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2.魔物に食われるより不運

 再度の「怒ってないよ」アピールで、ようやくビビりも治まり、コアさんはポツポツと事情を話しはじめた。


「――そりゃしょうがないよ。多分私でもそうすると思う。

だから、私のことは気にしないでね。

 おかげで死ななかったんだから、感謝こそすれ恨むなんてことは絶対にないよ」

『ありがとうございます。そう言っていただけると、少し楽になります』

「なら良ったよー」


 コアさんが説明してくれたところによると、ダンジョンって、ダンマスがいないとどうしようもないんだって。

 ダンマスがいないと、コアの力だけでは新しい階層もモンスターの配置もできなくて、だから誕生したダンジョンは、本能としてダンマスを求めるものなんだそうだ。


 でも、このダンジョンは誕生した場所が最悪だった。

 コアさんが中空にスクリーンみたいなのを出して、地図を見せてくれたんだけど、目の前は深い森で、背後は山脈。

 ここは森の一番奥で、人間なんて来るはずもない。


『もう、ゴブリンでもいいって思いました……』


 そのゴブリンさえ現れないまま5年。

 生まれてからずっと一人。

 コミュ障とかいう前に、コミュニケーションの経験すらなかったのだ。

 自分で選んだ結果、転生初日に食われかけた私より、この子の方がずっとしんどい。


 そんな、ずっと続く不運の中で、瀕死とはいえ自分からダンジョンコアに触ってきた人間がいたわけですよ。

 そりゃやっちゃうでしょ。

 考えるとかそういうのじゃなく、反射でダンマスにしちゃうよね。


「でも、ほんとよく頑張ったね」

『……う……、うわあああああん……』


 コアさんの号泣が頭の中に響いた。

 私は忙しく明滅するクリスタルを抱きしめて、ポンポンってした。

 5歳っていうのを聞いたせいかもしれないけど、あと硬いけど、ネグレクトされた子供を抱きしめているような気持ちがした。


 長い間溜っていたものを吐き出して、コアちゃん――子供認定した――の緊張感はかなり解け、声も少し明るさを取り戻した。


 なんかほっこりしたけど、状況は何も良くなっていない。

 ダンマスになったといっても、私はダンマスについて何も知らないのだ。


 このダンジョンについて、そしてダンマスについて。

私はコアちゃんに色々質問して、置かれた状況を聞きだした。


 私が転生者であることも話したが、ダンマスになる上で特に問題はないようでホッとした。

 なぜか「ミサト」の発音が「ミシャト」なってしまうので、「ミリ」って呼んでもらうことにした。身内感が出て、ちょっと嬉しかった。


 コアちゃんの話は、前世のラノベ由来の薄いダンジョン知識のおかげで、なんとか理解することができた。

 幸いなことに、この世界のダンジョンは、概ね私の認識に近いものだった。


 一番大きいのは、ダンジョンマスターになったことで、私は不老不死になったことだ。

 異世界転生直後に死にそうになったばかりの私にとっては、正直ホッとする話だった。


 ダンジョンコアが破壊されたら死んでしまうのは前世の情報通りだったが、それを除けば、コアに体の一部を保管しておくことによって、どこで「死んで」も、DP半減と引き換えにダンジョンで復活するらしい。

 とりあえず髪の毛を数本預けておいた。


 ただ、当面死なないのは良かったけど、不老不死は微妙だ。

 実感なんてないし、将来的は、どこぞの不死の魔王みたいに死を望むようになるのかもしれない。

 まあ今悩んでも仕方ないね。


 それより驚いたのは、ダンマスがダンジョン外を自由に出歩けることだ。

 ダンジョンとダンマスは切り離すことのできないコンビではあっても、ダンマスの行動範囲がダンジョンに縛られるわけではないらしい。


 これで人間の街にも行けることがわかった。

 よかったんじゃないかな?

 ダンマスの仕事はダンジョンを発展させることなのに、こんな超辺境のダンジョンから動けないのでは、打つ手がないからね。

 とはいえ、そのためにはダンジョン前の大森林を抜ける必要があるんだけど。


 まあそれはあとでじっくり考えよう。


 それから、ダンジョンのことも色々わかった。


 詳しく話を聞いたら、誰も来ない状態でダンマスなしのダンジョンが5年生き残るってほとんど奇跡だった。


 ダンジョンには、ダンジョンポイントというやつが存在する。

 前世のラノベとかでおなじみの、ダンジョン運営のエネルギーみたいなやつだ。


 ダンジョンは、3000DPを持って誕生する。

 これはどのダンジョンでも同じで、ダンジョン自身もその理由を知らない。


 DPは存在維持のために日々少しずつ消費される。

 ゼロになったらダンジョンは消滅するので、ダンジョンはなる早でダンマスを見つけ、冒険者などの人間を呼び込み、DPを増やす対策を取らなければならない。


 未進化のレベルⅠダンジョンでも、維持費は1日10DPかかる。

 多少自然回復もするらしいが、それも1日1~2DPしかなく、何もしなければ約1年で終わりだ。


 ダンマス不在で打つ手のないこのダンジョンが今日まで生き残ったのは、ここが魔物の巣になったからだった。

 そう、私が食べられかけたあいつである。


 この魔物はデビルズアームという種類のかなりの大物で、丸1日滞在するとダンジョンに12DPが入ってくる。

 DPが1000を切った頃に棲みついてくれたおかげで、ダンジョンはなんとか生き永らえた。


 狩りなどで外に出ている分はカウントされないけど、そんなに積極的に出歩くタイプではないらしく、維持費をなんとか賄えている状態だ。


 それから4年ちょっと。

 現在のDPは少しずつ増えて、1300くらいだそうだ。


 ちなみに1日洞窟に放置された私の滞在ポイントは34DPで、死んで吸収されたら500DP以上になったらしい。効率!

 まあ、吸収される前に食べられただろうけど。

 ともかく、ダンジョンが人間を集めなきゃならない理由がわかった。


「でもさあ、これって魔物が引っ越せば終わりだよね?」

『はい……』

「私が人間のままでいたら良かったんだろうけど、ダンマスが滞在してもDPにならないんだよね?」

『はい……』

「あ!私が増えた分、余計にコストかかるとか?」

『いえ、それは一律なので大丈夫です。むしろ、ダンマスが生まれてダンジョンが安定した分、自然回復量が大きくなるくらいです』

「そうか、なら良かった」

『はい』


 デビルズアームがいなくなった場合、1300DPは160日くらいで消える計算になる。

 それまでに、少なくとも消滅の心配をしないで済む方法を見つけなきゃならない。

 ふと思いついて訊いてみた。


「ねえ、コアちゃん、滞在とか吸収とか以外に、DP増やす方法ってないの?」

『えと、あとは物を吸収することもできますが、魔石以外は魔力が低いのでほとんど役に立ちません』

「じゃあ、魔石を集めるってのは?」

『基本、魔石は魔物の体内にあるので、魔物を倒さなければならないです』

「森に落ちていたりしない?」

『鉱石が魔石化したものもありますが、森は魔物がいて危険です』

「だよねー。でも危険でも外に出ないことにはどうしようもないしなあ。

 何か、気配を消すみたいなことができればいいんだけど……」

『気配を消す……。あ!』


 コアちゃんが何か思い付いた。

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