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Mars(8月5日)

 大量にあったお菓子を全て食べ終えた僕たちはすぐに眠りに就き、次の日の朝を迎えた。

「おはよー!」「おはー!」

 寝坊をしなかった結月と宙斗を見て、僕と火ノ川は驚きを隠せなかった。

 目を擦ってもう一度見直すが、やはりそこには二人がいる。その受け入れ難い事実に、楽しいという感情は人をここまで変えてくれるのかと感動さえしてしまう。

「ほら!時間ないから早く行くよ!」

 結月にそう言われる現状は、いつもの僕たちの立場がまるで逆転しているようだった。

 そんな結月に急かされるうちにまた敷地内へと足を踏み入れた僕たちは、数時間しかない時間を何に費やすべきかの話から始める。

「じゃあ雫星、どれに乗る?」

「もう一回あれに乗りたい!」

 そう言って雫星が指差したのは、またも僕が苦手なあの乗り物だった。

「おっけ!じゃあ乗ろう!」

 結月が二つ返事で答えると、雫星は笑顔で僕の方を見る。それが嫌味の笑顔だと捉えた僕は、「なら昨日と同じ場所で待ってるよ」と素っ気なく返答する。

 すると雫星が一瞬悲しそうな顔を見せたので、ちょっとした悪戯の気持ちだったのだろうとそれ以上は僕も気にしないことにした。


「終わったらまた連絡するねー」

 お気楽そうに手を振った火ノ川たちが徐々に見えなくなっていく。

 今日も今日とてまた一人から始まってしまった。昨日読み始めた本も、続きが気になってしまい昨日の夜の内に全て読み切ってしまっている。

 どうするべきかと一先ずは空いていた同じベンチに腰を掛けた時、スマホに一通連絡が来ているのが目に入った。

 スマホを開くと、”楽しんでるかー?”というメッセージ。

 どこから僕の連絡先を入手したのか、それは内海先生からだった。

 僕は一枚、今の自分の姿を写した自撮りを撮り”これが楽しんでいるように見えますか?”と添え返信をする。

 するとすぐに閉じたばかりのスマホが鳴り、そこには楽しそうにトングを持った写真と共に”#親戚一同でBBQ”と送られてきた。

 まるで今の僕が置かれている状況を馬鹿にしているようなその写真に対し、僕は既読無視という選択をする。

 それから再びどうしようかと考え始めた時、せっかくだから皆のお土産でも見に行ってみるかとふと思い立ち、ベンチから重い腰を上げる。


 お土産ショップに着くと、まだ午前中ということもあってか思っていたより賑わいは落ち着いていた。とりあえずは店内を一周してから考えることにしようと思い、広い敷地内を一人でぐるっと回る。

 ただお土産と言えど、それを誰に買うべきなのか。僕にはそんなに親しい友人もいなければ、家族もそれを期待はしていないだろう。さっきまであんなにくだらないやり取りをしていた内海先生には以ての外だ。

 けれど何の気なしに歩き続けていた途中、他とは違って眩い光りを放つゴールドのリングが気になった。一度は通り過ぎてもどこか頭の片隅から離れようとはしないそのリングに、立ち止まって手に取ってはみるが、自分用に買うのはとさすがに気が引けていた。

 それならと、たまには全員でお揃いのものがあっても良いかと思い、値段も見ずにレジへと向かう。そこで金額を見ては、想像よりある程度跳ね上がったその値段に多少の後悔もしてしまう。いつものあの癖は、他三人のものだけでなく僕にもしっかりと染み付いていたものだったのかと改めて知る。それは次回からの反省点にもなったが、同時に皆が喜んでくれるところを想像すると、その後悔以上に買ったことへの優越感に浸ることもできていた。




 お土産を手に、僕はまたベンチへと戻る。

 少しすると、あの結月の高めの声が遠くの方から聞こえてくる。

「ただいまー!」

 まるで昨日のデジャブのような状況に、僕は一日が経っていることを忘れそうになってしまう。早速さっき買ったお土産を四人に渡そうかと考えていた時、雫星があるものに見惚れていることに気がついた。

「あっ可愛い!」

 こういう場所には付き物なマスコットキャラクターだが、それを見た結月も似たような反応を示している。僕からすれば、中の人のことを考えるとそこら辺の知らない人と一緒に写真を撮るのと変わらないような気もしてしまうが、被り物である見た目の魅力なのか、それを感じさせないオーラを放っているのは凄いところだ。

 一向に視線を逸らそうとしない雫星の様子を見ていたスタッフさんは、首からぶら下げていた本格的なカメラをチラつかせながら僕たちに言う。

「良かったら写真撮りましょうか?」

 まぁ本当に撮るだけならと、僕たちもそれ相応の楽しそうな顔で一枚撮ってもらうことにする。ただそれからは案の定と言わんばかりの流れで出来上がったサンプルを見せられ、お決まりの文句を一言。

「一枚千円ですけど、どうですか?」

 金額を提示してきた時点で僕たちは当たり前のように断ろうと思ったが、雫星はそれに即答する。

「欲しいです!」

「えっちょっと雫星?」「結構するし、写真ならまた私たちだけでも撮れるじゃん」

 結月と火ノ川が宥めるようにそう言ったが、雫星の気持ちは変わらない。

「確かにそうだけど、でもこれも欲しいから!」

 こうなれば雫星は何を言ってもそれを手に入れようとするだろう。それが分かった時点で仕方が無いと諦め声を揃えて言う。

「じゃあ私たちも買うか!」

 火ノ川たちがそう言い出したので、僕も続けて答えてみる。

「僕はどっちでも。みんなに合わせるよ」

 そして全員が写真一枚をお土産に地元へと持って帰ることにした。

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