Uranus(5月22日)
今日は午前授業のみで学校が終わり、放課後の教室で僕は富士山に行きたいと言った雫星の願いを叶えるべく、観光マップなどをもとに栞を作ろうとしていた。
「あれ?陽は行かないの?」
今日は僕だけが夕方から仕事があり、あとの三人はお休みだった。
それでも仕事の時間までは雫星のところに一緒に行こうと話していたが、すぐに終わりそうもなく僕は言う。
「もうちょっと掛かりそうだから、先に行ってていいよ」
三人は既に雫星のところに行く準備は万端のようだった。
でも鞄を片手に宙斗が言う。
「何言ってんだよ。全員で行った方が雫星も喜ぶだろ?」
そう言った宙斗に続き、火ノ川が聞く。
「それは雫星以上に大切なことなの?」
あまりその言い方が気に食わなかった僕は、少し不快な顔をしながら答える。
「雫星が富士山を見たいって言ったんだ。
これは雫星にだって関係があって、雫星のためにやってることだから。」
すると間髪入れずに火ノ川は言った。
「でもそれって、行けないかもしれないでしょ?
それなら今こうしている時間に少しでも多く会えた方がいいんじゃない?
もしかしたら今日が最後になるかもしれないし……」
僕はその言葉に苛立ちを露わにしてしまう。
「は?最後って何だよ。」
それに驚いたように火ノ川の声も大きくなる。
「だっていつになるかなんて分からないでしょ?
雫星が今してるのは延命治療であって、治すために入院しているわけじゃない。
今この瞬間雫星に何があったっておかしくないわけだし……」
雫星が死ぬ。それがきっかけで繋がった縁なのは重々承知のつもりだ。
富士山に行きたいと言った日のことも、雫星自身はもう長くないと思っている上でのことだったのかもしれない。
それでも信じたい気持ちは変わらない。僕自身がどう思うかは勝手なはずで、それなのにただ現実だけを突き付けてくる火ノ川を許せないという気持ちが僕を襲う。
「薄情だな。」
今思い返すと言い過ぎだったとも思える。
でも火ノ川は馬鹿にするかもしれないが、僕たちには奇跡という加護があると本気で思ってもいた。きっと日々頑張れば神様が見ていてくれるかもしれないと信じていた。
だがそんな僕だけでなく、今を精一杯生きている雫星さえも火ノ川が否定しているように感じ、僕にはそんな火ノ川が悪魔にも見えた。
けど一瞬傷付いたような顔を見せつつも、火ノ川は言った。
「分かってる……大丈夫。私もそんな自分のことが嫌いだから……」
火ノ川はそう言い残すと、荷物を置いたまま走って教室を出て行ってしまう。
僕は思ったままを口にしてしまったが、火ノ川はそれさえも受け入れるように切なく笑っていた。
その姿を見て、苛立っていた僕の熱は少し冷めていた。
本当は火ノ川が一番しっかりしている。
普段からいつも現実的に物事を考え行動出来る、大人な一面を多く持った人だ。
反対に僕は火ノ川を悪魔のような存在に捉えてしまったが、きっとそれを口に出したとしても大人の心で受け入れてくれたのだろう。
「ちょっと陽!」
結月は僕に文句を言いたげな顔でそう言った後、呆れた顔で火ノ川を探しに後を追った。
残された宙斗も、その性格には合わない顔で僕に言う。
「陽、あれは最低だぞ……」
そして僕はさっきまで賑やかだったはずの教室で一人になっていた。




