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Uranus(5月1日〜5月7日)

 時は五月に入り、病室に入ればどこからともなく優しく甘い匂いがした。

「金木犀……?」

 僕はそう思って小さく口に出したが、その声は誰にも届いてはいなかった。

 それからもしばらくその匂いは続き、ある日の結月と雫星の会話から、それが結月が雫星にあげた香水の匂いなのだと知った。

 結月と出会ってからの雫星は、結月の影響からかお洒落に磨きがかかったことを実感することが度々ある。

 だが普段は香水などという匂いものがあまり好きではない僕も、そんな季節外れの匂いを嫌いになることは出来ずにいた。




 そして五月に入ってから一週間と数日ほどが過ぎた頃、僕たちにとってはふとした時も意識せざるを得なかった日が静かに訪れていた。

 余命を宣告された一年前の今日、雫星とまだ出会うことさえなかったが、雫星はこの事実を受け止めどれほど傷心していたのだろう。

 だから僕たちは同じ日の今日が少しでも良い日になるようにとも考えていた。

 かと言って僕たちは敢えていつもから外れ過ぎたことはせず、唯一いつもと違ったのはその手にケーキが握られていたこと。

 今日を祝うことが正しいことなのかは分からない。けれど僕たちにとってはこういう風に迎えられたことを嬉しく思える日であったことには変わりなかった。

 僕たちは若干ソワソワした気持ちも持ちつつ雫星の病室へと向かう。

 雫星にはサプライズだったため、雫星がどんな趣で今日を迎えているかは定かではない。

 もしかすれば何事もなかったかのように今日という日も終えると思っているかもしれない。

「雫星おはよー!」

 でも僕たちはそんな気持ちさえ推し量ることなく先頭を切った結月が勢いよく中へ入っていく。

 宙斗はすぐには悟られないよう、持っていたケーキを不器用ながらに後ろに隠しているが、その様子を見て台無しにならないうちにと思ったのか、席に着くと同時に火ノ川が聞く。

「雫星、今日は何の日か覚えてる?」

「うん、それはまぁね」

 その言い方から、素直に喜べる日でもないことが見て取れる。

 けれど僕たちはただ純粋に雫星に喜んで欲しい気持ちと共に、今日さえも最高の思い出の日になって欲しかった。

 だから満面の笑みと喜びの感情を露わにして言う。

「おめでとー!!」

 そう言って僕たちはケーキを見せると同時に持ってきたクラッカーの紐を引っ張った。

 その中心にいた雫星はクラッカーの煙と紙テープに包まれ、一瞬どんな様子でいたのかは分からなかったが、少し落ち着いた場で見えた雫星は、誰の誕生日よりも嬉しそうにお祝いする僕たちを見て、釣られたのか自然と笑顔になっていた。

 今日を迎えたところで誰かが年を取るわけでもない。何かが一歩前進するわけでもない。

 それでもこの日を誰一人欠けることなく迎えることができた今日が、一見当たり前に見える今日がこの上なく嬉しかった。

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