Saturn(2月11日〜16日)
「そうか。そんなことがな。」
宙斗らしくない悩んだような顔を見せたが、僕はその顔に追い討ちをかけるように聞いてしまう。
「なぁ宙斗、どうすればいいんだ?」
「それは俺にも分からねぇよ」
「だよなぁ」
「あっけどこれは俺にも分かるな!
それを言われたことによって、今お前は困ってるってこと!」
「当たり前だろ。」
「冗談だよ」
そう言って僕は真剣に話しているのにも関わらず、宙斗はおふざけ半分で聞いているのが見て取れる。
目の前で冗談に見合う笑みを浮かべている宙斗を見て、僕はふと今更ながらに気になった。
「そういえば宙斗と火ノ川はどっちが告ったんだ?」
聞かれた宙斗は余裕の笑みから一変、少し恥ずかしそうにモジモジとし出す。
「俺だよ。それでもあれがなきゃ、きっと今でも言えてなかったぜ。」
それは遡ること一年と少し前。宙斗の誕生日の日に地球が滅亡すると噂が流されていた。
自分の誕生日をあと数日後に控えていたその日、もうこのまま死ぬのであればと後悔がないよう思い切って伝えることが出来たらしい。
そこで火ノ川と両思いであったことを初めて知ったのだが、実際宙斗の誕生日を過ぎても滅亡などはせず、変だと思った宙斗が学校へ行くと、滅亡話は隣のクラスの天津が作った嘘話だと知らされ赤面を喰らうことにもなり今に至るのだとか……。
「そうだったのか……」
僕は今日までそのことを全く知ることはなかった。もしくは二人が付き合ったことを普通に受け入れていたため、知ろうともしていなかったと言う方が正しいのかもしれない。
「でもさっきの雫星は、宙斗のそういったのとはまた違うのかもしれない。」
「俺と同じじゃないって?」
「宙斗みたいに本心じゃないってこと」
今思い返すと雫星はそのくらいスッキリとしていた気がする。
けれどそれを聞いた途端、宙斗は真剣な眼差しで僕の顔をじっと見つめ、僕の肩に手を置きながら言った。
「陽、俺たちの好きに嘘はない。これだけは絶対だ」
そう言った宙斗の眼差しは、見てもいないのに確信をついたような目をしていた。
「どうしてそんなこと分かるんだよ」
僕はその分かりきった顔にムッとしながら聞き返す。
でも宙斗はそんな僕を呆れ笑うかのような顔で言った。
「嘘でも好きっていう言葉は一番勇気のいる二文字だと思うからだ。
それを言ったら壊れてしまう関係があるかもしれない。
見た目に反して簡単に言える言葉じゃない。それでも雫星は言ったんだ。
きっとそれだけの意味があるんじゃないのか?」
「それだけの意味?」
「けどそれは陽。お前自身が見つけるべき答えなんじゃないのか?」
「どういう意味だよ」
「俺たちっていっつも傍にいるだろ?それはもううんざりするくらいにさ。
それでも分からなくなる時があるんだよ。こんだけ近くにいるのに分からねぇ。
一番大切な存在にこそ言えないことだってあると思うんだ。
本音なんて全部受け入れてもらえるか分からねぇし、言おうか迷った時、それを言って大切な存在を失うくらいなら、俺は言わない選択を取ってしまうな。
そりゃあ言えて受け入れてもらえたほうがいいけどよ、そんなの言ってみなきゃ分かんねぇし、そんなトライしなくていいと思うんだ。
言って関係を戻せるだけ、俺は器用じゃないしな」
そう言った直後、宙斗は机の上に広げられていたお菓子を食べ始める。
「陽はこれからどうしたいんだ?」
急に宙斗にそんなことを聞かれ、これからも今の関係が変わらず続くと思っていた僕には全く想像もしていないことだった。
「今まで通りでいたいと思ってるよ……」
僕のそんな答えに、宙斗はあっけらかんとした顔で聞く。
「ってことはどっちを選ぶんだ?」
それを聞かれた時、温泉でのことを思い出していた。どうして宙斗はその質問をぶつけて来るのか……
そして未だその答えを決めることは僕には出来ていない。
「どうしてどっちかを選ばせようとするんだよ。
どっちかを選ぶなんて……そんなこと出来るわけないのに……」
僕が苦し紛れにそう言うと、宙斗は両手を頭の後ろに回しながら上を向き言った。
「そうか。それも一つの答えだし良いんじゃないか?」
宙斗は重ねて質問する割には案外あっさりと受け入れてくれていた。
でも続けて言った。
「本当に陽が二人とも好きであればの話だけどな。」
「何だよそれ」
「俺には陽が既に答えを決めているように見えるぜ。
だとしたら嘘をつくのは良くないと思うな」
宙斗にそう言われた時、思いも寄らず動揺している自分もいた。
「嘘って、そんなつもり……
二人とも僕にとって必要な存在であって、結月は小学生の頃からの唯一の幼馴染だし。雫星は僕に楽しい思い出をくれるきっかけになった人だし……」
どうしてか、言い訳をしているような自分の言い振りに、罪悪感に近い感情が過る。
けどそんな動揺さえ宙斗は分かりきったような雰囲気で話す。
「別に誰かを好きになるってのは悪いことじゃないぜ。
俺たちは陽がどんな答えを出したとしても受け入れる覚悟は出来てるしな。
きっと結月や雫星もそれを分かってるから一歩踏み出したんじゃないのか?」
宙斗の言う通り、たとえ僕がどんな答えに辿り着いたとしても、宙斗はそんな僕のことを受け入れてくれるだろう。
だけど他の三人はそうではないような気がしてならなかった。
「俺には分かるぜ。
誰かに好きって言うのって、そう簡単なことじゃないってこと」
その言葉で僕はさっきの雫星の行動を思い返していた。
一瞬のように思えたあの会話の中で、雫星は何を思い伝えてくれていたのだろう。
自分の本心に向き合いたい気持ちと向き合えない気持ちがある。でももしかすれば既にこの時、僕の中には少しだけ向き合えている気持ちがあったのかもしれない……
それから雫星と二人っきりになる機会ができ、あんなことがあってもいつも通りの雫星と、その雫星の思いを未だに理解出来ないでいる僕。
あの日の言葉の真意を聞こうと思ったが、雫星の顔をまじまじと見た時、やっぱりその話を避けたいと思ってしまった自分がいた。
この日に聞いておくべきだったのかは分からない。けどこの機会を逃した僕に、今後一生それを聞けることはなかった。




