Uranus(8月17日)
気付けば眩しい光が目に入り、朝が来たことにすぐに目を覚ました僕は体を起こし、恐る恐る少し開いていたカーテンを一気に全開にする。
そこには雲一つない快晴が広がっていて、とりあえずは第一関門を突破したことに僕はガッツポーズをしながら叫んでしまった。
「よっしゃ!」
「ん?どうした?」
すると寝起き感漂う宙斗の声が背後から聞こえ、振り返れば未だ眠そうに目を擦りながら寝惚けた様子で聞いている。
どうやら僕の声で起こしてしまったようだが、気にせず僕はそんな宙斗の肩を叩き窓の外に向け指を差す。
「なぁ見ろよ!晴れたぞ!晴れたんだ!!」
朝からこんなテンションで言われても腹立たしかっただろう。
けど宙斗は僕がそれに対し心から喜んでいることを分かっているからか、まだ開き切らない目と共に呆れたように笑ってくれていた。
早めにホテルをチェックアウトし、今日もまた昨日同様に坂を登るところから始まる。でも昨日は交代交代で推していた雫星の車椅子を、今日は僕が責任を持って押して歩く。
僕に押された車椅子が昨日とは違ってスイスイと登っていくことに雫星は驚き呆れていたかもしれない。さすがに途中宙斗と代わってもらったりもしたが、結果九割は僕が押していたのにも関わらず嬉しさが勝っているせいか疲れを一切感じることはなかった。
そして僕たちは最後まで多少の不安を残しつつも半日以上待ってみた光景を目に入れる。
「うわぁ……」
あまりの迫力に、思わずそんな感嘆詞しか出なかった。
普段は騒がしい僕たちだが、この景色を前に誰も何も口にしようとしなかったのは、この景色を見た人だけが分かる感情なのかもしれない。
最も不思議なのは、昨日と同じはずの山が全く違う山にも見えてしまうということ。
「アオハルだね」
少しして、そんな景色を見ながら雫星が言った。
「え?」
その言葉に結月は一瞬聞き返えしていたものの、すぐに納得したような顔になって微笑んでいた。
新幹線の時間もあり、僕たちは時間が迫る限界まで目の前の光景を目に焼き付けていた。
「でもまさか本当にあそこまでの絶景が見れるとはね」
きっと僕が言い出したことに期待はしていなかったのだろう。駅まで歩く途中の道で火ノ川が言い出した。
「私も私も!だって昨日の景色だってすごく綺麗だったし。最初は陽、何言ってんだろーとか思ってた」
「おい」
続けてこちらの気持ちも顧みずに言う結月に、僕は目を細めて言い返す。
「ごめんごめん。でも富士山が見える確率って半分以下らしいよ」
「ってことは俺ら運が良いんじゃね?もしかして俺か!?」
喜ぶ宙斗の意見に誰もがそうだとは絶対に言わなかったが、運が良いというのは間違いないのだろう。そしてその選択を出来た昨日の自分のことを誇らしくも思える。
駅に向かう僕たちには絶えず笑顔が溢れる中、雫星も笑顔で言った。
「最後に相応しい絶景だったね。」
その最後という言葉を本気で捉えることが出来なかった僕たちは、決してこの先数は多くはないかもしれないが、すぐにでも実現しようという思いで結月が手を高く上げながら宣言する。
「何言ってるの?また来ようよ何度でも」
「ありがとう」
それに対し雫星の言った五文字が、昨日の意味とは同じように聞こえはしなかった。
「ねぇねぇそれじゃあ次はどこにする?」
「次ねぇー」
けどすぐに次の話題に流れてしまい、敢えてこの時に僕が聞き返そうとすることもなかった。
そして帰りの新幹線で僕はどっと筋肉痛のような倦怠感に襲われ始めていた。
その様子に気付いたのか、隣に座っていた宙斗が言う。
「明日に来るぞ」
それは昨日頑張った宙斗だから言えるのかもしれない。きっとそれを今痛いほど身に染みて痛感しているのだろう。
僕は明日が来ないで欲しいと願い、宙斗はどんまいとでも言うように僕の肩を二回ほど叩いていたが、それさえも今の僕の体には応える痛みとなっていた。




