険者の手配はOK。ただし来るのは1ヶ月後になる。来るのは8人で、全員リムズデイルの冒険者。
ギルドには10年分先払いしてきたから当分警備は心配ない。
受け入れの準備は、カレ」
「殺すぞ、てめえ!」
殺される方だった! 領主に対する敬意とかもう微塵もない。
「じゃなくて、……ディオでいいや。んじゃおいらは仕事があるから」
「てめえの仕事はこっちだろうが!」
つかみかかるカレルさんの腕をかいくぐり、ホーさんは走り去った。もうお約束。
「あの野郎……! いつかマジでぶっ殺す……」
「……ディオ、手伝うです」
「いや、転移陣使わせてもらってるだけで、ディオちゃんは十分役に立ってる。
俺の方でなんとかするよ。
第一、12かそこらの女の子に、冒険者の相手をさせるわけにいかねえだろ」
12歳?
私が見ると、ディオさんはサッと目をそらした。
ったく、こっちはこっちで50歳もサバ読んでるし。
ディオさんは私より重度のヒトミリシーだから、子供ムーブしてた方が怖くないのはわかるけど、鯖50はないでしょ、50は。
「私も手伝うよ。ディオさんとふたりでやればなんとかなるでしょ。
ディオさん、いやディオちゃん12歳も、12歳だけどネーさんの12歳の弟子だからけっこう強いと思うよ?」
「ミリちゃんひどいです!」
「ひどくないですぅ」
あー楽しっ。
「ミリ、なんだかわからんが、ちっちゃい子いじめんなよ?」
「ブフッ!」
村長やめて、ツボる。
「そ、それより、さっきの話、概略しかわかんないんだけど、詳しい話聞いてる?」
「ああ、あれな。
んーと、最初っから言うと、まず、ギルドに行って依頼出したら、相場の10倍くらい吹っ掛けられたらしい」
「10倍? ホーさん3倍くらい出せばなんとかるって言ってたけど」
「ああ。冒険者が少ねえのはホントらしくてな。
こっちに人出してもいいけど、そうするとファーレン分は外から応援頼むしかねえから、その分の金を出せって話だ。
緊急依頼費だの移動費だの宿代だの、〆て10倍だとよ」
「ふっかけすぎです!」
だよね。中抜きする気満々。
「でもホーカスのやつ、それがどうしたって感じで、なんかすげーお宝出して黙らせたらしい。教えてくんなかったけど、8人を10年雇っても、おつりくるようなもんなんだとよ。
ミリ、なんか知ってるか?」
「……ああ。多分ホーさんが盆地で拾った龍のうろこだと思うよ?」
一瞬考えたけど、喋る。
契約があるけど、カレルさんは関係者。知る権利がある。
私の契約違反の罰は魔法デコピン100発という重いものだけど、デコに何の衝撃もないから契約的にもセーフみたいだし。
実は、喋った後、ビビって身構えてた。
「あの野郎、そんなの隠してたか。
盆地とやらで遊んでんのも、全くのムダっつわけでもなかったわけか」
「甘やかしちゃダメだけど、けっこういい場所だから、こんどカレルさんも見てみるといいよ」
「だな。考えとくわ」
「うん、じゃあ、今日はそんなとこかな?」
「いや、あともう1個ある」
話はまだ続くようだ。
12歳児(笑)が「お腹空いたです!」と主張するので、いったん休憩を挟むことにした。
ダンマスボディはお腹減らないから忘れてたけど、ディオさんは朝から食事の時間はなかっただろうから、その主張はごもっとも。
もうダンジョンに戻るの遅くなってもいいや。
ゆっくりお茶したあと、腰を据えて、こっちでやることを片付けてしまおう。
村長に連れられて村を歩く。
前はおばあちゃんがやっているよろず屋が一軒だけだったお店も、数軒にまで増えていて、そのよろず屋は薬屋になってた。
おばあちゃんは元々村でたったひとりの薬師だから、これがあるべき姿と言っていい。
道の先には宿屋っぽい大きな建物が見える。
食堂も2軒あって、お昼のお客さんで賑わっている。
人もだいぶ増えたなあ。
色々変わっていてキョロキョロしてしまう。
「ああそっか、ミリは、村に来んの久しぶりだったよな。
だいぶ変わっただろ」
「うん。なんか発展してる。ちょっと変な感じ」
「がははは! 確かに変っちゃ変だわな。
あの誰も来ねえ村に、宿ができんだもんな。しかも3階建てだぞ?
ありがとよ」
「え?」
唐突にお礼を言われてカレルさんを見たら、ニヤニヤしてたので、頷いて目をそらした。
連れていかれたのは、その宿屋の1階にある食堂だった。
イメージにある「中世の宿屋の食堂」って感じで、実に風情がある。
転生してからだいぶ時間かかったけど、見られて満足だ。
昼の定食は1種類のみ。
肉・野菜・パン・スープ。ボリュームたっぷり、盛り付け雑! これも風情がある。
お付き合いで私も頼んだけど、魔物の肉じゃないので、ダンマス舌にはいまいち合わない。
がっつくディオさんにパスした。
カレルさんもディオさん並みのスピードでがっついていてびっくりする。
――いや、逆だ。おかしいのはディオさんであって、カレルさんは普通だった。
はっ! そうか、こうやって私の常識は失われていったのか!
「参った! ディオちゃんすげえな!」
私が衝撃の事実に愕然としているうちに、勝負は決着したようだ。
てか、いつの間に勝負始まったんだよ!
「勝ったです!」
「太るよ?」
ガーン!ってなった。
栄養学の大先生が、パン何皿おかわりしてんだよ。
まあ、トレーナー的には、チートデイってことで許してあげよう。
この頃はずっと安定してたから、これでスイッチが入ったりしないように、一応あとで注意するけど。
集会所に戻ってさらに食休みををした後、ようやく午後の部が始まる。
「んで、別の話っつうのはこれだ」
そう言ってカレルさんは私に一通の手紙を差し出した。
「ファーレンギルドの俺に嫌味言った職員が、嫌がらせでこっちへの配達物止めてやがってよ、ホーカスが溜まったやつ引き取ってきた」
何その粘着質?
「男爵様が文句付けたから、その場で降格だとよ。
ご機嫌取りにギルド支部長はクビを言い渡したんだが、ホーカスが撤回させたって。
職員、降格なのに感激して泣いてたらしいぞ」
「甘くない? 判断ミスだと思う」
「ばーか、そんなねちっこいヤツ、クビにして逆恨みでもされたらそっちの方が面倒だろうが」
「あ、そっか」
好判断に訂正。
「ま、そっちはどうでもいい。
で、その手紙、差出人見てみ?」
アーノルドさんからだった。
「ホーカスにも来てたんだが、見ねえで鞄に放り込んでたから、ミリのを確認してもらった方がいいんじゃねえかと思ってな。
アーノルドっつうことは、盆地がらみだろ?
さっきのお宝の話聞いたら俺が関係する話になるかもしれねえ。
そんなの直前に言われても、対応できるかっつうの!」
ミーシャ荒ぶる。
でも、それは名判断。好判断より上だ。
私は手紙を読む。
「――えっと、特にカレルさんの仕事が増えそうなことは書かれてなかった」
「そっか、助かった。
でも、ホーカスの野郎、油断してっといきなりぶっこんでくっからな。
気を付けとく」
「うん。で、内容聞く?」
「あー……、聞いとくか」
まだちょっと警戒する村長に苦笑しながら、私は概要を話す。
「えーっと、お宝は鑑定の結果、本物の古龍のうろこと確定、それがばらまかれている様子から、ワイバーンの群れとの戦闘跡と想定、名前を『古龍の盆地』と決定、貴族への報告は行わず、ギルド内でも限定した者以外には情報を秘匿。
決定者は冒険者ギルドの副本部長。えっ? チェルさんの息子さんだって!」
「あの姐さん、ただもんじゃねえとは思ったが、すげえコネ持ってたな!」
「びっくりした!
で、内容はそんなとこ。
春になったらみんなこっちに来るって」
「おお、A級パーティーがいれば、クズ冒険者も大人しくなるな。
あ、ジャンゴも来んのか……」
問題児はネーさんが何とかしてくれるでしょ。
そんな感じで、午後のミーティングはわりかしサクッと終わった。
役場に戻ってなおも仕事を続けようとするカレルさんだったが、ディオさんの風魔法で拘束され、温泉に強制連行された。
ディオさんは魔法制御の腕を着実に上げていた。




