Mars(8月4日)
それからは雫星が乗りたいというものを中心に回った。けれど気を遣わせたのか雫星の意向なのか、それは僕でも乗れるような幼稚な乗り物ばかりだった。
全く乗り物を満喫していなかった僕からすれば嬉しいようで、たまに雫星と二人で乗らされては残りの三人に爆笑されながら写真を撮られたりと心外にも感じていた。
そんなことを数回も繰り返していれば、ずっと外にいても気づかないうちに辺りは暗くなっている。
「なら次が最後にしよっか」
まだ明日もあるため、僕たちの中に最後という名残惜しさはあまりなかった。
「どれにする?」
火ノ川はパンフレットを見せながら雫星に問いかける。
「ならこれにしよ!」
そう言って雫星が指を差したのは観覧車だった。
「えっこれ?他のにしない……?」
その答えに火ノ川だけは乗り気ではなかったが、僕はそれを見て逆に激推ししようと思ってしまう。
「すごく良いと思うよ。早く乗ろう!」
珍しく昂っている僕に雫星は喜び、結月と宙斗は爆笑し、火ノ川には睨まれた。
でもこれもまた問答無用で雫星が言うのだからと五人全員で乗ることにする。
「何かあれば俺がついてるしさ!」
「一番頼りないんだけど……!」
まだ乗り気にはなれない火ノ川に宙斗が言ったが、それは宙斗にとっては可哀想な返事でしかなかった。
「はい乗るよ!」
その結月の声で足早に五人全員が乗り物内へと腰を掛ける。辺りは一面暗いこともあり、一つ一つの建物の光がキラキラと主張し合い激しく輝いていた。
徐々に上に近づくに連れ、火ノ川の顔も引き攣ってはいくが、最低限の配慮として僕たちはなるべく乗り物自体を揺らさないようにと気は使ってあげる。僕たちは火ノ川が高所恐怖症であることを知っているが雫星は知らない。いつもならこういうことは真っ先に断る火ノ川が断らなかったのは、雫星のためにそれ相応の覚悟を決めたからであろう。僕でさえ雫星がいても尚、乗り物に向き合うことは出来なかったんだ。そんな火ノ川のことを僕は多少尊敬した。だから次からはいつもより少し揶揄うのを控えようと心に誓ってあげてもいた。
「雫星、一番上来るよ!」
そう言って結月とゆっくり窓の方へ近づき張り付くようにして外を見ていた雫星。何も感想は聞こえてこなかったが、二人の後ろ姿からその景色に圧倒されていることだけは伝わってくる。僕はそんな人工的な光にここまでの感動があることを不思議に思いつつ、僕も人にしか成し得ない力で雫星のことを変えられたらとまたらしくないことを夢に見ていた。




