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Uranus(8月16日)

「おはー」

 眠そうに目を擦りながらノソノソと歩いて来た結月を最後に、五人全員が予定通り最寄りの駅に集合していた。

 八月中旬を迎えた今日から二日間。僕たちは一泊二日で富士山へ向け、今回も五人だけでの旅が始まる。

 新幹線までは駅を乗り継ぐが、この一年ほどで何度か旅行したこともあり、案内板を見ずとも既に行き方は頭の中に入っていた。

 少し早めに駅に着き電車を待っている時に僕は気付く。

「あれ?火ノ川は?」

 乗降口まで着いて辺りを見回すと、傍には火ノ川の荷物だけが残されていて姿はなかった。

 結月や宙斗もその行き先を知らないのか、僕と同じくキョロキョロと辺りを見回している。

 唯一雫星だけは知っていたのか、当たり前のように言った。

「流和なら私が駅員さんを呼んで欲しいって頼んだんだ」

 僕たちは一瞬疑問を抱きつつも、間も無く電車が到着するというアナウンスと同時に聞こえた火ノ川の声の方に目を向ける。

「雫星ー連れて来たよー」

 そう言った火ノ川の背後には確かに駅員さんがいた。

「ありがとう」

 雫星は一言火ノ川にお礼を言うと、電車に乗り込むため車椅子の位置を自ら調節し始める。

 そしていざ電車が着くと駅員さんは手に持っていたスロープ板を広げ、僕たちはそこでやっと駅員さんが必要だった意味を理解した。

 誰の手助けも求めず一人で熟そうとする雫星の姿に、僕たちはゆっくり車椅子を押して上げながら一緒に電車へと乗り込んで行く。

 始まってすぐからいつも通りとは違った雰囲気を感じつつも電車に乗って走り出せば、その景色を見ながらワクワクさせる雫星の顔は何一つ壁を感じさせない心情であることを証明していた。



 目的の駅に着き、新幹線に乗るまでに少し余裕があると知った結月は言う。

「私トイレに行っておこうかな。」

「あっ私も」

 その言葉に火ノ川が続き、結月は聞く。

「雫星も行くでしょ?」

 すると雫星は一回頷き、僕たちはホームから一番近くにあったトイレへと向かった。

 そこでまた何も考えていなかった僕は改めて気付くことになる。トイレの場所まで着いた途端、当たり前のように身障者用に入っていく雫星を見て、どことなく結月や火ノ川たちと同じ方に進んで行くのを想像していた僕には不思議な感覚があった。

「大丈夫?手伝おっか?」

 呆気に取られていた僕とは違い、同じ心情でもあったはずの火ノ川たちはその様子を見てすぐに心配しながらそう声を掛けていた。

 けれど雫星はそんな僕たちに呆れ笑いを見せながら言った。

「これくらい一人で大丈夫だよ」

 その言葉通り少し待てば、雫星は何事もなかったかのように平然と戻って来ていた。


 そしてそういった一連の様子を見ていた僕は、新幹線の中である決断をした。

 僕たちが泊まるホテルには富士山が見えることで人気の温泉があった。それがこのホテルにする決め手にもなったのだが、その温泉の特徴として自然に近い作りであり岩風呂でもあった。写真を見る限り湯船までの道には階段があったり、雫星にとって大変になるのではと感じてしまった。

 細かい予定を雫星だけには伝えていなかったこともあり、雫星に純粋に喜んでもらえる旅にしたいと考えていた僕はこの旅行の予定に組み込んであった温泉をキャンセルすることに決めた。

 その後、駅に着いてから余裕が出来た時間に僕は電話を掛けた。

「あっ今日の18時にチェックイン予定の地崎なんですが……」

「少々お待ち下さい。

本日二人部屋一つと三人部屋一つのご予約、それから貸切温泉の方も20時からのご予約を頂いている地崎様でお間違えなかったでしょうか?」

「あっはい。その温泉の方なんですが、キャンセルさせて頂きたくて……」

「かしこまりました。ではキャンセルさせて頂きますね」

「はい。ありがとうございます……」

 少しも名残惜しい気持ちがなかったと言えば嘘になるが、僕は気持ちを切り替え本当の目的地である富士山の方へと向かって歩き出していた。

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