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一話 妹のクルシェと申します!


「わたくし夜逃げしたアイリーン姉様の妹、クルシェと申します!両親からお前が代わりに嫁げと言われてこちらに嫌々、渋々、参りました。ここを追い出されたらスケベ爺の後妻にされるそうです、何卒宜しくお願い致します!!」


 自身が出せる最大音量でそう言った私は、急いでいたために手入れを怠ったバサバサの髪を右手で掻き上げ満面の笑みを浮かべて目の前の男を見上げた。姉の夫となるはずだったこの男、名を確かヘーゼル……ヘーベル?忘れてしまったけれど、まあいいでしょう。伯爵で姉を嫁にくれと言ってきた見る目だけはあった男!アイリーン姉様は妹の私から見て、控えめに言っても女神。


 艶やかな銀髪に月の光を宿したかのような美しい金の瞳。伯爵令嬢なのにまるでお姫様のような優雅で気品に溢れまくった立ち居振る舞い。優しくて勉強も出来て語学も堪能、ダンスも上手でしかも美人!まさに完璧な淑女!……そんな素晴らしいお姉様なのに……女性にしては背が高すぎると嫌厭され18歳になっても婚約者が出来なかった。女性で178cmは確かに高身長。ヒールも合わせたら190cmになる時もある。


 たかが身長が何よ!そんなもん姉様の魅力に対してなんの障害にもならない!そう思っていたのは私だけだった。姉様はいつしか結婚を諦め外国で働くことを夢見るようになった。姉様の夢なら応援したい。でも私の傍からいなくなるのは寂しい。相反する気持ちを抱えながら過ごしていたある日、姉様にこの男との縁談が舞い込んだ。


 初めての顔合わせの日、この男は姉様を見て驚いた顔をした。すぐに視線を逸らし、伴っていた側近に何かをボソボソと言うとすぐに帰ってしまった。その時の姉様の悲しそうな顔ときたら!いつも上品で決して淑女らしくない行動をしない姉様が走って自分の部屋に飛び込み大声で泣いたのだ……許せなかった。私は姉様に寄り添い落ち着くまで抱き締めていた。姉様は泣いていても美人だったしすごくいい匂いがして、私だけが幸せを感じてしまいとても申し訳なかった。


 この縁談はきっと無くなると思っていたのに、この男からすぐに姉様を嫁に欲しいと手紙が来て、両親がもちろんですどうぞこんな娘で良ければ貰って下さいと書いた返信をしてしまった。あんな失礼なことをしておいて姉様が欲しいだと!?許せない!!


 嫁ぐ日が決まり、泣き暮らす姉様が見ていられず私は考えた。そうだ、私が代わりに嫁げばいいじゃない、と。ドレスや宝飾品を売っぱらって金を作り、姉様に渡して外国に向かわせた。笑顔でありがとうと感謝の言葉を何度も口にする最愛の姉様を抱き締め、落ち着いたら連絡を下さいと言って見送った。


 姉様、元気にしてるかな。愛する姉様の安否を気にしつつ、また目の前の男を眺める。


 濃い灰色の髪に翠の瞳。歳は三十五。随分と年上だが初婚らしい。仕事が忙しくて結婚を先延ばしにしていたらこんな歳になっていた、と風の噂で聞いたが本当だろうか?厳しい表情に威圧感のある立ち姿。加えて背も高ければ体も厚い。この男、2mあるんじゃないか?ムキムキマッチョで顔も怖くて背がべらぼうに高い。普通に怖いから女性が嫌がっただけじゃないのか?と失礼な事を考えていたら、はぁっとため息が聞こえてきた。


「……つまり私は、アイリーン嬢ではなく君を妻にしなければいけないと?」

「その通りです!嫌なら私を実家に送り返して下さい。そうしたら私はスケベ爺の後妻になるため、貴方を呪いながらここを去りましょう」

「……脅しのつもりか?」


 より一層、顔を険しくさせた男を見て破顔する。


「そうです。まあ、こんな小娘の貞操なんぞどうでもいいと思うような鬼畜なお方なら仕方ありません、呪います」

「待て、変な人形を取り出すな」


 懐から自作の呪い人形を取り出したら止められた。ふふん、見よ!この本当に呪われそうな怖い人形ちゃんを!自分で作っといてなんだけど本当に怖い。マジで呪われそう。


「では、こちらに置いて頂けますか?」

「……ああ。ただし、妻ではなく居候としてだ」

「何故ですか?」

「……私はアイリーン嬢を妻にと書いた。君が代わりに来たからとすぐに嫁にするのは、君にもアイリーン嬢に対しても不誠実だろう」


 おや、これは意外な反応だ。姉様に対してあんな酷い対応をしたくせにそんなとこは気にするらしい。


「そうですか。では今日からよろしくお願いします」

「ああ」

「では私は今後、貴方様をなんとお呼びすれば良いのでしょう?」

「は?」

「私は旦那様と呼ぶつもりで来たので、呼び方に困っています。指定して下さい」


 真剣にそう訴えれば、目の前の男はまたも険しい顔をする。


「……ヘーゲルでいい」

「分かりましたヘーゲル」

「せめて『さん』は付けてくれ」

「まあ失礼しました。ヘーゲルさん」


 笑顔でそう言ってやれば複雑そうに口端を歪めて頷いた。ついて来いと言い、クルッと踵を返して屋敷の中へ歩き出すヘーゲルさんに黙々とついて行く。まずは第一歩達成ね。私がここに来た目的は愛するアイリーン姉様の代わりに嫁ぐため……というのは建前。本音は姉様を泣かせたこの男をどうにかして泣かせるために遠路はるばるここまで来たんだ!絶対に泣かす!!姉様、待っててね。私が必ず姉様の代わりに報復してやりますからー!!

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