おじさんエルフの森に畑をつくる。
おじさんエルフに会う。
「今日は久しぶりに肥料でも混ぜて、じっくり土作りするか」
陽光差し込む朝の畑で、花村亮はゴム手袋をはめて腰を伸ばす。だが、その瞬間だった。
「お願いですっ!誰か、誰か助けてくださいっ!!」
森の方角から少女の悲鳴が響いた。続いて爆音と、火柱。
「……おいおい。スローライフって言葉、こっちの世界にはないんか?」
ぶつぶつ言いながらも、手はすでに動いていた。土の壁を作って家を保護し、杖代わりの鉄の槍を形成する。木々の揺れを追って、森へ駆け出した。
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ほどなくして、花村は小さなエルフの少女を見つけた。
「大丈夫か、お嬢ちゃん」
「……あ、あなた、村の……お野菜のおじさん?」
「それ俺の正式な肩書きなのか?」
冗談を挟みながら、彼の視線は少女の後方へ。燃える木々の向こうに、黒い甲冑を纏った男たちが見えた。
「……エルフの里を襲うなら、相手が悪かったな」
おじさんは腕を軽く振る。木々の枝が生きているようにうねり、敵兵の足を絡め取る。さらに足元の土を隆起させ、囲むように壁を作った。
「火・土・木。三属性で十分だな」
彼の足元から、青白い炎が立ち上る。次の瞬間、彼の背後で爆風が起こり、追っ手の一団が空へ吹き飛んだ。
エルフの少女はぽかんと口を開けた。
「お、おじさん、何者……?」
「畑を耕してるだけの、44歳。独身。腰痛持ち。あと最近、胃腸も弱い」
「絶対それだけじゃない!!」
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助けた少女――名をリィナと言った。
「私の村が……燃やされて、家族も捕らわれて……!」
話を聞いた花村は、静かに頷いた。
「畑に手を出されなかっただけマシか。よし。助けに行こう」
「えっ、でも、エルフの村は“禁域”って呼ばれてて、人族は立ち入り禁止で……」
「……だったら、俺は人じゃなくて“転移者”ってことにしとけ」
いつものように、自然体で。だけど、決して見捨てない。その姿にリィナの瞳は揺れた。
「ありがとう、おじさん……!」
「名前で呼べ。花村だ」
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エルフの村は魔族の一派に包囲されていた。周囲の森は燃やされ、浄化の泉が汚されている。
「自然にケンカ売るとか……こっち来いよ」
花村は手を広げ、大地に語りかけた。
「……お前たち、怒ってるだろ? 力、貸してやるよ」
その瞬間、森が揺れた。枯れていた木が目覚め、根がうねり、大地が波打つ。清水が泉から溢れ、炎を洗い流していく。
魔族の兵士たちが一斉に向かってくる。
だが、おじさんは構えない。ただ、土を隆起させて盾とし、鉄の槍を打ち出す。火球が空を焼き、木の枝が敵を叩き落とす。
五行掌握。その真骨頂。
「働きたくないのに、こうなるんだよな……」
ぶつぶつ言いながら、彼は一人で村全体を守り抜いた。
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戦いの後、村は救われた。捕らわれていたエルフたちも無事解放された。
「花村さま……あなたこそ、“自然の守護者”です」
長老がそう言って頭を下げた。
「いやいや、俺はただの畑のおじさんで……」
「ぜひ、エルフの森に畑を作ってください!精霊たちも喜びます!」
「……まじで?」
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そして現在。
花村亮、44歳。
彼は今日も、エルフの森の片隅で畑を耕している。
「ほら見ろ、このナス。人族とエルフの融合の味がするだろ」
「花村さん、それなんか語弊あります!」
新たな畑、新たな仲間、そして変わらぬスローライフ。
だが、その裏で、魔族の王が彼の存在を知り、こう呟いていた。
「五行を操る者……“世界の均衡”そのものだ。放ってはおけぬ」
まだまだ、おじさんの日常は“のんびり”とはいかなそうだ――。
投稿頑張ります。