Neptune(9月15日)
そしてお通夜を終えた次の日。僕たちはそれまで避けたかったその光景に覚悟を決め、今まさに雫星の告別式が執り行われている最中である斎場へと駆け足で向かった。
もちろん礼服なんて用意もしておらず、いずれ、もしくは来ることもないだろうとどこかで信じ切っていた馬鹿な僕たちは、それを証明するかのような私服という場にそぐわない格好で揃いも揃い目を泣き晴らしながら金垣家と書かれていた部屋に入る。
そこには見慣れた雫星のお母さん、そしてお父さんに内海先生、それから病院関係者も含めた知らない人たちも数人がいた。
皆涙ながらに花を棺桶に入れていく様子に、雫星と会える時間がもう僅かだということを実感せざるを得なかった。
ここに至るまで、中々覚悟を決められなかった後悔と、それでもここに来て良かったのかを知りたい気持ちとが交差する中、僕たち四人はゆっくりとした歩みで恐る恐る雫星が眠る棺桶の中を覗いた。
そこには多くの色鮮やかな花々に囲まれ、それでもやはりどこか眠っているだけのように見えてしまう雫星がいた。
どうしてもそんな雫星を笑顔で見ることは出来ない僕たちは、あと僅かしかない時間と悟りながらも雫星のお母さんへ頼んだ。
「一緒に写真を入れさせてもらえませんか?」
僕たちからの頼みに、雫星のお母さんは頬を伝う涙を拭いながら笑顔で頷いてくれた。
既に雫星から聞いていたのか、それとも雫星の親友である僕たちからの頼みであったからなのか。僕たちはその場の全員が見守る中、一枚一枚雫星に思い出の全てを逃さず語りかけるようにしながら雫星の周りを囲むように並べていく。
その際、僕以外の三人は雫星の手を握ったり、顔を撫でていたりしていたが、僕だけは出来なかった。
それは雫星が亡くなったあの日、最後に触った雫星の温もりを忘れることが怖かったから……
そんな理由で僕だけが触れるということをしなかった。
用意してきた全ての写真を入れ終わり、「それでは……」という葬儀スタッフの方の声と共に僕たちは一歩後ろへと下がる。
そして棺桶の蓋が閉じられる際、それを見届けながら僕は思っていた。
雫星の死に顔は確かに笑っていた気がした。と……
ただそれはお坊さんや誰もが驚くような笑顔ではなく、それでも僕たち四人には確かに笑っているのだと認識できるような笑顔であった。
その後流れるように雫星は火葬場へと運ばれて行った。
雫星のお母さんからは、せっかく来てくれたんだから残ってくれないかと引き留められもしたが、僕たちには骨になった雫星の姿を見るまでの覚悟はなかった。
「すみません……」と僕たちは一人一人不協和音での謝罪の言葉を残し、まだ一向に収まることのない涙を拭いながら家までの道をそれぞれ辿った。
僕たちが最初に会った時、既に雫星はたったの余命一年だった。けどそのたったと言える中で、僕たちには数え切れないほどの思い出が出来てしまった。
家までの帰路の中、晴天の青空を見上げながら僕はその一つ一つを時間を持て余すようにまたゆっくりと浮かべていた。




