9.監禁前提
本日も3話更新です。
母さんはみんなに責められてシオシオになってる。
酔ってダイエット自慢と孫自慢をたっぷりしたらしい。
自業自得である。
反省は後ほどたっぷりしていただくとして、そのまま緊急MTGに突入する。
「一番心配なのは、そのディオニシアさんって人があちこちに言いふらさないかってことだよね。
母さん、そのあたりはどう?」
「うん、そこは大丈夫だと思う。
口止めもしてきたし、そもそも引きこもりで友達もいないから」
「でも商売やってるんでしょ? 誰かに話さない?」
「あ、確かに商会はやってるけど、ディオは魔道具師でほとんど研究室から出てこないのよ。
私と会った時も、人と話すの5日ぶりって言ってた」
「あ、そういう人なんだ」
「うん。転移陣使うっていうのも、外に出て人と会うのが嫌だからだって。
もちろん、運動したくないっていうのが先だとは思うけど」
井戸端会議であることないこと言いふらすおばちゃんじゃなくて良かった。
でも、放置すればするだけ拡散するリスクが増えることに変わりはないわけで、このまま無視するわけにもいかない。
「来てもらうしかないかあ」
「さっさと来てもらえばいいじゃん」
私のため息にかぶせて、姉ちゃんが軽い調子で言った。
「母さん、ディオニシアさんって元宮廷魔導士じゃなかったっけ?」
「そうよ。3年で辞めて今は魔道具作ってるけど、私が王都で知り合った時には魔導士だったわ」
「じゃあさ、きっと魔力高いよね。
で、その元魔導士がダイエットしたがってるんだから、痩せるまでここに監禁すれば、DPがっぽり稼げるんじゃない?」
なるほど。
監禁前提なのはともかく、確かに、高魔力持ちならその手はある。
「母さん、その人って魔力高い?」
「詳しくはわかんないけど、高いと思うわよ。
低かったら宮廷魔導士の試験に受かるはずないから」
「おお、いいじゃねえか!
そんで、ここにいる間の宿代もふんだくってやれ!
俺のマジックバッグのメンテでぼったくりやがった仕返しだ!」
「やめなさい、ぼったくってないから。
あんたが雑に使うからでしょ!」
母さんが父さんの胸に鋭い逆水平を決めた。
父さんは胸を抑えつつまだブツブツ言ってる。ディオニシアさんが来た時に余計なこと言わないように釘を刺しておかなきゃだな。
「じゃあダンマス、ディオさんを呼ぶってことでいいのね?」
「まあ、しょうがないか……」
お姉ちゃんの確認に私は頷いた。
母さんのやらかしのせいで想定外の展開になっちゃったけど、こうなったらうまいことDP獲得につなげて、結果オーライを目指そう。
それはそれとしてだ。
「てか、その布! 転移魔法って何?」
私は母さんが出したファンタジーアイテムを掴んだ。
さっきは急展開でスルーしてしまったけど、これそんなに軽いノリで出すもんじゃないよね?
「何って、転移魔法は転移魔法よ。あんたも使ってるでしょうが」
「え?」
――ホンマや。
ダンジョン内限定だけど、普段からホイホイ使うとったわ。
いや、そうじゃない。
私のはダンジョンの機能で魔法じゃないけど、これは本物の魔法だ。
「全然違う!
この魔法陣?って、ダンジョンの外でも転移できるんでしょ?
絶対にすごいやつだよ!」
「そうなの?
よくわかんないけど、売値は300万タシュって言ってたから値段は確かにすごいわね」
「300万⁉」
私は慌てて握っていた布をテーブルに広げ、両手で丁寧に皺を伸ばした。
「あははは。大丈夫よ。これはディオんとこの商品で、原価は3000タシュくらいって話だから」
「やっぱ、ぼったくりじゃねえか!」
父さんが叫んだ。
「何怒ってんのよ。
いいじゃない、見栄張ってる貴族からお金巻き上げるんだから。
関係ないヒューがお貴族様の心配をする必要がどこにあるのよ?」
「うっ」
言い返せない父さんはどうでもいいけど、すげえぼったくりだよ!
何だよ原価率0.1%って。前世でも聞いたことがないよ!
ビビって損した!
私は改めて布を手に取る。
前世のテーブルセンターほどの大きさの布は、うっすら青味掛かった白で厚みはけっこうある。
目は詰んでいて、この世界で見たことのある布よりずっと上等な感じだ。
そこに、黒い光沢のあるインクで複雑な魔法陣が描かれ、その上から透明なコーティングで保護されている。
うん。確かに丁寧に作られてはいる。
こんで300万かあ。
そりゃ旨いもん食い放題だわ。
そんで引きこもりで人嫌いだったら、確実に太るわね。
なんか納得した。当然、魔法陣は見ても全く意味が分からなかったけど。
「で、母さん、これ、どうやって使うの?
さっき、魔石をなんとかって言ってたけど」
「ん?えっとねえ……」
母さんは貴重品袋からメモを取り出した。
「ええと、この布を平らな床に広げて、えーそれから、この魔石を真ん中に置いて、そんで詠唱するのね。
詠唱の言葉は、ここを縁の地としてくさ」
「待ったあ!」
私は大声でその詠唱とやらを遮った。
「母さん、声に出しちゃダメでしょ! 発動したらどうすんのよ?」
「大丈夫よ。魔力込めてないから」
「だとしても、確認もなしにやっちゃダメ!
貸して!」
私はバッとメモを奪い取った。ったく危なくてしょうがない。
まあ、手順はわかった。
で、問題はいつにするかだ。
宿の再開は明後日。採取組4人とハンター3人の予約が入っている。
つまり、お仕事組の常連さんたち全員である。
その後には収穫を終えた農民たちが骨休めにやって来る。
とてもディオニシアさんを受け入れる余裕なんてない。
「母さん、冬まで待ってもらえそう?」
「うーん、厳しいかも。ディオ、せっかちだからねえ。
だから、時間を開けるとお金使って村に押しかけて来ると思う。
村にはここがダンジョンだって言ってないでしょ?そこがちょっと心配」
「そっかあ……。早めに呼ぶしかないかあ……。
でも明後日から予約いっぱいなんだよなあ……」
「じゃあ、とりあえず明日来てもらって、軽く話だけして、すぐ帰ってもらったら?
その魔道具があるんだから、行き来は簡単だよね?」
「それだ!お姉ちゃんナイス!」
お姉ちゃんの意見を採用して、ディオニシアさんは明日一日で対応することにする。
ダンジョンバレしちゃってるわけだから隠すこともあまりない。口止めだけしっかりして、ダイエットの説明とスケジュール決めをざっくりしとけばOKだろう。
接客は、もちろん母さんに責任を持ってやっていただきましょう。
で、翌日です。
午前中に全員で宿再開の準備を済ませ、いよいよ魔法陣を起動する。
「じゃ、行くわよ」
母さんが陣の中央に魔石を置き、掌をかざす。
初めて見るファンタジーっぽい魔法に、なんか緊張してきた。
「ここを縁の地として楔を打ち込む。クーネオ」
思ったより短い詠唱が終わると、魔法陣は淡い光を放ち、元の状態に戻った。
しばらく見ていたが、特に何も起こらない。
「……失敗?」
「私、言われた通りやったわよ!
大丈夫なはず。光ったし!」
母さんがジト目のお姉ちゃんを慌てて否定するけど、何の動きもないことに変わりはない。
「――父さん、狩りに行こうか」
待つのに飽きたお姉ちゃんが、そう言って立ち上がった。
「だな。時間の無駄だ。
来るんならそのうち来んだろ。
後はよろしくな!」
父さんが嬉しそうに乗っかり、ふたりはさっさと部屋を出て行った。
「まったく、ディオは……」
母さんは動く気配のない魔法陣を見てため息をついてるけど、いや、元はといえば母さんのせいだからね?




