Uranus(4月25日)
もう少し日を空けたい気持ちもあったが、そんな猶予もない現実と三人からの説得により、あの言い合いから丸一日過ぎた頃にはまた病室へと足を運んでいた。
いつも通りノックもせず中に入って行く三人と、どうしても病室の前で足取りを止めてしまう自分……
「ほら、何してんの?」
そう火ノ川に聞かれ戸惑っていると、痺れを切らした火ノ川が僕の元まで駆け寄り小声で言った。
「覚悟決めてきたんじゃなかったの?」
その言葉に背中を押され、軽く深呼吸をした僕は重かった一歩をやっと踏み出すことができる。
「昨日はごめん……」
するとそんな言葉に安心したのか、雫星も気まずそうな顔から少し表情を綻ばせて言った。
「私も悪かったから……ごめんね。」
そのやり取りに三人が安堵の表情を見せているのは分かった。
けど僕は後悔しないよう伝えておきたかった。
「僕は今日まで雫星のためだって言い訳しながら、自分のために頑張ってきた。
仕事だって、僕は僕自身のために頑張りたい。
その上で出来た思い出も、僕が好きだから。
だけどそれには雫星が必要で、雫星には僕のわがままにただ付き合って欲しかっただけだったんだ……」
ここに来るまでに言いたいことはある程度まとめてきたつもりだった。
それでもいざ口に出してみれば、ぎこちなく感じる自分の言動に自信を無くした僕の視線は下を向いた。
ただ僅かにあった沈黙の後に雫星の声が聞こえる。
「ならその頑張りを、応援してもいいかな?」
それはまさに昨日、僕が聞きたかった言葉そのものだった。
僕はゆっくりと顔を上げる。するとそこには僕の未来がまるでこれから始まりを告げるかのような希望に満ちた明るい笑顔があった。
「はいじゃあこれで仲直りね」
火ノ川がそう言うと、隣にいた宙斗はどこか誇らしげにも見える。
ただそんな二人と違い、結月だけは若干不機嫌そうな顔をしている。
「雫星、私のことは?」
自分のことを指差し聞いた結月は、どうやらまた僕に嫉妬をしているらしい。
その態度に雫星も慣れっこなのか、余裕の笑みで言う。
「もちろんみんなのことも応援させてもらうよ?」
そんな雫星の回答に、単純な結月は分かりやすく笑顔になっていた。
病院からの帰り道、僕は三人に頭を下げて言った。
「ありがとう……」
すると僕より一歩先を進んでいた三人は振り返り、呆れた顔で言う。
「何よ今更」
そんな風に呆れ笑う火ノ川と共に、結月は言った。
「もしかして自分だけ仲間はずれになっちゃうかも……とか考えてた?」
結月は馬鹿にしたように聞いてきたが、確かに僕は眠れない夜の中で何度かその未来を想像もしていた。
三人の中での雫星の大きさもよく知っている。それは僕に比べれば多分きっと……
けど今なら分かる。
「言ったでしょ?
私たちは誰一人欠けちゃいけないって。それは陽もだよ?
だから誰かと誰かが喧嘩するなら、仲直りさせるのもみんなでだよ」
雫星と言い合った後、どこかで薄らとあった孤独という感情。
でも呆れながら言う結月と同様、今なら疑問にすら思う。どうしてそんな感情が少しでも浮かび上がってしまっていたのか。
みんなにとっては既に当たり前のことを、今日まで僕だけが気付けずにいたのかもしれない。
きっとこれからどんなことがあり、どんな道を選ぶことになったとしても、四人が僕を見限ることは恐らくないのだろう。
それはまさに雫星の名の下に生まれた絆であり、どの未来を迎えたとしても、それだけは決して変わることはないはずだった。




