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10.魔石拾いの行き先

 名前を付けた時から、きっとこうなる運命だったんだろう。

 コアちゃんの溺愛具合は日に日に増していったし、私も見慣れて、恐怖心よりかわいいと思う気持ちが強くなっていた。

 眠っているときに、洞窟の角のところからこっそり眺めることもあった。


 デビリンにとっても、空調とベッドが完備され、愛情のオーラを浴び続けていたわけだから、「うちの子」化する下地はできていたんだと思う。


 リリは生まれた時から見ていたから、何の恐怖感もなかったんだろうな。

 近寄っちゃダメとは特に言ってなかったのだから、リリが魔石をみつけるきっかけをくれたお礼を言いに行ったのは、全く悪くない。

 てか、うちの娘、ほんといい子。


 でもまさか、リリが呼んだことで名付けが成立してしまうとは思わなかったよ。

 一発で理解できちゃうくらい賢かったんだね、デビリン。


 まあ、なっちゃったものは仕方がない。

 DP問題を先送りして、私たちはデビリンに集中する。


『こ、ここに呼んでもいいでしょうか?』

「おなしゃす!」


 リリがデビリンのクビに抱き着くと、コアちゃんが速攻で転移魔法を発動した。


「うおっ!」


 目の前に出現した巨体は、わかっていてもやっぱしちょっと驚くけど、なんだろう、眷属になったからかな?獣臭もしなくなってるし、かわいいとしか思えない。

 リリとのツーショットとか、「でゅふふ」って声が漏れるくらい眼福でございます。


 デビリンはのっそり歩いて、まずクリスタルをベロンを舐めた。


『ふわぁぁぁ……!』


 コアちゃんが感極まって変な声を出してる。


 そして最後は私だ。

 私は目を閉じて舐められるのを待ったが、一向に舌はやってこず、鼻息だけが大きくなる。

 薄目を開けて見たら、――えっと、なんかめっちゃ臭い嗅がれてるんですけど。

 臭い?私臭いの?舐めたくなくなるほど?


 直立不動のまま動けずにいると、太い腕でガシッと抱え込まれた。

 抵抗するがびくりともしない。


「がうっ!」


 なんかキリッ!って感じで言ったけど、わかりません。


「えっとねえ、みりねえがいちばんよわいから、まもってあげるって」

「え? ……ありがとうございます?

 てか、リリ、デビリンが何言ってるかわかるの?」

「うん、わかるようになった!ねんわ?」


 念話かあ、羨ましい。あと苦しい。

 私もデビリンに「放して」って念を送ってみるが、反応はない。知ってたけどな!


「リリ、デビリンに放してってお願いしてくれる?」

「わかったー。

 デビリン、みりねえをはなしてあげて」

「ぐあ」


 解放された。

 主の言うことは素直に聞くのね。

 あれ?リリがデビリンの主っていうのはいいとして、私の立ち位置はどうなんだろう?


 おしゃべり中のリリとデビリンを横目で見ながら、コアちゃんに聞いてみる。


「コアちゃん、私ってデビリンに自分より下って思われてる感じ?」

『うーん。どうなんでしょう。聞いてみます』


 コアちゃんもデビリンと念話できるのか。


『妹、だそうです。上か下かで言えば、下ですね』

「妹って何? 結局最下位じゃん!」

『デビリンちゃんはかわいいので大丈夫です!』

「大丈夫じゃないやい!」


 ワシはダンマスやぞ!?

 くそー!こうなったらモフってやる!

 私はデビリンに突撃して、黒い毛皮に抱き着いた。


 ――素敵でした。もう4位でいいやって思いました。


 デビリンとリリを洞窟に戻して、私とコアちゃんは少し落ち着きを取り戻す。

 デビリンはかわいかったけど、もっと触っていたかったけど、そのデビリン問題について話さなければいけないのである。


「で、コアちゃんさ、これからどうする?」

『すみません。わたしが名前を付けたせいです』


 興奮から覚めて、コアちゃんは落ち込みモードだ。


「いや、そうはもういいよ。私も賛成したんだし、デビリンかわいいし。

 それにこれからはデビリンも手伝ってくれるって思えば、そんなに悪いことじゃないんじゃないかな?」

『……そうですね。

 うん。デビリンちゃんが手伝ってくれるなら、きっと大丈夫ですよね』

「そうそう。

 でね、早速明日からデビリンといっしょに魔石取りに行こうと思うんだ」

『なるほど。デビリンちゃんが一緒なら、遠くまで探しに行けます』


 あんなに反対してたのに、デビリンが一緒なら遠出もOKみたいだ。

 信頼が大きすぎて若干引くけど、私より付き合いが古いんだからそこはとやかく言うまい。

 さっきデビリンも守ってくれるって言ってたし、背中に乗れば移動もすごく楽だ。


「よし、頑張る!」

『はい! お願いします!』

「じゃなくて、コアちゃんも一緒に頑張るんだよ? 相棒でしょ?」

『!。はい!!』


 やる気になった勢いで、その後遅くまで話し込んだ。

 将来のことを含め、腹を割って話し合ったのは、何気に初めてだった。


 コアちゃんの密かな望みは、ダンジョンレベルを上げることだった。

当然なことだ。

 ダンジョンは本能的に成長を求める。

 それを「密かな望み」にしてしまっているのは、ダンマスの力不足以外の何物でもない。

 現状がどうあれ、ダンジョンコアの望みを叶えるのがダンマスの仕事なのだから、そこで気を遣わせちゃダメなのだ。


 そんなこんなで設定された当面の目標が、冬が来る前に15000DPを貯めること。

 日数にすれば200日で、DPを初期値の5倍に増やそうというわけだ。


 DPはレベル判定の必須要素だろうし、ダンジョンを安定させつつレベルⅡを目指すには一番外れのない方法だという判断だ。

 RPGみたいに次のレベルまでの経験値がわかるわけじゃないから、それで確実にレベルが上がるとは思ってないけど、15000DPあれば階層を増やすこともできるし、このままなら5年以上やっていける計算になるから、別の手を考える時間もできる。


 翌日から、私たちはせっせと魔石を拾った。

 初日の収穫の石英魔石分より少なめの1日120DPのノルマは、順調にクリアされていった。

 DPが増えてコアちゃんは倍くらいの大きさになった。

 リリも6歳児くらいに成長した。コアちゃんの影響か、時々口うるさい。


 サクサク進んだのは、もちろんデビリンのおかげである。

 パワーもスピードもある上に、森を知り尽くしているのだから、当然といえば当然なのだが、とにかく楽チン極まりない。


 デビリンの縄張りは、ざっくり言えば洞窟を中心とした半円状で、湖全部と川の上流が含まれているので、魔石を探してさまよう必要はない。

 縄張りの中なら魔物が襲ってくることもないので、初日のように焦って回収作業中に川に落ちることもなかった。


 ――だが、そんな時間は2ヶ月ほどしか続かなかった。

 見つかる魔石の数が急激に少なくなってしまったのだ。

 原因は乱獲だから、自分の責任だ。


 この時点でのDPは約8800。

 陸の石英を川に撒いてみたけど、すぐに魔石化するわけでもない。

 魔石拾いを始めてから8000近く増えてはいたが、このままでは冬前までにあと7000DPを稼ぐのは難しそうだった。


 私たちは、縄張りの外に足を伸ばすことにした。

 魚好きのデビリンは川の下流には興味がなく、行ったことのない場所ではあったけれど、大きな魔物の気配がないのを確認し、リリとの視覚共有の圏外になることを心配していたコアちゃんの許可も下りた。


 魔石はそれほど多くはなかったが、それでも上流よりはましで、目標に向けて気合を入れ直した頃、私たちの前に予想外のものが現れた。


 それは、少し幅を広げた川のほとりに建つ、一軒の粗末な丸太小屋だった。

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