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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第3章 弱小辺境ダンジョンの新事業

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11.笑う商会長と耕す男爵

 サロンオープンから2年が過ぎた。

 そっちはとても順調。

 順調すぎてやることがない。


 ユードラさんにすることなくて不安だって愚痴ったら、「それは順調な証拠だ! 安心しなさい !我々の船はもう沈まない!」って返された。

 それはわかるけど、そういうことじゃないんだよ。


 ダイエットプランナー的な子爵領の人材も育ったし、すっかり定着したダンジョンを改造する必要もない。

 たまに顔を出しても、顔見知りとお茶して帰るだけ。

 でも地代は入ってくる。

 仲間と始めた仕事に付いていけなくなった地主だな、これは。


 まあ、そんなでも現状把握してはいるけどね。


 現在の会員の数は48人。

 たったの?と思う数かもしれないけど、価格が価格だし、リピート率がすごいし、でもホテルの部屋数は実質10しかないという施設だから、これ以上増やせないんだよ。


 ディオさん情報によると、ダイエットに成功した侯爵派の西部貴族に社交の場でいたくプライドを傷つけられた王都貴族が、ユードラさんに融通を利かせるように圧力をかけてきているらしいが、「侯爵様を通してください」で突っぱねているとのことだ。


 その侯爵は、10日に1回くらいのペースでやって来る。

 ダイエットは必要ないけど、温泉は我慢できないらしい。

 奥様のセシリアさんといっしょに来て、侯爵様は日帰りか一泊、セシリアさんはそのまま滞在し、10日くらい後に迎えに来た侯爵といっしょに帰る、という流れだ。


 現役侯爵夫人の彼女も彼女で忙しく、他のお客さんからの要望もあって、1ヶ月縛りルールは廃止したから、特別扱いではない。


 リピートしてくれて、ダイエットが継続しているのなら、こちらが強制する必要はないし、回転が上がって待ちの時間が減るので、お客さんにも好評だ。

 そればかりか、マダムたちは、お城のサロンに集まってスケジュール調整までするようになったので、こちらが予約調整に頭を悩ますことがなくなった。

 クレーマー要素のかけらもない、夢のようなお客さんだ。さすが、侯爵様たち厳選の人格者たちである。


 侯爵様ともちょっと打ち解けた。

 この間は、ご夫妻と3人でお茶をして、貴族の噂話まで聞いてしまった。


 どうやら、諦めきれずにここの場所を探して調査団を組んだ王都の貴族が現れたそうだ。

 あたりをつけて中南部の森に調査団を送ったけど、そこはディオさんの出身であるエルフの里近くで、結界に阻まれて奥には入れないわ、エルフの族長からクレームを入れられた王様に怒られるわと、散々な目にあったんだって。


 ダンジョンの森は、気候の快適さを考えて、そのあたりの植生や季節感を再現したものだから、まあ、目の付け所は悪くなかったんだけどね。

 エルフの里近くには、ナントカいう有名な温泉もあったはず。

 監修ディオさんだから、リアリティあるんだろうな。


 調査は迷惑だけど、的外れだったし、おかげで「謎のリゾート地はエルフの森の奥にある」という話が定説化してきてるらしいので、うちらにとっては結果的にとてもありがたいサポートになったんじゃないかな?

 ありがとう、ざまぁ!


 本命の魔道具も目論見通り売り上げを伸ばしている。

 ここは貴族から流行が拡がる中世社会だ。余裕のある上級庶民を巻き込んで、静かなダイエットブームが起こった。

 特に魔導体重計。貴族には一家に一台が当たり前で、去年庶民向けの廉価版が発売されると、一般への普及も一気に進んだ。

 うちの村にさえ2台ある。


 販売元の商会長ヴァネッサさんは楽しそうだ。

 「絶対に値引きしない令嬢商会長」として恐れられているそうで、しつこくされると「じゃあ、お買い上げいただかなくてけっこうですー」とか「あ、お見積もりの桁間違えましたー。一桁増えますー」とか笑顔で言っちゃうそうだ。我儘キャラお見事!


 「向いてるのは確かだが、最近領主になりたくないとか言い出した」って、ユードラさんが頭を抱えていた。

 あたしゃ知りませんからね。


 製造元のディオさんとこも儲けがすごい。

 ということは、ダンジョンに入ってくるマージンもとんでもないことになっている。

 週一回届けられるたくさんの魔石をどんどん吸収して、今の保有DPは10万を超えた。

 麻痺しちゃってるのか、私はもうそんなに感動しないのだが、コアちゃんが喜んでいるので、ダンマスとして嬉しくはある。


 ダンジョンレベルが上がって新しい知識を得たコアちゃんは、いくつかできることが増えたようだ、そのためには習得する時間が必要らしい。ダンジョンコアも色々大変だ。

 まずできるようになったのが、次の進化条件の想定で、保有DP20万、階層数15、というのが数字を教えてくれた。


 能力はすごいけど、私的には実現できそうで困る。

 このままでいくと、近い将来20万DPには到達するだろうし、階層数については最悪何もない洞窟階層10個を5000DPで作ればクリアできちゃう。

 それは嫌だ。


 例えるなら、道路計画にかかって土地で大儲けした地主が、その金の力で市会議員になったとか、そんなイメージ。

 あ、これ前世の子供時代の実話ね。

 人のいい近所のおじさんが急に我が家を見下し始めたのは、小学生にはショックだった。


 まあ、そんな話はいい。

 コアちゃんは無意味な階層増設には元々反対だし、お金が入って調子こくような愚かさはダンジョンコアにはないから、私が心配する必要なんかないのはわかってる。

 ただ、小物ダンマスは、嫌な選択肢を思い付いちゃうのよ。すまんね。


 でも、そんな閉塞感への対抗手段もちゃんとあるの。


「おーい、ミリー! いるかー?」


 私が今いる洞窟の温泉受付に、日焼けしたおっちゃんが近づいてくる。

 いるも何も見えてるでしょ?


「ホーさん、また来たんですか?

 今日3回目ですよ?

 硫黄泉なんですから、入りすぎは体に悪いんですよ?」

「大丈夫! おいら丈夫だから!

 お湯かぶって土流すだけだし!」


 そう言ってビレン男爵は、料金の3タシュを置き、私に鞄を預けて、ずんずん風呂場に歩いていった。


 そう。あの幻の大魔導師ジョゼッペ・ブリガンドーンの中の人(未使用)、粘膜男爵ことホーカス・ビレン氏こそが、今の私の希望なのである。


 きっかけは村人への温泉の開放だった。

 村での評判は、馬車で1日離れたビレン領の領都、いや領村ビレントにも届き、そちらの領民たちも時々森の村を訪れるようになった。


 私は行ったことがないけど、森と離れているビレント村は典型的な農村で、ファーレン領から越境してきている人たちといっしょに、麦を中心とした作物を作っている。

 当然農地はファーレン領との間に拡がっており、同じ領内の森の村を気にする人はほとんどいなかった。


 だが、そこに温泉が出現し、しかも疲労回復効果がすごいらしいという噂が流れ、領村の興味がようやく森の村に向いたのである。


 ビレン男爵も領主として視察に訪れ、初めて入る温泉にドはまりした。


 さらに、大好きな開墾用の未開地がファーレン側に少なくなってきてたところに、村近辺のだだっ広い草原を目にしたものだからたまらない。


 彼はその1ヶ月後、ビレント村の領主邸に妻子を置いて、森の村に単身引っ越してきた。

 領主としてそれでいいのか?


 だたの開墾マニアだが、一応領主。その引っ越しは、村に少なくない変化をもたらした。


 まず、名前が付いた。

 テキトーな領主は村長の名「カレル・コンテ」から、「カレル村」「コンテ村」の候補を出したが、村長さんは断固として拒否し、村の名産のダダリア紫トマトから「ニーニャ村」と命名した。

 まあ、定着するかどうかは微妙だけど、野菜名は素朴でいいと思う。


 そして最大の変化。

 村から洞窟までの道ができた。


 いやあ、男爵の土魔法、すごかったわ。

 木は根から掘り起こされ、あっという間に整地され、村から洞窟まで馬車が行き来できるほぼまっすぐな道が、たった4日で完成した。

 村から洞窟まで、森に慣れてる父さんでも半日かかっていたのが、今じゃ馬車で2時間だ。


 粘膜男爵とかバカにしてごめんなさい、って心の中で詫びたよ。


 そんなわけで、男爵ホーさんはせっせと草原を耕しつつ、村と温泉を行ったり来たりしている。

 その馬車に便乗して、村人たちもちょこちょこ訪れる。

 森仕事の人たちは、アクセスの良くなった宿を拠点に狩りや採取に精を出している。


 温泉を使う人が増えたので、もう一つ浴室を作って男女別に分けたから、ダンジョンもその分ちょっとだけ広くなった。

 宿は忙しくなったけど、村の奥さんがお手伝いに来てくれるようになったし、お姉ちゃんも猟師をやめて宿の仕事に専念するようになったから、スタッフ的にもなんとか回っている。


 第2階層への階段をふさぐ形で建てた受付ハウスで、もうすぐバタバタと出てくるホーさんを待ちながら、私はゆっくりお茶を飲む。


 このあと、お姉ちゃんに受付を引き継いだら、ダンジョンの草原でスライムやデビリンと戯れるつもりだ。

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