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Jupiter(8月9日)

 検診結果は特に変化はなかったと言う。それを雫星の口から直接聞いた僕たちは、皆ホッと一息つき胸を撫で下ろした。

 今日まで夏休みに入ってから毎日のように訪れている病院だったが、ある程度長居した後、今日は早くに切り上げることにする。

「じゃあそろそろ行こうか」

 僕の一言に、雫星以外の三人はちゃんと理解を示してくれていた。だが何も知らない雫星だけは違う。

「えっもう帰るの?」

 理由も分からない雫星は、いつもと違う展開に心配そうな顔を見せていた。

 だけどその理由をまだ伝えることが出来なかった僕たちは、お互い顔を見合わせてしまう。けどその中で結月だけは堂々としていた。

「大丈夫だよ。私たちはいつも雫星のことを考えてるから」

 それは嘘でもなければ真実に近く、これまた遠回しな言い方だと僕たちは感じた。雫星がそれを聞いてどう思うのか、一瞬不安にはなったものの、答えは雫星の顔を見ればすぐに分かった。

 きっとそこに深い理由なんて要らないのかもしれない。雫星はそれだけで安心した笑顔を見せ、僕たちの行動を受け入れてくれていた。






 足早に病室を出て向かったのはまたも近くのファミレスだった。

 雫星に言えなかったその理由、それは一刻も早くバイト探しを始めるためであり、最初から内緒にしようとしていた訳ではなかった。でも意図せずそうしてしまったのは、まだ働くという事に対して何もかも無知な僕たちがちゃんと実現できるのか不安な面もあったからだ。

 ちゃんと報告するのは採用が決まってから。そう心の中で決めていたところもあった。

 それぞれが飲み放題のソフトドリンクを頼んでは、いくつかある求人雑誌をペラペラとめくって探していく。

「なら僕はこれにする」

 四人の中で一番最初に仕事を見つけたのは僕だった。

 僕が選んだのは、その求人誌でも多く掲載されていたコンビニ職。その中でも自宅から徒歩で行ける範囲内にある大手コンビニチェーン店だった。

「決めんの早っ。そんな簡単に決めて良いものなの?」

「そうだよ。人生初めてのバイトなんだよ?

きっと一生の思い出になること間違いなし!」

 冷静に聞いてくる火ノ川と、どこか仕事探しを楽しんでいるようにも見える結月。

「確かにそうだな。そう思うと余計に迷っちまうな……」

 その二人の意見を聞いて、ちゃんと目を通しているのか頭を掻きながらページをひたすらめくり続けている宙斗。

「それでも受からなきゃ意味がないだろ?一番は働くことであって、楽しむことではないからな。

それに仕事なんだし、金を貰う場に楽しさを求めてはいけないだろ」

 僕は働けるかどうかよりも、採用してもらえるかの方に重きを置くべきだと考えていた。その後のことは、それに見合う努力さえあればどうにでもなると。

「何それー。現実的すぎて楽しくない考えー」

 僕の意見に、結月は吐き気がするような顔をしていた。

「でもあながち間違ってないかもね。出来れば一発合格したいし、私たちには余裕を持って選別してるような時間が無いのも事実でしょ?」

「それは……」

 僕と同じく火ノ川も冷静に考えていた。そして火ノ川にこう言われてしまえば、結月だってぐうの音も出なくなる。

「そういうことなら!俺はこれにしようかな」

 そう言ってさっきまで頭を抱えていた宙斗が急に指を差したのは、老舗の弁当屋だった。

「食べるの好きだし、賄い有りって書いてあるし!陽と同じく家から徒歩で行ける範囲ってのもだし!

ゆっくり自分の好きな仕事を選んでる時間が無くても、せめて自分の良いと思える内容が一つくらいはあって欲しいからな」

「確かに。」

 宙斗のそんな理由に感化されたのか、何枚かページをパラパラとめくって結月が行き着いたのは、ドラックストアのアルバイトだった。

「仕事内容はイマイチよく分からないけど、でもコスメとか取り扱ってるでしょ?

社販で安く買えるって書いてあるし、それなりに良いかなって!」

 その理由は宙斗と似たり寄ったりであったが、火ノ川は納得したように言う。

「うん、結月に合ってるって思うよ」

 そう言われ結月は満面の笑みで頷いていた。

「それで?流和はどうするの?」

 他の三人が決まったところで、今度は結月が火ノ川に聞く。

 すると火ノ川は当たり前のように答える。

「私ならもうとっくに決めてたけど?」

「えっそうだったの?」「何にしたんだよ!」

 驚く結月と興味津々な宙斗を前に火ノ川が指差したのは、最初の方に載っていたケーキ屋の仕事だった。

 多分それを見た瞬間に火ノ川はこれと決めていたのだろう。道理であまり求人誌を探ろうとはしなかったわけだ。

 さっき言っていた僕の意見に同調しておいて、それなりに難易度が高そうな仕事を選んでいるのではと思ったが、ある意味火ノ川にとってはそれが現実的であることも知っているのが何とも言えないところだ。

 火ノ川はこう見えてもお菓子作りが趣味であり、得意でもある。定期的にお菓子を作っては貰ったりしているが、特にバレンタインに作るお菓子は凄いと結月や宙斗から聞いたことがある。記載には三名募集とされていたが、火ノ川はその数字に入れる自信が余程あったのだろうと思う。

 まぁそれぞれの希望の仕事は見つかった。次にすることはそれの応募だった。

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