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Saturn(11月18日〜12月4日)

 朝になれば、不思議なことにまたいつもの光景が広がっている。

「おはよう」

 昨日までの内海先生は何処へ行ったのか、僕に挨拶をしてくる内海先生はいつもの笑顔を見せていた。

「おはようございます……」

 僕だけはそのぎこちなさに違和感を抱いてしまうが、内海先生もそれを担任としてなのか見逃すことはない。

「悩んでいるのか?」

「当たり前じゃないですか。」

「どうせ止めても、今日も雫星のところに行くんだろ?」

「……」

「なら雫星に直接教わったらどうだ?

僅かな望みでも、ないよりはマシだろう」

 僕たちはその言葉通り、その日の放課後に雫星に直談判しに行くことにした。




 昨日の放課後の雰囲気とは打って変わり、僕以外の三人はワクワクとしていそうな様子で全員が教科書を握り締めながら病室の前に横一列で立っていた。

 解放された扉の向こうでは、何も知らない雫星が今日もベッドの上で静かに僕たちのことを待っている。

 僕たちは「せーの」と声を揃え、三人は握り締めていた教科書を目の前に差し出し雫星に向かって頭を下げた。

「雫星!勉強教えて下さい!」

 突如として聞こえた懇願の声に、内海先生から何も聞いてはいなかったのか、雫星は目をパチクリとさせ驚いていた。

「えっ私が?それは……」

 ただそれに対し二つ返事かと思われていた雫星の返事は、意外にもそうではなかった。

「えっダメなの?!」

 驚き聞き返す結月に、雫星は申し訳なさそうな顔をしながら言う。

「だって私は独学だし、今みんなが何を教わってるのかもあんまり分かってないし……」

 けれどそんな雫星の不安も、宙斗と火ノ川の交渉術によって掻き消される。

「独学なら大歓迎!」

「どの道、私たちは勉強っていう部類が嫌いなの。

だからどうせなら雫星に教わった方が楽しいでしょ?それだけの理由だから」

「まぁそれで実際に成績も良くなれば一石二鳥なんだけどな」

 続けて僕は本音をポロリと口に出してしまう。

「分かった。でも期待はしないでよ?」

 少し悩んだ末、雫星はそう答えていた。

「もちろん!」

 明るく返事をした僕たちは、内海先生の考えに反して、ただただ勉強会さえも楽しむ気でいただけだったのだと思う。


 一学期の期末テスト、二学期の中間テストの点数を参考に、それぞれが最も苦手な科目の教科書を用意していく。

 因みに雫星からは授業時に書き留めていたノートを用意するようにも言われたが、授業中に開いたノートなど僕たちには存在しなかったため、教科書とその他の教材のみが並べられる。

「ならまずは結月の歴史からね!」

 そう言って一人一人の苦手科目を順に全員で学んでいく形式で勉強会は始まった。

「へぇー結月は歴史が一番悪かったのか!」

「私は逆に歴史が一番マシだった」

 驚く宙斗に、何気に自慢にも聞こえる火ノ川の反応。

「だって知ってる?聖徳太子なんて存在しないって言われてるんだよ?

そんな存在もしないこと覚えてたって仕方がないって思ったの」

 歴史を苦手とする理由は、幼馴染の僕からすれば何とも結月らしい理由だと思った。けどそれに歴史を得意とする火ノ川は言う。

「聖徳太子は書物も残っていないような時代の人だからでしょ?

それ以降の記述が残っているものに関しては、紛れもない事実でしかないわけで」

「それでも私が一番最初に習ったのは聖徳太子だったから。

私はこの目で見たものか、せめて写真くらいはないと信じられないよね!」

 その会話を聞いていた雫星は、深く頷きながら言った。

「うん、確かにね。

でももし一人で十人の言葉を一度に聞き分けられた人が本当にいたんだとしたら、凄いって思わない?」

「それはそうだけど……」

「歴史なんて全部そんな感じで良いと思うけどな。

存在してたらいいなって、そう思うだけで見え方も違ってくる」

 雫星は結月の関心の向け方をよく知っている。案の定、結月は歴史というものに興味を持ち始めているのが僕には分かった。

「それにもし本当に存在してたとしたら、結月みたいに存在してなかったなんて思われるのは悲しいことだよ。

私たちだって死んでから時が経てば存在しなかったかのように扱われる。

そうなった時、こんな私がいたんだよって知っていてもらえるのはすごく幸せなことだと思う。

結局はみんな、死ぬのが怖いのは今も昔も変わらないはずだから。

結月に信じてもらえたら、きっとみんな嬉しいと思うよ。

だから信じてあげて」

 まだ死期を悟ることさえしていない僕たちに、それを実感するのは難しいことではあった。だが雫星の話し方の影響なのか、その一言一言が深く身に沁みるように離れなかった。

「雫星、私信じるね!

今からこの教科書の人たちのことも、いっぱい覚えるから!」

「うん、なら私も頑張る!」

 結月の言葉に、雫星は未来の自分を見据えるように少し安心していた気がするのはどうしてだったのだろう。

 全員の苦手科目はある程度散けていたこともあり、それぞれが一通りの試験内容を頭に入れることが出来ていた。

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