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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第2章 崖っぷちダンジョンの延命策

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10.属性過多の女

 暇です。

 ディオニシアさんがいつ転移してくるかわからないので、席を外すわけにもいかない。

 母さんの話だと、彼女はかなりせっかちな性格で、魔法陣が作動したらすぐに行くって鼻息荒く言ってたそうなので、多少の準備時間があったにしてもこんなに時間が開くはずがない。


 これは、お姉ちゃんが言った失敗説が有力か?


「ねえ、母さん。これって失敗したっぽくない?」

「え? 私はちゃんとやったわよ?」

「いや、そうじゃなくて、魔法陣に何かミスがあったとか、不良品だったとか」

「不良品?ディオに限ってそれはないわね」


 母さんはあっさり否定した。


「あの子は魔道具師としては一流なのよ。多分国で3本の指に入るんじゃないかな。

 この転移の魔法陣だって、無駄な装飾をしてないだけで、王室に納めているのと変わらないって話だからね」

「そんなすごい人なの?」

「そうだね。宮廷魔導士の試験、歴代トップだったらしいよ。

 魔道具を作り始めたのはリムズデイルに来てからだけど、すぐに領主の目に留まって、その領主の保護もあって商会が大きくなって、おかげでリムズデイルは魔道具の街として有名になったのよ」

「天才じゃん!

 でも、そんな人が何で宮廷魔導士辞めたの?」

「ああ、コミュニケーションが下手くそな上に仕事ができすぎたせいで、やっかんだ上司にいじめられたんだよ。

 たまたま居合わせた酒場でずっと愚痴ってて鬱陶しいから、そんなに嫌なら辞めちゃいなって言ったのよ。

 そしたら懐かれて、あたしが実家に戻るときにほんとに辞めて付いてきて、そのままそこに住んでるってわけ」

「めんどくさ!

 まあ、上手く行ったんならよかったけどさ。

 じゃあ、母さん、結果的に隣の領の恩人って感じ?」

「実はね!

 でも、両親はもう亡くなって家もないし、ヒューと結婚してこっちに来たから、何も美味しい思いなんかしてないんだけどね、あははは」

「別れたら美味しい思いできるです!」

「うわっ!」


 突然割り込んできた子供のような声に驚いて目を向けると、魔法陣の上で、なんとも個性的な人物がこちらをビシっと指さしていた。


「ディオ……」


 母さんが深いため息をついて肩を落とした。


「え? ……あの、わ、別れる……です?」


 予想していた反応と違ったのか、球体に細い手足を付けたどこぞのゆるキャラっぽいシルエットの持ち主は、おどおどと視線を泳がせた。


「別れないわよ。

 それより、どうなってんのよ。すぐに来るって言ってたのに」

「そ、それはですね、転移しようと思って様子を窺ったらヒューの声がしたのでいなくなるのを待ってたです。

 声がしなくなって行こうかと思ったら私の話になって、天才って言われたので、天才っぽい登場を考えてたです」


 細い手をバタバタさせながらの説明は、母さんに一刀両断される。


「かっこよくなかったわね、全く。

 で、天才だっけ? ミリ、天才っぽかった?」

「え? ……いや、なんていうか……」

「いいわよ、気を使わなくても。

 天才というより痛恥ずかしい感じ?」


 ガーン! という表情で固まるディオニシアさんを一瞥して、「それでね」と母さんが話を進めようとするが、私は重大なことに気づいてしまった。


「ちょっと待って!

 ディオニシアさんのあの耳って……」

「耳?

 ああ、エルフだからね。あんなんだけど、私より年上よ?」


 違うと言って欲しかった。

 森に住んでなくて、弓も持ってなくて、体型も違ってて、耳だけ尖っている。

 これをエルフと呼べと?

 いや、そういうエルフがいてもいいけどさ、異世界第一エルフがこれじゃあ色々台無しだよ!


「……えーと、つまりディオニシアさんは、元宮廷魔導士のやり手人見知りロリババアエルフ天才錬金術師って感じ?」

「あと太っちょってのも入れといて」

「元宮廷魔導士のやり手人見知りロリババアエルフ天才太っちょ魔道具師」

「そう! それがアレ!」

「ひどいです!」


 泣いた。

 本人を前に口が滑った。

 違和感と属性の多さのせいで、そこまで気が回らなかったよ。

 人見知りに初対面であの言いぐさ。そりゃ泣くわな。

 前世陰キャだった私にも覚えがある。


 深く反省し、謝り倒して、なんとか許してもらえた。

 肩書は、色々不都合な部分を削除して、「元宮廷魔導士の天才魔道具師」ということに落ち着いた。

 「太っちょ」部分については、冬になってからダイエット開始という提案にはご納得いただけず、明日から始めることになった。

 謝る流れの中で、気が付いたら押し切られていた。やり手ババアの片鱗を見たね。


 ダイエットの知識があるのは私だけなので、必然的にディオニシアさんは私が担当になる。

 宿の方は、家族とリリで回してもらう。

 あれ?いつもとあんまり変わんなくね?って気が付いて、自分のニート具合に愕然とした。


 なんとか私の存在意義を証明せねばならぬ。

 念話でコアちゃんに確認したら、ディオニシアさんの滞在DPは1日40ポイントくらいになりそうってことなので、俄然気合が入った。

 この際、ダラダラ長期滞在してもらって、ガッツリDPカネを貢いでもらおう。

 そんで、私が稼げる女であることを見せつけてやる。


 というわけで、今から早速打合せだ。

 明日からダイエット開始なら、今日中に諸々詰めておかなきゃ。


 前提として、改めてダンジョンのことを口止めしようと思ったら、ディオニシアさんはダイエット情報も含めた秘密保持契約書を準備していた。

 魔法契約書っていうファンタジーではおなじみのやつで、ディオニシアさんの商会のベストセラー商品らしい。

 これで話すこと自体ができなくなるらしい。


 なるほど。それなら情報を開示しても安心である。

 ここがダンジョンなのは既にバレちゃってるわけだし、この際前世関連のことは話してもいいかな。


 私は、ダンジョンと私の出自に関して契約を交わし、諸々をぶっちゃけることにした。

 ダイエット知識の出元は秘密にしなきゃだけど、情報自体は広めてもらっていいので、範囲はダンジョンと私の出自に関してのみとした。

 ちなみにこちらで自由に決められる罰則は、『秘密を話そうとしたら、思いっきり舌を噛む』です。


「――なるほどー。ミリちゃんは転生者で、異世界の記憶があるですね。

 転生者の記録は、王宮の図書館で読んだことがあるです。

 ガラスや紙の製法は転生者の知識だって書いてありました。

 あと、ディオのことはディオって呼んでください。時間がもったいないです」


 ディオさんの反応はあっさりしたものだった。

 先輩転生者のおかげで、問題なく信じてくれたようだ。

 てか、自分のこと名前呼び?愛称OKの理由タイパ?

 いや、めんどくさそうなので突っ込まない。


 ディオさんの興味は、私の転生よりダイエットの方だ。

 

「で、その知識でディオを元の美少女に戻してくれるですね?」

「美少女?」

「美少女です!痩せれば美少女です! エイダと出会った頃は美少女だったです!

 ね、エイダ、そうですよね?」

「え? ああ、そうね。可愛かったわよ?」

「ほら! 美少女です!」

「いや、引っかかったのそこじゃなくて、少女、いえ、何でも」

「少女です!エルフの60歳はヒューマンの12歳です!」


 ディオさんが食い気味に叫びつつ、墓穴を掘る。


「60歳なんですね、ディオさん」

「何で知ってるですか⁉」

「今自分で言ったからです!」

「え?」


 ディオさんは再び落ち込んでしまった。

 なんつうか、ポンコツ臭漂う人だ。実に好感が持てる。

 精神年齢アラサーのお姉さんが慰めてあげよう。


「大丈夫ですって。ちゃんと美少女に戻してあげますから」

「ほんとです?」

「ほんとです。ダンマスとして保証します」

「ダンマス?

 ミリちゃん、ダンジョンマスターなんです⁉」

「あ……」

「ブフッ!」


 母さんがお茶を吹いた。

 やっちまった……。


 その後、質問攻めにあった私は、転生からの経緯を全部白状させられた。

 ディオさんが契約書用意してくれていてホント良かった。

 

 すまん。一番のポンコツは私だったよ……。

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