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3.死ぬかと思った(自爆)

『あの、それできるかもしれないです』


 コアちゃんは自信なさげに言った。


「気配を隠せるってこと?」

『はい。でも、外でできるかどうかはわからないです……』

「やってみてダメだったらしょうがないよ。

 とりあえず、どうやるか教えてくれる?」

『わかりました』


 コアちゃんは、言葉を選びながら話しはじめた。


『忘れていたんですが、わたしは気配を消す魔法が使えます』

「忘れてたの?」

『はい。

 ダンジョンはコアを破壊されないように、隠蔽魔法が掛かった状態で誕生します。

 普段はそのままでいて、ダンマスになってほしい人が現れた時に、存在に気付いてもらうために魔法を切るんです』

「なるほど」

『でも、わたしの場合は、隠蔽すると本当に誰にも気づかれなくなってしまうので、ずっと使うのをやめていました』

「ああ。それはそうだよね……」


 わかりみが深い。

 隠す必要なんかまったくない場所だもんね。


『はい。

 ですから、その隠蔽魔法をマ、マスターに掛ければ魔物に気付かれにくくなるんじゃないかと思ったんです』


 私の名前を呼ぶときにイチイチつっかえるのが初々しくて、思わずにやけてしまうのをごまかしながら、私は即刻GOをかける。


「OK! じゃあ早速やってみようか」

『え? 今ですか?』

「もちろん。あ、DP使っちゃったりする?」

『いえ、それは大丈夫です。止めていたのを戻すだけなので』

「なら、やるしかないよね。

 失敗したら、他の方法考えればいいんだから」

『わ、わかりました。やってみます』


 少し緊張した空気の中、コアちゃんが短く明滅した。

 何も感じないけど、発動したんだろうか?


「どう? 掛かった?」

『えと、わたしには掛かっていますが、マ、マスターさんには掛っていません。

 ごめんなさい……』

「大丈夫! いちいち落ち込まない!」

『は、はい』

「何か気づいたこととかない? もっと近くじゃないとダメとか」

『あ、直接触れているなら、かかるかもしれません』

「よし、やってみよう!」


 私がコアちゃんに触れた状態で、再度魔法が発動する。


「あ……」


 なんか来た。

 ちょっと冷たい空気が体にまとわりつく感じ。


「出来たんじゃない?」

『はい。出来ました!』


 コアちゃん、すごく嬉しそうだ。

 良かった!

 

 というわけで、早速効果を試してみよう。


「コアちゃん、今魔物がどうしてるかわかったりする?」

『はい。見てみますね』


 目の前に空中ディスプレイが出現し、洞窟中央で丸くなって寝ている魔物の姿が映し出される。

 監視技術すごいんですけど。


「コアちゃんてさ、自己評価低いくせに、実は何でもできちゃうタイプ?」

『え……?』


 わかってないらしい。

 掘ればまだ色々出てきそうだけど、それは後のお楽しみにするとして、いらっしゃるなら突撃開始だ。


「ちょっと行ってくる」

『え?……えぇ!?』


 頭の中に響く悲鳴を振り切って、私は細い通路を高速ハイハイで進み、洞窟の最奥に頭だけ出した。

 しばらく様子をうかがうが、反応はない。

 ズリズリと洞窟に這い出し、そっと立ち上がる。

 まだ大丈夫だ。


『危ないです! 戻ってください!』


 うん、魔物の姿をチラ見したら帰るからね。

 私は、洞窟の曲がり角からそっと顔を覗かせる。

 魔物だからか、獣の臭いはほとんど感じない。

 巨大な尻が見える。


 よし、今日は尻の確認で勘弁してやるか。

 この距離でも気づかれないことを確認して、私はコア部屋に戻――ろうとしてやめた。

 重要なことに気付いてしまったからだ。


 私って、死なないんじゃね?

 一応、念話で確認。


『コアちゃん、髪の毛預けたから、死んでも復活するんだよね?』

『はい、そうですけど、って何考えてるんですか!?

 待ってください。話を』

『見てて! ヤバそうだったらお願い!』


 コアちゃんを勢いで黙らせ、足音を忍ばせて壁際をじわじわ先に進み、魔物の横を通り過ぎる。

 魔物は近くで見ると小山みたいでマジで怖い。一秒でも早く離れたい。

 「死なない、絶対に死なない」って頭の中で繰り返しながら、できる限りの速足で、私は洞窟入口の少しえぐれたようになっている岩陰に身を隠した。


 小さくため息をついて、洞窟の外を見る。

 森だ。もう圧倒的に森である。

 

 洞窟の中を覗き込むと、魔物は相変わらず眠っている。

 まだ心臓がバクバクいってるけど、とりあえず最大の危機は脱したみたいだ。

 

『マスター、大丈夫ですか?』


 コアちゃんの心配そうな声が届く。


『うん。どうにか。

 じゃあ、ちょっと森を見てくる』

『えっ?』


 だって、また魔物の脇を通るの怖いんだもん。

 いや、通らなきゃ帰れないのはわかってるよ?でも、せめてもうちょっと時間を置いてからにしたいんだよ。


『あの、待っ』


 何か言いかけたのをぶった切って、洞窟の外へ一歩踏み出した瞬間、その声はプツっと途切れた。

 体を包んでいた魔法の感覚もない。


 やばっ!

 バッと振り返ると、魔物は目覚めていない。


 逃げなきゃ。

 森か洞窟か。

 一瞬の躊躇の後、私は思い切ってコア部屋に向かってダッシュし、魔物の脇をすり抜けようとした。

 上手く抜けられるはずだった。地面の凹凸に躓かなければ。


 背後で魔物が起き上がるのがわかった。

 コア部屋への横穴にはもう間に合わない。


 振り返ると、起き上がった魔物が、極太の足でゆっくりとこちらに歩いてくる。

 なるほど、デビルスアームだわ。


 くそー! もうちょっとだったのになあ。

 生き返る覚悟を決めて目をつぶった時、体が一瞬軽くなり、背中にベッドから落ちた時みたいな軽い衝撃を感じた。


『無茶なことしないでください!』


 コアちゃんの声が頭に響く。激おこである。

 目を開けたら、コア部屋に戻っていた。


『どうして話を聞かずに動いちゃうんですかっ!?

 転移の説明をするところだったのに!』

「転移?」


 そうか、転移したんだ。

 また食われなくて助かった。

 コアちゃん、ほんと何でもできるな。


『危なくなったら、ここに転移してくださいって言おうとしたんです!』

「あ、自分でもできるんだ。

 でもやり方わからないし」

『それを伝えようとしたんですっ!!』


 余計な事を言ったらしく、コアちゃんの怒りのボルテージが上がる。


『死んでも復活するから大丈夫とか思わないでくださいね!?

 一度死ぬんですよ!? 噛まれたら痛いんですよ!? 血まみれですよ!?

 大丈夫なわけないじゃないですか!?』

「……ごめんなさい……」

『ごめんなさいじゃないです!

 ダンジョンの中だったからなんとかなりましたけど、一歩でも外だったら転移させられなかったんですよ!?』

「はい……」

『そうなったら、私は目の前であなたが噛み殺されるのを見ているしかなかったんですよ!?』

「はい……」


 コアちゃんのお説教はしばらく続いた。

 反省した。


 確かに無謀だったとは思う。でも、収穫はちゃんとあったんだよ。

 だから後悔はしてない。

 また怒るからコアちゃんには言わないけど。

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