8.天国のサービス、地獄の維持費
『やりました、マスター! レベルアップ条件をクリアしました!』
「へ?」
珍しく喜びをあらわにしたコアちゃんの念話に、私は間抜けな声を漏らした。
ユードラさんから大量に提供された魔石を、コアルームで吸収してもらっていたんだけど、その途中でいきなりコアちゃんが声を上げたのだ。
「レベルアップ? 条件?」
『はい! レベルアップの条件は、2万DPとダンジョンの階層数5以上を持つことでした。
条件を満たしたので、情報が開示されました。
昨日までに3階層を増設したので現在の階層数は5、保有DPもさきほど2万を超えましたので、これでこのダンジョンはレベルⅡとなれます! できることも増えます!』
「おお! やったね! 夢がひとつ叶ったね!!
すぐレベルアップできるの?」
『はい! 今からもできます!
進化していいでしょうか?』
「もちろん!」
『ありがとうございます!
……完了しました!』
早っ!
あたりを見回しても特に変化はないけど、中身がだいぶ進化したってことだよね?
でも、とにかくよかった!
コアちゃんが喜んでくれただけで、お貴族様と絡んだ意味があったよ!
「リリも大きくなったよ?」
「え? うわっ!」
変化あったよ!
さっきまで6歳児くらいだったのに、なんか10歳くらいになってる。美少女にちょっと美人さん要素が入ってきたよ。
でもどうしよう。こっちは素直に喜べない。
だって、ダンジョンが大きくなるたびに、リリが成長してくんだよ?
今回のはまだいいけど、きれいなお姉さんになって、「ミリねえはいつまで経っても成長しないね」とか言われた日にゃ立ち直れない。
だってさリリ、私はダンマスだから、もう成長は完全に止まってるんだよ。
これで! この胸で!!
「胸がどしたの?」
はっ! 声出ちゃってましたか?
脳内のリリお姉さんに言い訳してただけです。
あたらめて10歳っぽいリリを確認する。
うん、大丈夫。まだ全然妹ポジ。でも妹の理想年齢としてはこれがギリ。
あ、ダンジョン的には娘だけど、私の認識は絶対に妹だからね。それ以外あり得ない!
私はリリをぎゅっと抱きしめる。
「リリ、ずっとそのままでいてね?」
「ん? わかんないけどわかった!」
よし、すっきりした!
でも、次にダンジョンレベルが上がるときに備えて、リリの「永遠の10歳」計画はスタートさせようと思う。
あとは宿のお客さん関係か。
いきなり成長したらマズいよなあ。
あ、ディオさんもいるな。
リリがダンジョンコア分体っていうのは、ディオさんにも教えてないからな。
うーん。あとで家族会議で相談してみるか。
解決策が出なかったら、しばらくどこかに隠れててもらうしかない。
ちょうど階層増やしたところだから、最悪それでなんとかなるはず。
ひとまず、元の作業に戻る。
私がワチャワチャしてる間も、コアちゃんは順調に魔石を吸収していて、残りはあとわずかになっている。
それが終われば新階層の最終調整だ。
そう、新階層。
あのあと、ユードラさんの草案に私とディオさんの希望を入れて、ダンジョンの大規模な改装が決まったのである。
ユードラプランを最初に見たときには理解できなかった。
なんていうか、発想のスケールが違った。
魔道具で儲かった資金を惜しみなく使って、ダンジョンを超高級ダイエットサロンにする計画だったのだ。
ターゲットは厳選した大都市の富裕層。
保有魔力量を含む身辺調査と面接をクリアした上で、高額な会員権と、これまた高額な直接転移用の魔道具(例の魔導扉)を購入しないと来ることもできない。
最低滞在期間は1ヶ月。
強気商売にもほどがある。
ハイリスク過ぎるので当然反対したけど、「絶対に大丈夫!」と言い切るので了解した。
さすがに階層数は削ってもらったけどね。10階層とか、維持費だけでどんだけになるか考えたくもない。
新階層作成用に魔石も大量に送られてきた。
「コストを気にするな、クオリティで妥協するな」とのことなので、覚悟を決めて思い切りやりましたよ。
前世から根が貧乏性の小市民なので、いまだに全然慣れない。
たくさんお金使うのってストレスかかるんだね。
その結果出来上がった新しいダンジョンの構成はこうだ。
まず、ダンジョンを私たちの住居とダイエットサロンに完全に分けた。
結界魔法まで使って、お客さんが住居側に入るのを防いでいる。
そこまでしなくてもと思ったのだが、ユードラさんは「デビリンちゃんが人目に触れたらどうするんだ!」と譲らなかった。
まあいいけど。あとほんとに絶対にあげないからね?
住居側はこれまでと同じ階層ふたつ分。
お金もほとんど使ってない。
開店資金でこっちのリフォームとかしちゃダメよね。
その辺はきっちりしとかないと気持ち悪い。
変わったところとは2点。
まずは洞窟ハウスのある第2階層が、洞窟タイプから草原になった。
これで洞窟に魔石ランプを持ち込む必要がなくなった。移動が多くなりそうなのに、いちいちランプ持たなきゃならないのは効率が悪いからね。実際時々転んだし。
お値段は320DP。20DP追加でスライム10匹付いてくるので、そこだけはわがまま言わせてもらった。
もうひとつは、エリアを分けたことで温泉がうちら専用になったことだ。
こちらはユードラさんの案。デビリンが好きな時に入浴できるようにって。
あとは、火のダンジョンの温泉の話を聞いてうらやましくなって、泉質を硫黄泉に変更した。詳しく言えば硫化水素泉ってやつ。
設備をいじらなければ無料だったけど、念のため5DPで排気口を拡げた。
酸性温泉で、お肌ツルツル効果は下がったけど、宿や森で働くフレッカー家のみんなには血行促進・疲労回復効果の方が大事だし。
個人的には、「これぞ温泉!」っていう濁り湯と硫黄臭が、貴族ストレスの緩和に効果大なのがありがたい。
デビリンも臭い気にしなかったし、ユードラさんも喜んでくれた。
ただ、家族用としては広すぎるので、ダイエットのお客さんたちが来ないなら、村の人たちに使ってもらうのもいいかもしれない。
そんで、肝心の店舗エリア。
こっちがすごいんだよ。
もう数えるのやめたからざっくりだけど、使ったDPは万を超えてる。
元々チマチマ貯めてたのが1万5千弱で、今の保有DPが2万ちょいってことは、私が1年以上頑張って貯めた以上のお金を、ユードラさんはたった一ヶ月弱の間にぶっこんでくれたことになる。
金持ちすげえよ!
ちょっと前まで死にかけだった貧乏人にとって、スポンサーっていうのは一種の夢だな!
ダンマスと逢うのが貴族の夢、とかいうのよりよっぽど説得力があると思う。
そのスポンサーの大金をつぎ込んだ店舗エリアは3階層に渡る。
まずは商会から続く入口階層。
温泉を切り離して別階層となったため、第一階層にしか設置できない転移扉が使えるか心配だったけど、元から設置していたため引き続き使えたのはよかった。
温泉の分狭くなったけれど、壁面や床を重厚な大理石パーツで作り直したため、グンと高級感が出た。
そこにユードラさんがこれまた高級家具をこれでもかと運び込んだ。
照明系の魔道具もバンバン使っている。
結果、セレブ御用達の超一流ホテルみたいな重厚なロビーになった。
で、その下が滞在用階層。
開店資金の大部分はここに使われた。
どうなったのかというと、えー、湖のほとりに小さなお城が建っています。
森もあります。空もあります。
軽い運動とストレス解消には、ウォーキング用の散策路をご利用ください。
作成手順としては、湖付きの森林階層をベースに、パーツとして草原を使って避暑地的な環境を整備して、そこにおなじみ廃墟タイプの最高額パーツの古城を配置って感じ。
眺めのいい部屋と最上階の王の間は、建材系のダンジョンパーツや持ち込んだ調度品で完璧に整えられた。
本物のお城で「王様体験」までできるの。
これ、ダイエットとか関係なく、貴族的にはいくらでもお金払うんじゃない?
あ、もちろん新しくお肌ツルツルになる温泉大浴場も作ったよ。湖脇の露天風呂付きで。
そして最後、店舗の第3階層がトレーニングエリアとなる。
内容はプールと陸上トラックとトレーニングジムだ。
ジムの機材は、私のざっくりした説明を元に、ディオさんが突貫で魔道具を製作中で、
もう少ししたら搬入される。
どーよ?
すご過ぎない?
洞窟の20倍の費用でこの広さ。お買い得物件だよね?
だがしかーし!
ダンジョンは違うんだよ!
出来上がってから毎日維持費500DP以上かかるの!
レベルⅠの時には1%だった維持費が、レベルⅡになったら5%とかおかしいでしょ!
10日で追加5千DP、1年で18万DP!しかも強制引き落とし!
しかもこっちが普通で、レベルⅠだけが例外なんだって!
……ダンジョン、恐ろしいシステムなんだよ!
でも、超高額会員権にはこのくらいの豪華さが必要だと思う。売れる気はする。
いや、売れてくんないと困る。じゃないとうちのダンジョンマジで終わるから。
万が一維持できなくなったら階層を閉鎖する許可も一応もらってるし、そうならないようにユードラさんという富豪子爵が維持費を保証してくれているんだけど、そんでもビビものはビビる。
明日はユードラさんの最終チェックで、それをクリアすればプレオープンとなる。
転生して1年ちょっとで、こんな人生をかけた大博打をすることになるとは思わなかった。
ひえー。怖いよお……。




