Uranus(5月7日)
その後火の川の手によって丁寧且つ大胆に切り分けられたケーキがそれぞれの手元へと届き、全員で声を揃えて言う。
「いただきまーす!」
一生に一度かもしれないそのケーキがいつになく美味しかったのを、僕は生涯忘れることはないのだろう。
食べている途中、慌てて思い出したのか結月が言う。
「あっ写真写真!」
いつも思うが、その都度一口食べてからしか気付けないのはどうしてなのか気になるところでもある。
それでもまだ食べ始めということもあり、切り分けられた以外ほとんど原型を残しているケーキと共に僕たちの今日という思い出は保存された。
「送っとくねー!」
そう言って結月から一斉に送られた写真により、それぞれ人数分の通知音が室内に鳴り響く。
僕はすぐに確認さえしなかったが、嬉しそうに自分の携帯の中に保存された写真を見ていた雫星が目に入り、ふと思い立つ。
「そうだ、せっかくだし何か欲しいものとかある?」
雫星にとって嬉しいかは分からないが、やっぱりお祝い事ではある。
「えっ?」
それでも誕生日とは違う感覚であるからか、雫星は多少驚いた顔をしていたため付け加えて言う。
「今日をこんな形で迎えることが出来たのは、雫星が頑張った証だと思うから。そのご褒美に」
僕がそう言うと、雫星より先に結月がテンションを上げて言う。
「それいいじゃん!何がいい?雫星」
二重に聞かれ少し下を向いて嬉しくも恥ずかしそうな顔をした雫星は、迷った末に口を開く。
「それじゃあ……」
その言葉に全員が静かに耳を傾ける。
「欲しいものってわけじゃないんだけど、みんなにお願い事があるの」
「なになに?」
待ち切れない結月は前傾姿勢になって聞き返す。
「私が死んだ時、棺桶の中をみんなとの写真でいっぱいにして欲しいの」
「えっどうして?」
結月は思った内容と違ったがだけに、今度は顔を無にして聞き返していた。
でもそれは僕たちも同じであり、しみじみとした雰囲気で雫星は続けた。
「天国までの道のりってとっても長いって言うでしょ?
でも棺桶の中に入れたものって、一緒に天国まで持って行けるって言うから。
みんなとの楽しかった思い出があれば、私はどれだけそれが長い道だったとしても乗り越えようって思える気がして」
どこか当たり前のように迎えることが出来てしまった今日それを聞くと、幻の中の話なのではないかという錯覚を起こし、逆にこのまま完治しましたなんていう夢が現実のようにも感じてしまう。
「分かった。その時はね」
その考えから僕は軽い気持ちでそう言ったが、雫星は安心したように頷いていた。
「私もっと雫星と一緒に色んなところに行って、棺桶には入りきらないくらい楽しい思い出をいっぱい作りたい!」
ケーキを食べ終えた言った結月は、僕と同じく冗談のように聞こえていたのだろう。
その言葉に笑顔を見せた雫星は言う。
「そうだね。どうせ死ぬんならやりたいことやれるだけやって、お坊さんがびっくりするくらいの笑顔で死にたいな」
雫星は天井を見上げ明るい未来を見据えるかのように言っているが、僕にはどうしてそんな言い方をするのか理解が出来ないところもある。
けど静かな笑顔で火ノ川が言う。
「ならその夢、ちゃんとこれからも叶えていかないとね」
雫星は目を細め満面の笑みで頷いていた。
そうして無事にケーキを平らげた僕たちは、各々後片付けに取り掛かっていく。
「来年もまたしようぜ!」
「おっいいね!ねっ雫星」
宙斗の言葉に結月は賛同し、そのまま雫星へと視線を向ける。
聞かれた雫星は一瞬動揺し、目を泳がせているようにも見えたが、すぐに言った。
「あっうん、できたらいいな。」
僕はその返事を微笑みながら受け取っていたが、その場で雫星以上に火ノ川が賛同していなかったことに、まだこの時は違和感すら感じてもいなかった。




