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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第4章 辺境平民ダンジョンの身の丈

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2.上位種族「おばちゃん」

 私が転生してから3回目の冬のはじまり、その衝撃的な登場から2ヶ月経つころには、ドラゴンはもうすっかり温泉に馴染んでいた。

 人間には発音できない名前は、「ネーなんとかなんとか」と聞こえるらしく、結局ポーラさんが最初に呼んだ「ネーさん」が定着した。

 男どもは「姐さん」だと思っているけど、それは間違い。いや、キャラ的にはそれいいのか。


 そのネーさん、毎日来る。


 いや、客さんだからそれは嬉しいよ?

 お金も先払いしてくれている。

 初日、ドラゴンだってタダだダメだと思ってお金を請求したら、「持って来んかったわ、付けといて」と言われて膝から崩れ落ちたけど、翌日に「これでええか?釣りはいらんで」って1万タシュ金貨を出されて、そんなわけにはいかないので、10年間顔パスにした。

 だって、「毎日来るとして……」って計算したらちょうどそのくらいだったんだもん。


 でも、ほんとに毎日来るとは思わなかった。


 改めて聞いた自己紹介によると、ネーさんは古龍と呼ばれる伝説の種族で、ここ800年ほどは、裏の大山脈の中に見つけた龍脈が露出している盆地に住んでいたそうだ。

 それ以前は人間と関わったこともあって、そこで覚えたのが「北ダダリア語」。ネーさんのキャラもあってすっかり関西弁イメージだが、由緒正しき言葉らしい。


「いや、風呂には入っとったよ?あたしはきれい好きやから。

 盆地におっきな池があるさかいな、10年くらい寝て起きたら、まずそこにザブンと浸かって、古い鱗とか落とすんやわ。

 そしたらまた気持ち良う寝れる」


 その池、多分素材の宝庫だと思います。


「寝てばっかですね。よく温泉に気づきましたね」

「ミリ、そりゃそやろ。寝床でずっと硫黄の臭い嗅がされてみ?寝とっても気づくわ。

 起きて見てみたら、なんや穴開いてて、そっから臭いしてるやないか。

 そんでその臭い嗅いだら、昔入った温泉思い出して、山の先探したらここやったっちゅうわけや」

「へえ、そうだったんですねえ」

「誰が穴開けたか知らんけど、おかげでええとこ見つけてもたわ。

 知っとったらお礼言うといて」

「あ、はい。知らないですけど」 


 知ってます。うちにいたモグラです。

 デビリンから穴掘って逃げた先にドラゴン。

 ショック死してなかったら、その盆地とやらで静かに暮らしてほしい。


 いや、それよりネーさんの方だ。

 さすが伝説の古龍。とんでもない魔力持ちで、4時間滞在しただけでダンジョンに500DPが入ってくる。

 サロンのセレブたちの存在なんか、かすみ過ぎて見えなくなる。


 そこまではいい。超スーパー大歓迎だ。

 ただね、だからといって何をしてもいいってわけじゃないのよ。

 少々のことには目をつぶってもいいけど、勝手に施設を改造するのはない!

 それでさらにお客さんが増えたけど、こっちにも予定っちゅうものがあるの。


 何をやったかというと、サウナを作りやがったんだよ!

 ポーラさん(マブダチ!)と世界の温泉の話をしていた時、「北には蒸し風呂っちゅうのがあってな……」とネーさんが話し、「良さそうね、それ」「作ろか?すぐでけるぞ?」「ほんと?作って作って!」って感じで、その場で作ってしまったらしい。


 煽ってんじゃねーよ、ポーラさん!


 他のお客さんから話を聞いて駆けつけたが、後の祭り。

 熱源はネーさんの古いうろこに火の魔力をぎゅっと込めたもので、そこに洗い場から桶で持ってきた真水をかければ、なんということでしょう、すばらしいサウナが出現したではありませんか!となる。


 これから寒くなる季節。サウナは冷え性気味の女性陣に爆発的に受けた。

 それを聞いた男どもは、関係のないこちらに強硬なクレームを寄越した。

 そんなのに使うDPはビタ一文ないので無視してたら、直接ネーさんに頼みに行って、ネーさんは「ええで」とあっさり了承したものだから、今じゃうちは男女ともに立派なサウナ完備だ。浴室にはいつの間にか、水の入った酒樽まで置かれている。


 男性サウナは前世の馬鹿どもと同じく、我慢比べ用娯楽施設となり、倒れるおっさんの数が激増した。

 面倒を見切れないので、サウナの壁に「ご利用は自己責任で!死んでも責任は取りません!」というパネルを張った。 


「ミリ、ちょっと相談があるんやけど」


 だから、私がネーさんの相談とやらを警戒するのは当然のことだ。

 案の定、ポーラさんもいっしょだ。


「なんですか?」

「あんな?あたし、毎日ここ来るやろ?」

「ですね、ありがとうございます」

「それは、こちらこそや。おかげで楽しわ。

 せやけどな、毎日山超えて来るのめんどいねん」

「はあ……」


 嫌な予感しかしない。


「でな、あたしんとこととつなぐ道作ったろかと思うんや」

「道?」

「せや。チャッチャと作ろか思たんやけど、蒸し風呂作った時、ミリ怒ったやろ?

 ほんで、一言断ってから作ろ思てな」

「作るのは確定なんですね」

「いいじゃない、施設壊すわけじゃないって言うんだから。

 それに、その道ができれば、ミリちゃんもネーちゃんのところまで行けるようになるのよ?行ってみたくない?」


 それ、ポーラさんが行きたいだけだよね?


「ダメだって言ったらどうするんですか?」

「んー、こそっとやる?」

「……ですよね」


 私にドラゴンは止められない。

 事前に報告してくれただけマシだ思うしかない。


「わかりました。

 その代わり、道を通す日と、場所は私の指示に従ってください」

「わかった。これからやるわ」

「だから!」


 キレた私にちょっとビビったふたりは、やっと言うことを聞いてくれた。

 その足で道を通す場所を探したが、モグラ穴に沿って作るのが一番確実だということで、

受付ハウスの前が始点となった。

 ここから、ネーさん計測の角度で、山の中の盆地に向かってブレスを一発放つそうだ。


 洞窟1層は、外部でもあるけどダンジョンでもある、という特殊な階層なので、やろうと思えばダンジョン改装で対応することもできるのだが、対外的にはここはただの温泉洞窟。村人にそれを見せることはできないので、私は一切手伝わない。


 工事日?は翌々日の朝、お客さんのいない開店前の時刻に決まった。

 今は冬なので、去年なら宿はお休み中なんだけど、今年は温泉客がいるので、彼らに近寄らないように告知。

 と言っても、見物に来るのは間違いないので、遠巻きに見るくらいならOKとした。


 農閑期の領主ホーさんも宿に滞在していたので、念のため立ち合いをお願いした。


 当日。

 ネーさんは一瞬光って、サラブレッドサイズの小型ドラゴンに変身した。

 見ていた宿の客さんがざわめく。


「ほなら行くで」


 気の抜けた一言の後、古龍の口から収束した火のブレスが岩壁に向かって放たれた。

 警戒していた爆発音さえしなかった。

 穴に向かってもう一発風のブレスを放ち、ネーさんがシュルッと人の姿に戻る。


「終わったで。まだアッツいけど、結界張ったから近寄ってもかまへんよ」 


 壁には人ひとり通れるくらいの穴が、斜め上に向かってまっすぐに伸びていた。

 ガラス化した岩はまだ少し赤い。


「師匠!すごかったです!感激しました!

 おいらこんなすごい魔法制御を初めて見ました!」


 ホーさんがネーさんの手を握って、涙ぐんでいる。

 褒められたネーさんは鼻息を荒くする。


「せやろ?あたし、実はすごいんやで?

 お前も頑張れば、そのうちこんくらいでけるようになるわ」

「はい!頑張ります、師匠!」


 てか、師匠って何?


「そんなことより、床ツルツルなんだけど、これって滑らない?」


 穴を覗き込んでいたポーラさんが、強引に師弟?の会話に割り込む。


「あー、それは考えとらんかったわ……」

「やっぱり。階段とか作らないとダメよね?」


 確かに。ほぼ滑り台だ。これじゃ人間が上るのは無理。

 上れたとして、スピード出過ぎてむしろ降りるときの方が怖い。せめてクネらせろ。


「あ、師匠、おいらやります!」

「おお、お前土魔導士やったな。じゃあ、任せるわ。

 ええ修行になるやろ」

「ありがとうございます!」


 いたよ、階段担当。


「あのー、さっきから気になってるんですけど、師匠って何ですか?」

「あ、知らなかった?

 おいらネーさんに弟子入りしたんだよ。

 古龍に魔法を習えるチャンスなんて逃すはずないだろ?」


 ホーさんはニッコニコの笑顔でそう言った。


「ああ、なるほど。

 それは、えー、おめでとうございます?」

「うん、ありがとな」

「まあ、当分はここに通うやろし、久しぶりに人間の弟子を取るのもええか思てな」

「え?おいらの前にも人間の弟子いたんですか?」

「もうとっくに死んだけどな」

「名前とか……」

「忘れてもた!」


 ネーさんはアハハと笑ってホーさんの頭をガシガシと撫でた。

 よくわかんないけど、師弟仲は良好そうで何よりだ。

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