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二話 愛する姉様のためなら汚い手も使います!

「アイリーン姉様のため、私のため、そしてお2人のために、私はこの男のもとへ行きます」


 姉様を外国に送り出し、両親にその事を報告した。始めは何を勝手なことをとプリプリと怒っていたが、姉様が大泣きした事やその後も泣き暮らしていた事、更に外国に行ってと言ったら満面の笑みを浮かべた事をつらつらと語ったらば。両親はしょんもりと肩を落として反省していた。


「まさかそんなに嫌だったなんて……」

「あの子、私たちには何にも言わないんだもの……いつも笑顔でいい子なのは他所様の前だけでいいって言ってるのに!」

「そうだね、本当にいい子で……ううっ」

「ごめんね、ごめんなさいアイリーン……」


 お父様とお母様はひしっと抱き合い、声を上げて泣き出した。まったく仲のいい夫婦だこと。それにアイリーン姉様のこともとても愛している。だからこそ、目に入れても痛くないほどに可愛いと思っている娘をようやく嫁に出せるとはしゃいでしまったのだ。その可愛い娘をそっちのけで。支度金だの嫁入り道具だの新しいドレスだの連れていかせる使用人の厳選だのにてんてこ舞いで、姉様の気持ちを聞くのを忘れていたのだ!このスカポンタン両親め!


「まったく!姉様のためと言うならちゃんと会話をして下さい!」

「うう、ごめんよクルシェちゃん……」

「立派に育って……なんていい子なのかしら!嗚呼、うちの子に生まれてきてくれてありがとうクルシェちゃん……」

「はいはい、私も愛情深いお二人の娘に生まれてこれて幸せですわ!」

「うちの子、本当にいい子ー!!」

「えーん!自慢の娘ー!!」


 更に大きな声で泣き出してしまった。まったく毎度のことながら涙脆いことだ。愛情深くて涙脆いし素直で他人を疑わない。なんというカモ……よく伯爵をやっていけてますわねこの人。そんなお父様と、愛情深くて涙脆いけど疑り深くて家族以外には超絶冷たいお母様。この人のお陰でウチは存続していると言える。


 我が家であるアドゥル伯爵家は細々と続いているだけのしがない伯爵家だ。名のある英雄を先祖に持つこともなければ莫大な富もないし有名な観光名所も皆無。ちょっと所有地の山から宝石が取れて、領民が丹精込めて作ったとても質のいい絹織物を王家に献上しているだけ。全くもって平凡な普通のごく一般的な伯爵家である。


 我が家で有名な所があるとするなら、対称的な組み合わせでいる事が多い事くらいでしょうか。他所様の屋敷では常に笑顔のお父様と、そのお父様から片時も離れない鉄面皮のお母様。愛らしい婚約者のお義姉様と常に行動を共にしている無愛想なお兄様。そしていつも女神のように微笑んでいるアイリーン姉様と、その姉様からほぼ離れない無表情な私。……違うんです、あの、言い訳をします。


 私が無表情なのはただ表情筋が死んでるとかではなくてですね、わざとです。故意で、己の意思で、無表情を貫いています。何故かって?そんなの姉様に悪い虫が近づかないようにするために決まってるじゃないですか!……もう少し言い訳をします。


 私も最初は姉様を見習って微笑みを浮かべてお茶会やらパーティやらに参加していたんです。姉様の妹として恥ずかしくないようにしなければなりませんから。ですが、ある日……聞いてしまったのです。


 それはとある侯爵家主催の大きなパーティでの事でした。なんのパーティだったかは忘れました。私はアイリーン姉様から渋々離れ、一人でお花をつみに広い通路を歩いていました。こんな広い屋敷は初めてで、一人で目当ての場所に辿り着けるのか不安でしたが至る所に配置されている使用人の方々に道案内をしてもらい、迷うことなくお手洗いまで行けました。用を足して足早にアイリーン姉様を目指していると、途中にある休憩に使われていると思しき部屋から下品な大声が聞こえてきたのです。


「あのアイリーンとかいう大女、美人だけどやっぱ無理だわ!俺、隣にいた妹の方が断然好み」

「はは!俺も!やっぱ背は小さい方がいいよな」

「だよなー」

「しかも胸は大してデカくねぇしよ!」

「まったくだ!」


 私の愛する姉様を侮辱しているゴミカスが、ここに、いる。顔から表情が無くなっていくのを感じながら、気付くとドアをバァンと押し開けていました。中には男が三人。


「な」

「……顔、覚えましたわー」

「あ、妹の」

「ごきげんよう器も背もちーぃさなお子様方」

「はっ!?」


 ゴミカス男共を頭から足元までゆっくりと睨め付け記憶し、口元に貼り付けた笑みを浮かべて一礼して部屋から出る。もちろんドアを閉めることも忘れない。ゴミカス男共を睨みながらゆっくりドアを閉ざして早歩きで大広間へと戻る。


 姉様、アイリーン姉様、麗しき私のお姉様!今すぐに私の女神様の笑顔が見たくて姉様を探す。すぐに姉様を見つけた私はお義姉様、お兄様と共に複数人と談笑している姉様に急いで近付き、その腕に抱き着く。


「あら、クルシェ。何かあった?」

「嫌なことがありました。帰りたいです」

「そう。なら先にお暇しましょうか」

「……ありがとうございます、姉様」


 柔らかく微笑む姉様に頭を撫でられ、気分が上向く。何があったのか深く聞いてこない姉様が大好き。うぅ、こんな女神を侮辱するなんてあのゴミカス共絶対に許さんぞ……必ず報復してやる。必ず、必ずだ……!あともう人脈作りとか婚約者探しとか知らん。私はお外では笑わないし愛想も振りまかないし姉様から離れない!


 と、まあ。こんな事があっての無表情でして。私としても不本意なのです。ちなみにその後、件のゴミカス共には痛い目を見せてやりましたわ!


 具体的に言うとまずどの家か調べて三人とも我が家より家格が低いと判明、それぞれの女性関係を調べて婚約者がいる者にはその婚約者様に匿名で女性の外見的特徴を(あげつら)って悪様に言っておりましたし浮気をしようとしておりましたし娼館にて欲の発散をすこぶるしておられますよと暴露、手紙だけでは信じられないだろうと思いその婚約者様方を連れて事実確認からの無事婚約解消からの慰謝料請求からの極貧生活、残されたあと一人のゴミカスには厄介なメンヘラ子爵令嬢を言葉巧みにぶつけて既成事実を作らせ婚約からの借金フルコースでトドメでしたわ。うふふ、上手くいって大満足です。


 話が大分、逸れましたが私は姉様のためなら汚い手も辞さないと言いたいのです。そう、両親を貶めることも致し方なしと判断しました。私は両親に売られた可哀想な娘、その体でいく!そう話せば両親は泣きながらも頷いてくれ、もしあちらの家から確認の手紙が来てもクルシェちゃんに合わせると言って頂きました。よし。

 

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