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Neptune(9月6日〜12日)

 高校生最後の夏休みが終わり、去年に引き続き今年も僕たちはある行事を楽しみにしていた。

 僕は雫星の幸せそうな笑顔が今も忘れられない。今年は僕たちにとっても最後の文化祭になるため、後悔しないよう精一杯を尽くしたかった。

 そして出し物を決める際、普段は参加する気もなくその機会さえなかった僕たちが珍しく四人揃って手を挙げる。

 それに驚く文化委員を前に当てられた僕は堂々と答えた。

「綿菓子がしたいです!」

 挙手した三人も同じだったのか、満面の笑みで僕に視線を向けている。けれどそれに対し他のクラスメイトたちがあまり積極的な反応でないことは見て取れる。

 それでも僕たちにも譲れない理由がある。僕は教室の中で唯一空席になっている雫星の席に目を向け、強い信念を持っていた。

「いいんじゃない綿菓子」

 そんな時、後ろの方から聞こえた声は僕たちの意見を後押しする内容だった。

 他の三人でもない誰かの賛成意見に僕たちは多少驚きながらも後ろを振り返る。すると椅子を後ろに傾け、いつものだらしない体勢で言っていたのは天津だった。

 実は天津とはまたも同じクラスであり、これが普段ならダサく見えてしまうのだが、今日だけはカッコ良くも見えなくはない。

 クラスの中でもムードメーカー的存在である天津だからこそ、少しずつクラス内から同意の意が見え始め、その流れのまま最終的には綿菓子に決定していた。


「ありがとな天津」

 僕は休憩時間のチャイムが鳴ってからすぐにお礼を言いに行った。

 するとあっけらかんと天津は言う。

「別にいいって事よ。俺も案外綿菓子は好きだしな」

 僕たちの会話に一区切りがついた時、こっちに向かって勢いよく走ってくる宙斗が目に入る。

「おぉ天津ー!一緒に頑張ろうなぁ!」

 嬉しさを露わにする宙斗は、お礼の代わりに天津の肩に手を回し、もたれ掛かりながらそう言った。

「おいおい何だよ宙斗。お前と頑張ったらろくなことにならねぇよ」

 それに困り顔を見せる天津の意見には、僕も同意をせざるを得ない。

 何故か宙斗と並べば、こんな天津でもまともに見えてしまったりもするのが不思議でならなかった。



 出し物も決まり、僕たちの今年の文化祭への思いはこれまでにないほど燃えていた。

 買い出しから看板作り、作り方まで日々練習し、僕たちを中心にクラスが一丸となって動いている。こんな姿を雫星が見たら何と言ってくれるのだろう。

 これもどれも雫星がいるからであって、とにかく雫星に喜んで欲しい。そのためには全ての時間を捧げたかった。

 ただその反面で雫星に会える時間は今まで以上に削られることにはなったが、途中雫星のところに伝えに行くと、雫星は期待を裏切ることなく喜んでくれていた。

 これもあと数日の辛抱だと、喜ぶ雫星の笑顔を見ながら自分に言い聞かせ、僕が一言「楽しみにしてて」と言えば、雫星は待ち遠しそうな笑顔で静かに頷いていた。

 そして文化祭までの一週間、僕たちはバイトと文化祭の準備で雫星に二日間ほど会えないまま時が過ぎていた。

 その間にも授業だけは相変わらず行われる。全く持って頭に入って来ることのない授業の代わりに、教室の片隅に置かれた作りかけの看板を見て、一刻も早く準備に取り掛かりたいと思ってもいた。

 そんな遣る瀬無い気持ちの中、ふと廊下を誰かが勢いよく走る音が聞こえ、それは次第に大きくなる。

 気付けば僕たちの教室の扉が勢いよく開けられ、授業のため黒板に向かっていた先生も驚きの顔を見せる中、クラス全員の視線を集めたのは息を切らし深刻な顔をした内海先生だった。

 その瞬間には何も分からなかったが、目が合い内海先生が言ったその一言で僕たちは全てを悟った。

「雫星が……」

 きっとその先に続く言葉に気付けるのは、僕たち四人以外にはいなかっただろう。

 僕たちだけは突如として立ち上がり、内海先生と共に学校を抜け出し雫星の元へと走っていた。

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