4.あっちの森対策
「だから、何で銅貨と大銅貨の区別つかないんですか⁉」
「おんなじやんか」
「それは材質! 違うでしょ、大きさが!」
「うっさいなー、そないな細かいとこどうでもええやんか」
「よくないです!
大銅貨出した人におつり渡さないで、さらにお金要求したらダメしょうが!」
「だって、ミリ、茶色いヤツ3つ言うたやないか。1個しか出さんかったらもっと出せ言うの当たり前やろ!
ちゃんとやっとんのに何で怒られなあかんねん。やっとるちゅうねん!」
使えないバイトの逆ギレかよ!
「じゃあやらなくていいです! 大人しくお風呂に入っていてください!」
「嫌や、あたしはやるって言ったからにはやるんや!
ミリこそ風呂でも入っとれ!」
「だったらちゃんとやってください!」
「だから、やっとるやろが!」
「やってません!」
「どこがや⁉」
「だーかーらぁ! 大銅貨と銅貨の――」
さっきまで、私とネーさんは不毛な言い合いを続けていた。
転移してきたディオさんが取りなしてくれて、今は落ち着いた。
ディオさんが来なかったら、無限ループにはまっていたかもしれない。
過大請求をされたのが常連さんで、「姐さん初めてだからしょうがないよ。俺代わるから、ゆっくり説明してあげて」っていう神客だったのものラッキーだった。
じゃなかったら炎上案件だ。
もちろん前世とは違うけど、こっちの世界にも炎上はある。むしろ娯楽が少ないせいで長引きそうだから、気を付けとかないと。
そういった意味では私も悪かった。
開店時の混雑が終わると、すぐに任せて別の仕事しちゃったし、お客さんの目の前で注意したのも失敗だった。
さっきお互いに謝って、仲直りした。
ネーさんが根に持つ人じゃなくてよかった。
常連さんもようやくお風呂に向かった。当然お代はいただかない。
ただ、仲直りを「手打ち」っていうのはやめてね。「姐さん」じゃなくて「ネーさん」だから。
今は無事いっしょに受付をしている。今日はこの体制でいくしかない。
なお、接客スキル皆無のディオさんは、裏で大人しく魔導書を読んでいる。
どうしてこんなことになったかというと、前半の当番だったお姉ちゃんが、急にお父さんといっしょに出かけてしまったからだ。
調査チームのメンバーを聞くと、「足りない」って言い出し、斥候役に立候補したのだ。
父さんも了解したし、それはそうなのかもだけど、お姉ちゃん、ほんとは猟師に戻りたいんじゃないかなって思った。
自分から温泉手伝うって言ってくれたからって、考えもせずに甘えてちゃダメだよね。
帰ってきたらちゃんと話そう。
でも、そうなると例のフラグが気になるんだよなあ。
父さんがやる気を出してたから、その場では黙っていたけど、注意しとけばよかった。
だって、「森の様子が……」って、マンガじゃほぼスタンピードの予兆だからね。
うわ! 今思った「帰ってきたらちゃんと話そう」っていうのもフラグじゃん!
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」的な。
どうしよう。お姉ちゃんに何かあったら私のせいだ……。
急に不安になった私は、隣でボーっとしているネーさんに話を聞いてもらった。
「ああ、そゆことか……」
話を聞いたネーさんは微妙な顔した。
「どしたの?」
「怒らんといてな?
それな、多分あたしのせいやわ」
「え?」
「あたしがここに来るとき、森の上飛んだやろ?
ほんで、ビビった魔物が逃げよったんや。
あたしが来とるからこの辺は何もないやろけど、村の向こうやったか?あっちにはなんか出てくるかもしれんな」
「そういうことですか。
怒りませんよ。ネーさん悪くないもん。
それより、お父さんたち。もしかしてヤバい状況?」
「いや、今んとこは問題ない。出ても猪くらいや」
「よかった……」
私はホッとため息をついた。
「今はってことは、このあとは問題あるですか?」
話を聞いていたディオさんが、バックヤードから顔をのぞかせた。
「どうやろな。
魔物の動きはようわからんからな。
でもまあ、冬が終わって動きが活発になったら、人間にが手こずるようなのの1匹や2匹は出てくるんとちゃうか?」
「それマズくない?」
「ちゅうても、ここの熊の子ぉよか弱いヤツやぞ?」
熊の子ことデビリンは、超絶モフモフだけど、確か脅威度Aだったはずだ。
それより弱いってことは、脅威度Bまでは可能性があるってことか。
「ディオさん、脅威度Bってどのくらい?」
「魔物単体なら、王国軍なら小隊で対応できるくらいです。
でも、この辺りには王国軍は来てないです。
子爵領に騎士団はあるですが、正直弱いです」
「男爵領は?」
「猟師しかいないです。脅威度Bはちょっと無理だと思うです」
「だめじゃん!」
村の危機っぽい。
私は期待を込めてネーさんを見る。
「心配すな。出たらあたしが始末したる」
「ですよねー。よかったぁ……」
安心したが、そこでおしまいにはならなかった。
「でも、そうすると、ネー師匠のドラゴン形態が見られることになるです。
春にはユードラも帰ってくるので、バレる可能性大です」
「あー、そっちがあるかあ……」
「なので、ネー師匠は最後の手として、男爵領で対応するのがベストだと思うです」
「なるほどな。弟子2号、頭ええやないか。
おーい、1号ー」
「――お呼びでしょうか師匠!」
呼べばすぐ来る弟子1号。
「お前領主やったな。なんとかせい」
「はいっ! かしこまりました‼」
イエスマンが過ぎる。
師匠も丸投げが過ぎる。
「兄弟子、バカだったです。
ネー師匠もちゃんと説明するです」
ディオさんが呆れたように言った。
うん。妹弟子、早速いい仕事した!
「せやな。じゃあざっくり話すとな――」
話を聞いて、ホーさんは領主の顔で頷いた。
「わかりました。おいらが対処するです。
師匠の姿をさらすわけにはいきません。
Bランクなら、おいらの土魔法でいけると思うんですが、念のため援軍も呼んでおいた方がいいですね」
「ファーレン領です?」
「いや、こっちだけで対処したいから、それはナシだ。
となると、冒険者か。
でも、おいら冒険者の知り合いなんていないしな。
誰か知ってるか?」
「あ、うちの母さん元冒険者だよ?」
「ほんとか⁉」
「うん。でも昔のことだし、C級止まりだったからなあ……」
「レイチェルに聞いてみるといいです」
「あ、チェルさん!」
忘れてたわ! ディオさん、今日冴えてる!
チェルさんなら、王都の高級冒険者宿のオーナーだから、冒険者のことなら何でも知ってそうだ。
たった一人の仲良しの会員さんだったけど、「これまで頑張った自分へのご褒美に」って、ちょっと無理して入会してたらしく、1年間ちょくちょく利用したあとは更新しなかった。
その後全然会えていないから、久しぶりに会いたい。
「宿の名前は聞いてるから、手紙で相談してみる」
「それじゃ遅いです。手紙はディオが転移して配達するです」
絶好調ディオさんはまさかの行動力を示し、ネーさんをチラっと見た。
わかります。ネーさんの一番弟子アピールですね。
「よし、じゃあそれで頼む!」
ホーさんが私たちに軽く頭を下げ、男爵領の方針が決まった。
弟子戦争が始まっていることに、彼はまだ気づいていない。




