Jupiter(8月9日)
僕たちは順に記載されていた電話番号に一人一人が電話を掛けていき、それを一人が終わるまで残りの全員で見守った。
「はい。分かりました。お願いします……」
そう言って緊張で震える声ながらも、最後の結月まで全員が無事に電話を終えることが出来た。
やはり願望よりも現実を注視したからか、どこも面接日時をすぐに提示してきてくれた。そして夏休み真っ只中であった僕たちも、それに応える準備は万全であった。
ただそうとなれば、どこの面接先でも必要となってきたのが履歴書だった。
「なら今から履歴書買いに行くか」
そう言って僕たちは近くの文房具屋さんへと向かう。
「履歴書ってこんなところにあるんだ。全然知らなかった」
「ってかまず履歴書って何だ?俺書き方全く分からないんだが。」
どうやら結月や宙斗を野放しで面接に行かせるのは難しいようだ。
初めてだろうと、ある程度バイトに応募するまでの経緯や履歴書の書き方を知っている僕や火ノ川を先導に、結月と宙斗に一つ一つ丁寧に教えていく。
「まず履歴書自体も数種類あるけど、大きさから書く項目まで少しずつ違ったりする。
自分にとって有利な項目だったり、とにかくこの場合は書きやすいと思うものを選ぶんだ」
僕が二人にそう教えると、二人はそれを真面目に聞き入れ、真剣な眼差しで選び抜いていた。
この四人の誰一人にも落ちてほしくはない。だからこそ惜しみない気持ちで全てを教えていくが、そのためにはなるべく受かる最善でなければいけなかった。
そして買ったばかりの履歴書を手に、次は証明写真を撮りに行く。
結月は何だかプリクラ見たいとワクワクしていたが、僕と火ノ川はどうすれば少しでも印象が良い写真になるのか、スマホで証明写真と入力し漁りまくっていた。
そして出てきた内容を元に僕たちは制服の着方からを見直し、結月や火ノ川に関しては髪を綺麗に纏めたりとしていた。
四人全員が写真を撮り終わり、結月はプリクラのように盛れはしなかった写真に落胆していた。
そして次にまた違うファミレスへと赴き、履歴書の空欄を埋め、撮ったばかりの証明写真を貼り付けていく。ファミレスに着くとすぐに少し休憩しないかと宙斗が呑気な発言をしていたが、結月の面接日が明日であるがためにそんな悠長な時間は僕たちには無かった。
全部が終わったらなと一言残し、店を追い出されない程度の注文だけして僕と火ノ川が率先しながら結月や宙斗に書き方を教えていく。
その間にも度々火ノ川は宙斗の字の汚さを注意し、宙斗の場合は字の書き方から教わる羽目になっていた。ただそれも僕たちからすれば大切なことというのは間違いなかった。
僕たち四人が誰一人欠けずに受かることこそが雫星のために繋がる。そのためには受かる書き方でなくてはならない。その上でその人を表す一つとなる字というものも避けては通れない道でしかなく、火ノ川は僕たちなんかよりも宙斗に落ちてほしくはないという気持ちがより一層強かったのだろう。
なので僕は自分のを書きつつ結月に教えることに専念した。結月は元々字は綺麗だった上、僕の指示に純粋に従ってくれるためすんなり終えることができた。
「やったー!終わったー!」
結月がそう言った頃にはお腹を空かせ、先に終わっていた僕たちはメニュー表を開いていた。
「いいなー」
そう言ってそれを羨ましそうに見てきた宙斗は、まだ逃れることのできない火ノ川の監視下にあった。火ノ川の視線がある以上、宙斗が何かを口にすることは難しく、それを本人も重々理解しているためその言葉一つでまた履歴書に向き合うしかなかった。
ちなみに宙斗に鋭い眼差しで教えている火ノ川は、既に僕たちよりも先に注文を済ませ優雅に食事をしながら過ごしている。そんな火ノ川曰く、お腹が空いていたら良いアイデアも浮かばない上、教えるなんて以ての外。更には宙斗に教えるのは虫に物を教えるのと同等くらいに大変なことなのだからと、こっちにまで飛び火が来そうだったため、宙斗には申し訳ないが無視を貫くことにした。
その後だいぶ僕たちから後れを取って終えた宙斗。その時の刑務所から解放されたようなあの顔を、僕は忘れはしない。けどこれで準備は整った。あとは明日からそれぞれ指定された日時にその場所へと向かうだけだった。
「それじゃ今から面接の練習するよー」
そして火ノ川の言葉と共に、解放されたはずの時間は休む暇もなくすぐに開始を告げる。そんな今日という一日もまた誰も忘れられないほどに長く辛く、これからを築く礎となる時間になることを意味していた。




