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Saturn(12月30日〜1月4日)

 年末年始も仕事に明け暮れていた。気付けば年を越していて、冬休みも残すところ数日となり、この頃になれば夏休み同様やっつけで宿題を片付ける期間へと突入する。

 この冬も変わらず僕たちと同じ内容の宿題を出されていた雫星は、旅行前の僅かな時間で当たり前のように終わらしていたらしい。

 僕たちはまたもそんな雫星に縋るように手を借りながら、皆が病室で宿題を広げ少しずつ熟していく。

 得意な教科が違えど、簡単なものから片付けていくという年が明けるまで見て見ぬふりをしてきた同士の考え方は変わらない。

 その上で残っているものといえば、量の多いものか内容を面倒に感じるもののどちらかであり、その中でも全員が最後まで残していたのは同じ英語の宿題だった。

「将来の夢について英文で書くっていうやつだね!」

 雫星は簡単そうに言ったが、僕たちは気怠い目で雫星を見てしまう。

「え?どうして?

だって文字数とかも決まってないし、好きなように書けばいいだけだよ?」

「それが一番難しいよ」

 僕の意見に他三人も深く頷いていた。

「ならさ、みんなの夢は何?」

 切り替えたように聞いてくれた雫星からの質問に、全員が一度は本気で向き合ってはみたが、徐々に渋い顔になっていく。

「今の夢って聞かれると……」

 一番夢がありそうな結月でさえそんなことを言っていた。

「なら昔は何になりたかったの?」

 その質問に、結月は途端に顔色を明るくした。

「魔法使い!」

 そんな結月に続いて宙斗も言う。

「俺は鳥だったな!」

 何故か自慢げな二人に、火ノ川は少し引き気味になって言う。

「二人とも非現実的な夢だね」

 その感想に結月は頬を膨らます。

「じゃあそういう流和は?何だったの?」

 拗ねた口調で結月が聞くと、火ノ川からはさっきまでの威勢が無くなり、急にモゴモゴと話し出す。

「私は、結婚して良い奥さんになるだったけど……」

 恥ずかしそうに答える火ノ川に対し、その場にいた全員の視線が自然と宙斗の方へと集まる。

 その夢を初めて聞いたのか、それに困惑しながら火ノ川と同じく少し恥ずかしそうにした宙斗。

「ならその夢は叶いそうだね」

 微笑みながら言った雫星の言葉に、当の二人は「えっ」と恥ずかしそうにしながらも、心なしか喜んでいることだけは分かる。

 もしこの場に雫星がいなければ、場は白けた空気になり僕は部屋を出ていただろう。でも雫星の言葉に僕も結月も思わず笑ってしまった。

 そして少しして雫星は僕に聞く。

「陽の夢は何だったの?」

 それに僕は正直に答える。

「無かったよ」

「一度も?」

「うん。考えるのはその時でいいかなって思ってたから」

 僕がそう言うと、呆れた顔をして結月が言う。

「つまんない子供だよね。まさに夢がないって感じで」

 幼馴染だから言える言葉なのだろうが、何だか結月の言葉がえらく僕の中で刺さった。

「けど結月の夢だって非現実的だろ?」

 火ノ川と僕から二度も言われたことで、結月は睨むような目つきで僕のことを見ていた。だがすぐに切り替えた笑顔を見せて言う。

「でも私はもっと良い夢見つけたんだ!」

 そう言った結月は、この会話が始まってからの一瞬の間にその夢を考え付いたらしい。

「デザイナーになりたい!

雫星が喜んでくれたから、もっとたくさんの人を雫星みたいに喜ばせてあげたいの!」

 それでもその夢は、一瞬という割には僕が言い返せる余地もないくらいにしっかりとした夢だった。

「うん、なれると思うよ。結月なら絶対に!」

 さらにその夢には雫星という心強い味方もいる。

「そういう観点から言えば、私も飲食系の職に就きたいかもしれないけど……」

 結月の夢に共なり導き出されたのか、火ノ川は少し自信なさげにそう言った。

 けどそれを聞いた雫星は嬉しそうに前のめりになって言う。

「旅行の時の料理、すっごく美味しかったもんね!」

 それには火ノ川だけでなく、宙斗も分かりやすく喜びを露わにしていた。

「よっしゃ!なら雫星もびっくりするくらいの大繁盛の店にしてやるぞー!」

 どうやら火ノ川や宙斗もそれらしい夢が定まったようだ。

 だけど僕からすればどれもこれも夢というよりは明確な未来で、僕だけがあやふやな未来を抱えたままな気がしてソワソワとした。

 何となく三人から話題を変えたくなって、僕は思わず聞いてしまう。

「雫星は?」

 どうもこういう話をしていると、雫星も当然のように未来の話をする権利があるような、雫星が明日を生きれるのかも分からない人だということを忘れてしまう時がある。

 それを口に出し、他の三人の反応を見たことでやっと我に返り気付いたが、その言葉を訂正するにはもう遅かった。

 けれど雫星はそれに動じることもなく、当たり前に答えた。

「私は子供が好きだから、幼稚園の先生かな」

 そこには不快な顔一つ無く、本当にそんな未来があるかのように話している。

 そしてその答えを聞いた僕たちも、ここだけ切り取ってみれば、これからもその夢に向かって頑張っていきそうな普通の高校生の夢にも聞こえる。

 確かにこの病院で入院している子供と雫星が触れ合っている場面を何度か見たことはあるが、それはその夢が相応しいと思える光景だった。

 雫星が夢を叶えている姿は容易に想像ができる。なのにそんな未来はない。僕はその矛盾をどう口に出していいのか分からず、それをいい夢だねと言ってあげることさえもできなかった。

 夢が決まったことで、三人は早速英作文の宿題に取り掛かっている。

 すでに終わらしていた雫星は、英作文にその夢を書いたのだろうか。もしくは他の内容を……。

 それに比べ僕にはなれそうな職業なんてない。なりたいものもない。何を書けばいいのか未だ悩んでいた時、俯く僕を笑顔で見つめていた雫星と目が合った。

「別になれなくてもいいんだよ」

「えっ……?」

「なりたいって気持ちがそこにあれば、なれなかったのは嘘じゃないもん。

これはあくまでも夢の話。なりたいっていう目標だよ。

何になるにしても、その目標がないと、何にもなれないでしょ?」

 確実に自分がなれるものじゃなくていい。そう知った時に、ふと考えすぎていた気持ちから肩の荷が下りた気がした。

「それに、陽は器用だから。なりたいものになれると思うよ」

 雫星がそう言うと、宿題に集中していたはずの三人の視線は一気にこちらへと集まった。

「えっ何それ?陽だけ?」

 その中でも結月は明らかに嫉妬をしている。

「結月は結月で似合ってる仕事があるでしょ?」

 雫星の宥めるような言葉に、結月はまたも膨れっ面になりながら渋々宿題へと視線を戻している。

 僕は僕で、ずっと悩むだけだった宿題の答えを見つけられたような気がして、気付けばペンがスラスラと紙の上を動き出していた。

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