9.お宝よりお風呂
しばらくして硬直が解けたアルバートさんたちも復帰し、車座になって話を再開する。
さっき手つかずの平地を見たホーさんが、開拓マニアとして熱くアピールする。
「かめへんで?別にあたしの縄張りやないし。
ま、この寝床あたりはまんまにしてほしいけど、池のあっち側やったら、好きにしたらええんとちゃうか?」
「ほんとですか⁉」
ホーさんの息が荒くなる。
キモいので、土地の話聞いてハアハアすんのやめてください。
「でも、きっと魔物がいるですよ?」
「……ヮィ……」
「え?なんて?」
「右手奥の崖にワイバーンがいたそうです」
カーチャさんの通訳経由で、超視力マリアベルさんからの重要情報。
「ほら、言った通りだったです!」
「ぐっ……」
絶句するホーさんに、ネーさんから朗報がもたらされる。
「あのあたりに行かんかったら問題あらへんぞ?
このあたりは、山が険しいてどっからも入ってこられへんから、そこそこの魔物っちゅうたら飛びトカゲしかおらん。あたしが行けば逃げよるし、あとは小物ばっかや。
ほんで、そのトカゲは、食いもんあらへんから、外にメシ獲りに行って、ここには寝に帰ってくるだけや。
あら? あたしも似たようなもんやったわ! あはははは!」
「おお! さすが師匠!」
そこは「いえ、師匠はワイバーンとは違います!」でしょ。いや、それ以前に冗談にマジ返しした時点で失格か。
ネーさんは気づかずに「せや、さすがあたしやろ」って喜んでるから別にいいけど。
「あの、ひとつ質問していいですか?」
その時、アルバートさんがおずおずと挙手した。
「話は変わるんですが、さっきネー様がおっしゃったゴミって、どこにあるんでしょう?」
ここでゴミの話?
「ん? まとめて奥に押し込んどいたとちゃうかな?」
「待って!」
私は思わず会話を遮った。
今、聞き捨てならんこと言ったね?
「奥に押し込んだ? 分別は?」
「知らんわそんなん。気になるんやったら、自分で見てきいや」
「そうします!」
「ちょっと待つです……」
憤然と立ち上がろうとする私を、ディオさんが呆れ声で止めた。
「ミリちゃん、いいですか?
忘れてるみたいだから言うですが、ネー師匠は古龍で、そのゴミはお宝です。
さっきマリアベルちゃんが拾ったうろこの価値知ってるです?」
「……あ」
見回すと、生暖かい視線を私に向ける人々。
……またやっちまった……。
デビリンのアサインミスの時と同じじゃん。
「デビリン=もふもふペット、ネーさん=常連のおばちゃん」じゃなくて、いや、そうではあるけど、世界の常識は「デビリン=脅威度Aの魔獣、ネーさん=伝説の古龍」だ。
「……どうぞ、見てきてください。
ネーさんいいよね?」
私は後でいいや。常識ないから。
「ええけど、におったらあかんで」
お宝じゃなく、ほんとにおばちゃんのゴミだった場合を想像したのか、期待を込めて立ち上がったみんなの顔が、微妙に曇った。
そしてしばらく後、洞窟奥から戻ってきたみんなは、また元の位置で車座になっている。
テンションは低い。
「無理……。俺たちの手に負える話じゃない」
おばちゃんの不分別のゴミの山は、ちゃんとお宝だったようだ。ただ、お宝過ぎた。
対策を練ろうとはしているが、議論は前世の国会みたいに先送りに大きく傾いている。
私はそれに加わらず、ちょっと離れたところで、ネーさんとコソコソ話している。
「ネーさん、腐るものもプラもなかったから、分別はしなくていいよ。
でも、お家の中にゴミ貯め込むのはナシ。
毎日とは言わないけど、ゴミはなるべく小まめに外に捨てること。
このままだと、ゴミ屋敷ってやつになって、ゴミの上で寝ることになるよ?」
「それは勘弁やな。わかった。で、ぷらっちゅうのはなんや?」
「あー、気にしないでだいじょぶ、なかったから」
そう。問題はプラじゃなく、あの量。
遅れて見に行ったけど、なんかもう、多すぎて一瞬で引き返した。
アルバートさんとは別の意味で、私の手にも負えない。
でもまあ、方法はなかなか決まらないようだけど、引き取り手はたっぷりいると思うから、そっちにお任せでいいか。
私はいらないし。
ダンジョン的には優良DPアイテムかもだけど、すでに本体がいる。
売って現金化しても、そんな大金の使い道は魔石しかない。
その魔石は、魔道具の売り上げマージンとして、もう十分もらっている。
それに、そんなヤバいもん持ってたら、絶対にお貴族様出てくる。
ね? いらないでしょ?
車座の結論は予想通り先送り。
ここにいる面々で、魔法契約を交わすことだけ決まった。
あとは持ち帰って、情報の扱いも含めてじっくり検討するそうだ。
私も当事者ではあるから、気が乗らないけど、サインはする。
そろそろ寝るわ、と龍形態で丸くなるネーさんにおやすみを言って、私たちは静かに盆地を後にした。
お宝を大発見して落ち込むという、珍しいツアーはこうして終了した。
ジャンゴさんだけはずっと元気だった。
翌朝、緊急会議のために、一行は難しい顔で村に向かった。
私は「貴族バレだけは絶対なしで!」とだけ念押しして、通常業務だ。
「ミリ、ちゃんとゴミ外にほかしてきたで!」
ネーさんも上機嫌で定時出社。
「え? 全部?」
「いや、手前のヤツだけや」
まあ、あの量だからさすがに無理か。
「それでも早速えらい!」
「せやろ?
ほなら、いよいよあっちに掛からなあかんな!」
「あっち?」
なんかあったっけ?
「ミリィ、まさか忘れたんとちゃうやろな?
風呂や。風呂直すっちゅう話やったやろが!」
あ、そうでした。
「あたしは約束守って盆地案内したのに、それはあかんやろ。
勝手にやるな言うから待っとったけど、やらんならあたし自分でやるぞ?」
なんかゴゴゴっていうオーラ出てる。これはマズい。
「いや、忘れてないから待って!すぐやるから!」
「ほんまか?」
「ほんま! 今からやる。
とりあえず、細かい希望教えて?」
お宝だのお風呂だの、ほんとにせわしない。
でも、考えてみれば、ダンジョン改造はダンマスにしかできない仕事だから、ちょっと張り切っちゃいますか。
ネーさんはダッシュで朝湯を済ますと、私の隣に座った。
ネーさんがいるとカスハラがないので、受付をしながらでも話は進む。
時々コアちゃんに念話で相談しながら、私たちは改装計画を詰めてゆく。
そのコアちゃんが暴走した。
ダンジョンの滞在DPの大部分をもたらしてくれるネーさんは、コアちゃんにしてみれば絶対服従の神様お客様。
気持ちのいいほどの忖度で、主にセンス面で修正を図ろうとする私の意見を徹底的に潰した。
DPはあるので、コスト面での抵抗もできなかった。
まずは、男湯。
時間帯によっては混雑がひどかったので、バンと拡げ、100人くらいが同時に入浴できる大浴場とする。
内装は洞窟スタイルから変更なし。サウナもまんま残した。
そして、奥の扉の外に露天風呂を新設する。
厳密には「露天風」なんだけどね。
20人規模で、めんどくさいので周りはただの岩場。まあ、見た目はそれっぽい。
ネーさんも使う女湯はだいぶ気合が入っている。
内訳は内湯3つと露天風風呂。
内湯はそれぞれ、「南部風の木材を多用したしっとりした雰囲気の香木風呂」、「神話の宮殿風の黄金風呂」、「これまでのイメージの洞窟風呂。ただし石材グレードアップ」で、露天は南部森林がテーマのジャングル風呂になる。
これは多分、弟子2号ことディオさんへの心遣い。
女性専用サウナも残して、こっちはちょい拡張。
そんで改装の目玉がサウナ、ネーさんのいう「蒸し風呂」である。
100人規模のすげーでかいのができる予定だ。
男女共用で全裸禁止、サウナ服着用の施設だ。
個人用の座椅子が並べられ、隣を気にすることなく、好きなだけ汗を流せる。
併設の水風呂にはお肌しっとり成分を含む冷泉を流す。
ちなみに、サウナ服はディオさんの商会経由で、リムズデイルの服屋さんに発注済みだ。
あとは、休憩所。
ここだけは普通。よかった。
いずれ軽食と飲み物も出したいので、店舗スペースは作ってある。
この内容で決定。
――完全にやりすぎです。
そして懸念もひとつ。
「これ、どうやって作ったか聞かれたらどうんすんの?
ダンジョンだってまだ秘密なんだよ?」
「あたしは、隠さんでもええ思うけどなあ。
まあ、今んとこはあたしが全部作ったっちゅうことでええで?」
「そんなんでみんな納得する?」
「するがな。あたしの魔法やぞ?
そんでも文句言うやつは、ぶん殴ったらしまいや」
「やめてね?」
もうそんでいいや。
ネーさんが責任持つって言うんだから、何かあったらネーさんに対処してもらおう。
となると、ネーさんは常連客からスタッフ入り決定だな。もちろん施設責任者で。
さすがに工事期間がないとマズいので、温泉は一週間休業することにした。
本当に工事するとしたら一週間で終わる内容じゃないけど、まあせめてもの言い訳ってことで。
告知を経てやってきた改装休業日初日、本気を出したコアちゃんにより、改装は2時間で終わった。




