4.その名はデビリン
今回の失敗の原因は、能力というか、ダンジョンと私ができることについて、私が何も知らなかったことにある。
コアちゃんの5年間とか、私の転生のこととか、お互いを知ることが先だったというのもあるし、ダンジョンの窮状に焦って、私の意識が外に向いてしまったせいでもある。
コアちゃんが説明してくれようとしたのをぶった切っちゃったし。
というわけで、コアちゃん先生に色々教えていただきました。
ダンマスはダンジョン内ならどこにでも自由に転移できること。
コアはダンマスをダンジョン内のどこにでも自由に転移させられること。
ダンジョン外ではコアとの念話が通じないこと。
ダンマスがダンジョン内で「死んだ」場合は、復活にコストはかからないけど、死んだのがダンジョン外だと、1000DPが必要になること。
どれも、事前に知っておくべき話だった。
体を張らなければわからなかったことと言えば、コアちゃんから掛けられた魔法がダンジョンを出たら解けてしまうことくらいだ。
これはこれで重要なんだけど、森での安全確保ができないという悲しいお知らせなわけで、ちっとも嬉しくなかった。
『だからですね、何かやる前にはちゃんと相談するって約束してください!
約束してくれないなら、この部屋から一歩も出しませんから!』
「はい……」
ああ、そうだ。こっちの方が大きい。
コアちゃんが、コミュ障陰キャっぽかったキャラから、すっかり脱皮してくれたことこそが今回の最大の収穫だよ。
なんつうか、しっかり者キャラで口うるさいけど。
体があったら絶対メガネかけてると思う。
ダンマスを獲得したことに安心して「先のことはゆっくり決めればいいか」って思ってたコアちゃんと、「ダンジョン消える、死ぬ」って焦ってた私。
その意識のズレからくる問題は、これでひとまず回避できる目途が立ったと思う。
『わたしがちゃんとしないといけないってわかりましたから!』とか、クズ男の彼女みたいなこと言ってるけど、いいですよ、これから行動でクズじゃないことを証明してあげますから。
まず、目標を決めなければならない。もちろん、コアとダンマスが共有する目標だ。
隠し事なしってことで、それぞれの希望や心配事や知識を、一回全部テーブルに乗せてみる。
その上で、優先順位をつけて、ひとつずつ問題の解決を図っていきましょーということになった。
もちろん最大の問題は、このままじゃジリ貧だということだけど、それはすぐにどうこうできる話ではないので、一旦脇に置く。
そうやって考えてみたら、私が一番になんとかしたいのは居住性だと思い至った。
だってさ、ほぼ外に出られないこと確定しちゃったんだよ?
家具ひとつない岩むき出しの床で寝起きするとか、牢屋以下だと思うでしょ?
理想は広い草原に立つ一軒家。ダンジョンの階層に草原は欠かせない。
人懐っこいスライムとかポヨポヨ跳ねていれば最高だ。
『現実的ではないです。
ダンジョンで階層を増やすには最低500DP必要になります。そこにパーツとして家を置くには、さらに50DPくらいかかります。
現状ではその維持費を賄うことができないので、作ったらこのダンジョンは2年以内に消滅してしまいます』
そっこーで却下された。
DP、DP、DPですか。
世知辛いのう、異世界も!
落ち込む私を見かねて、コアちゃんがフォローしてくれる。
『大丈夫です。この部屋の改造ならできます』
「……でも、お高いんでしょう?」
『コアルームなのでDPはかかりません』
「買います!」
そして、あっという間に、コア部屋は快適空間へと生まれ変わった。
床は石張り。テーブルも椅子もベッドも棚も全部石だけど、座面とベッドのマットはウレタンっぽい厚い異世界素材で、使い心地には全く問題なし。
照明は壁自体が柔らかく発光しててすごくおしゃれである。
もちろん空調完備。
多少殺風景ではあるけど、さっきまでを思えば夢のようだ。
しかも、これ、タダですよ奥さん!
少しDPを使えば洞窟部分でも少しできることがあって、コアちゃんは『そのくらいなら』って言ってくれたんだけど断った。
階層とダンジョンモンスター以外には維持費は掛からないって言われて、少し心が揺れたけど、今は1ポイントでも節約しなきゃだからね。
満足です。
ダンマスはダンジョンにいる限り飲食不要なので、これでしばらく引きこもれる。
一方、コアちゃんの心配は、デビルズアームがいなくならないかってことだった。
私が色々言ったせいで不安になったようだけど、魔物の存在はダンジョンの生き残りに不可欠だから、できるだけの対策を取ることは最重要課題だ。
これはDPを使うべき対象だと思う。
できることをふたりで考えた結果、魔物の住環境も整えることにした。
コア部屋のベッドを見て、『デビルズアームのベッドってどうでしょう?』ってコアちゃんが思いついたのがきっかけになった。
もちろん、全面的に賛成した。
魔物だろうが人間だろうが、快適な生活環境を喜ばない生き物なんていない。
前世の実家の猫も、お気に入りのクッションがあったし、あれだけ睡眠時間が長いんだから、きっと気に入ってくれるはずだ。
モニタで確認したら、魔物はまた丸くなって眠っていた。
今日は完全休養日らしい。
早速コアちゃんが、魔物が寝ている場所の床をベッドと同じ素材に換える。
一瞬ピクっ動いたけど、起きることはなかった。
よしよし。ゆっくり眠りなさい。
そして目覚めた時の体の軽さを実感するがいい。
ついでに空調も整えた。
外に面しているから、室内みたいなわけにはいかないけど、それでも夏冬には過ごしやすさが違うはずだ。
最後に水場を作った。体格を考えて、そこそこの大きさと深さがある泉タイプにした。
場所は、入り口の出っ張った岩の陰。さっき私が身を隠したところだ。
ダンジョン内部の小改造ってことで、5DP掛かったけれど、維持費には影響がないとのことなので、今までのお礼も兼ねて設置させていただいた。
魔物がいないときには私も使わせてもらおうと思う。
水は、頼めばコアちゃんが出してくれるけど、水場でじゃぶじゃぶ顔を洗ったりしたい。
魔物さんいつまででもいてください作戦は、以上で完了。
気に入ってくれたらいいけど。
あとで何か思いついたら、DPと相談しながら順次追加していこう。
その後、モニタ越しに大きな後ろ姿を眺めていたら、なんだかかわいく思えてきて、「デビリン」って名前を付けた。
うっかり名付けて眷属にでもなったりしたら、DP収入がなくなるかもって心配したけど、相手の同意がないと眷属化はできないから問題ないそうだ。
あ、名付け親はコアちゃんだからね。
嬉しそうなので特に突っ込まなかった。
デビリン様、今後ともうちのダンジョンの収入をよろしくお願いします。
私は巨大なヒップに手を合わせた。