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プロローグ

初投稿です。

チートも無双もない地味な話ですが、よろしければおつきあいください。


毎日22:00更新予定です。

 気がつくと白い部屋の白いカウンターの前の白い椅子に座っていた。

 ああ、死んだのかって、ストンと理解した。

 納品前のデスマーチ3徹明けの昼前、急に胸が苦しくなってそのままだったんだな。


 そっかー。死んだかあ……。

 なかなかハードな人生だったなあ。


 思えば、IT系の専門学校を卒業して就職した地元の会社で、あのクズ男と付き合った時からおかしくなったんだよなあ。

 そいつは強烈なモラハラDV男で、別れるためには会社を辞め、地元を離れるしかなかった。


 上京してベンチャー企業のプログラマになり、男はもうたくさん、お金を稼いでやると意気込んだけれど、その会社は真っ黒だった。

 研修期間の2週間は食べ歩きする余裕があったけれど、配属が決まってからはサービス残業の連続で、あっという間に眠る時間を優先する生活になった。

 上京前、ストレスから過食に走りぽっちゃりしていた体は、3ヶ月で元に戻った。


 離婚して女手ひとつで私と弟を育て、弟が就職するのを見届けるように亡くなったお母さんのお葬式の時も、翌日には強制出社させられた。

 それが入社2年目。


 そこからさらに3年で死去。

 28年の人生だった。

 ブラック企業の洗脳から脱出できたから、その方がマシだったかもしれない。


 弟が気がかりではあるけれど、結婚して子供も生まれたし、使う時間がなくて口座で眠っていた私のお給料と残業代が彼に渡るなら、姉として少しは役に立てたと思うしかない。

 でも、死ぬ前にもう一度くらい会いたかったな。姪っ子の顔も一度しか見られなかったし。


「カシワギミリさん」

「うわっ!」


 いつの間にか、目の前に白い服の男が座っていた。


「み、美里ミリじゃなくて美里みさとです」


 確かに友人にはそう呼ばれてたけど、あんたに呼んでほしくない。


「あ、そう。まあどっちでもいいです。

 えーっと、あなたは死んで、今は、転生前の意思確認をするところね。

 転生OKなら、これから向こうに送ります」

「は? 向こう?」

「異世界。ラノベとかアニメとかで知ってるでしょ?

 で、早速だけど、転生するならここタップしてください」


 男は、やっつけ感を隠そうともせず、差し出したタブレットのボタンを指差す。


「いやいやいや!」


 私はタブレットを押し戻す。


「話、雑過ぎでしょ」

「え? 転生したくないの?

 珍しいね。せっかくに一千万人に一人に選ばれたのに。

ま、それならそれでいいですけど。

 はい。じゃあ、ここの『辞退』ってとこタップして」


 男はまたタブレットを差し出す。


「いや、しないとは言ってねーし!」


 私も再び押し戻す。


「何?めんどくさいなあ、ほんと。

 いいでしょ? 転生できるんだから」

「そこじゃなくて!

 説明足りてないから。

 もうちょっと、こう転生先の説明とかないの?

 あと、私が選ばれた理由とか」

「選ばれた理由?

 ないない。ランダムでピックアップされただけだから。

 それとも、アレ? 特別な何かがあるとでも思いました?

 あなたに?」


 男は小ばかにしたように鼻で笑った。


「お、思ってねーし!

 そっちはいいから、転生先の説明はちゃんとしろや!」

「えぇ? 説明必要?

 聞いても変わんないから省略したんだけど」

「省略すんなや!」


 男は心底面倒くさそうにため息をついた。


「じゃあ、説明しますけどね。

 まず、転生先はこちらから提示した選択肢以外は選べません!

 付与する能力も転生先の肉体で決まっていて、追加も変更もできません!

 OK?」

「お、オーケー」


 勢いで頷いてしまったけど、その程度の制約なら問題ない。


「はい。じゃあ、もうすぐ定時だからチャッチャといきます」


 男はタブレットを見ながら早口で続ける。


「えーと、あなたの転生先は、ダダリア。

 文明はこちらの中世後半程度。危険度も中世程度。種族は人間とエルフとドワーフ。1年は10ヵ月、1ヵ月は36日、1週間は10日、1日は25時間。時間感覚は地球と似ているからラッキーですね。

 エネルギーは物理プラス魔力。地球のファンタジーのテンプレのイメージです。


 で、転生の候補は、まずは聖女。膨大な魔力と回復魔法の最上位の才能があります。

 その代わり、戦争の前線に駆り出されます。


 次は、伯爵令嬢。金と身分は保証されます。才能は剣技と統治の上位。領地経営と魔物の駆除が仕事ですね。


 以上です。

 で、どっちにします? やっぱり、聖女?」

「いきなり? 考慮時間は?」

「ないです。

 早く決めて?」


 あーもう!

 えーと、聖女か伯爵令嬢?

 チートが保証されているのは確かに美味しいけど。

 でもなあ。正直そこまで食指が動かないんだよなあ。

 戦うのは嫌だし、領主をやって領民を守るような甲斐性もない。


「いっこ質問いいかな?」

「何ですかもう。めんどくさいやつなら却下ね」

「例えば聖女になったとして、戦争に行くの拒否したらどうなるの?」

「そりゃ能力喪失だよね。

 チートを与える条件は、向こうの世界に貢献することだから」

「聞いてねーし!」

「地球と異世界の魂の交換をする際の決まりだから、言ってもどうしようもないの!」

「そうですか!

 で、能力なくしたら死ぬの?」

「死にはしないけど、まあ、能力を失った聖女がどう扱われるかは、わかるでしょ?」


 あー……。それは想像しやすい。

 処分か、飼い殺しか、追放って感じか。


「じゃあ、それは別の人に譲るってことで」

「別の人なんかいないよ?この星の枠ひとつだけだから」

「そうなんだ」


 それならそれでいいや。

 転生後に元日本人のお偉い聖女様に会うとかやだから、むしろそっちの方がありがたい。

 あと、令嬢コースもナシだな。統治も剣も興味ないし。


 チートなんて、望まない責任を負ってまで欲しいもんじゃない。

 ハードモードだった前世のせいで、私の気力はけっこうスカスカなんだよ。


「平民ってないの?」

「平民希望?

 あるけど、バカなの?」

「いいよバカで。

 確認だけど、平民の場合、生まれる先の希望とか受け入れられたりする?」


 男は一瞬キョトンとした顔をした。


「マジで平民?

 ――ま、どうでもいいけど。

 で、何だっけ、生まれる先の希望?

 えー、平民は貴族みたいに縛りはないんで、都会か地方かくらいは選べます。

 職業はここで決めません。やりたいことがあるなら向こう勝手にどうぞ。

 転生者だから魔力は多くなるけど、魔法の才能とか全くないので期待しないように。

 性別は選べないけど、魂と相性のいい体に転生するから、まあ大体今自覚してる性別になります。

 新生児として生まれるのか、事故とかで死んだ体に転生すんのかも選べません。

 以上!」

「死んだ体?」

「普通でしょ、そんなの。地球のアニメとかにもあるでしょ?

 転生先の体に怪我とか病気とかがあっても、転生特典が働いて、魂が入った時点で完全に健康体になるから問題ないです。

 元の魂は回収済みで、霊関連も心配なし!」


 普通なのかどうかはわかんないけど、幽霊じゃないのなら、まあ許容はできるか。

 こいつが言うように、昔アニメで見たことのあるパターンだからか、確かに忌避感はあまりない。

 ある程度成長した状態からのスタートなら時短にもなるし、そうなったらなったで受け入れよう。

 そんで、あくせくするのはもう嫌だから、田舎でのんびりスローライフかな。

 戦場よりずっとマシだ。


「よし、決めた。

 地方の平民にする!」


 男は呆れたようにため息をつき、タブレットを差し出した。


「はい。じゃあ、この決定ボタンね。

 お疲れー」


 タップすると、私は光に包まれた。


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