Mars(7月24日)
それから数日間、二人に教えられながら毎日スマホを触っていた雫星は、簡単な操作なら完璧に熟せるようになっていた。
日々スマホに夢中になっていく雫星を見て、僕も数年前に初めて買ってもらった時のことを思い出してしまう。その時の自分と同じように雫星がそうなっていく姿は、不思議とどこか寂しく感じるものもあった。
いつものように病室に集まっても、僕以外の四人は自分のスマホ画面をのめり込むように見ている。だがそれは全て雫星に関することであって、お互いのために見ているのを僕は知ってはいる。
「あっ今日花火大会あるんだって!」
そのスマホ中毒の一人である結月は、SNSで得た情報なのか、スマホの画面を見ながらテンション高めにそう言った。
「でも今日なら行けないだろ?」
もう正午も回り、今日の夕方にその場所へ行くには急過ぎる話だった。
僕は自分でも現実的で妥当な判断だと思ったが、雫星はそれが自分のせいなのではと気にしているような素振りをしていた。
そんな様子を見た僕は焦る。
「いや、そうじゃなくて。ここからは距離があるからさ」
けれどそれに負い目を感じていたのは僕だけではなかったようで、言い出しっぺであった結月も多少の動揺を示していた。
結月は一瞬のうちに打開策として考えたのか、ある提案をする。
「うん。だからさ!みんなで出来る花火をしようよ!今日!!」
「「今日!?」」
さっきよりはまだ現実的な話にはなったが、このメンバーの中でも常に冷静である僕と火ノ川の反応は同じだった。
「おぉ何だそれ!なんか楽しそうだな!!」
でも常にハイテンションの宙斗は、同じくハイテンションの結月の案に呼応している。
そして宙斗という仲間を増やした結月は、自信を持って雫星に聞く。
「今日の夜、外出許可下りないかな?」
ウルウルとした瞳で聞いた結月の願いは、ちゃんと雫星に届いたようだった。
「うん、先生に聞いてみるね」
それから数時間ほどが経った頃、僕たちは近所の大型スーパーにいた。
少ない賃金の中で数種類ある花火を選ぶのに僕以外の三人が小さく揉めていた中、雫星から夜だけなら外出許可が下りたとの連絡が全員のスマホに届いた。
一瞬その喜びを分かち合えていた三人だったが、結果花火は三者三様三種類ともを買うことになり、前回のコンビニ同様それは割り勘で一人の負担も大きな額となった。
これが僕たちにとっての平和的解決なのかもしれないが、僕だけはスッキリしない気持ちを抱えてしまう。けれども三人のためではなく雫星のためなのだからと思うと、許せないことも割り切ることができていた。
花火を買い終えた僕たちは、先に準備しておく公園組と雫星を迎えに行く病院組で別行動をすることにした。
「なら私は先に準備してるよ」
まず火ノ川がそう言うと、続いて「俺も」と宙斗も公園の方に行くことが決まった。
「それじゃあ雫星の方は僕と結月で行くか」
僕がそう言って結月の方を見ると、慌てたように火ノ川が言う。
「えっ待って!私と宙斗の二人とか無理だから!」
それは宙斗の不器用さが原因なのだろうが、さすがに本人を前に、更には自分の彼氏にでもそれを堂々と言えてしまうのは、火ノ川の凄いところだと思った。
「結月はこっちに頂戴!」
続けて言われたその条件に、結月も僕もどうするべきかと困り顔になってしまう。
「男二人で雫星のところに行くのもな……」
僕が悩みながらそう言うと、宙斗はどちら側からも必要とされていないと思ったのか、心成しか悲しそうな顔をしていた。
「それなら地崎が一人で行けばいいじゃん」
火ノ川からの突拍子もない発言に、他の二人も僕の方を見る。
「えっ、僕が一人で……?」
黙って当たり前のように頷く火ノ川を前に、脱力して何も言い返せなくなってしまう自分が情けなかった。
こうして火ノ川様に言われるがまま、僕は一人で雫星を迎えに行くことになった。
もうそろそろ準備が出来た頃だろうと病室の前まで辿り着いた時、珍しく病室の扉が閉まっていることに気づいた。
「雫星、もう行けそう?」
一応の為、僕は外から雫星に一言声を掛けてみる。
「うん!大丈夫」
扉越しに籠もった声でそう聞こえたので、僕はゆっくりと病室の扉を開く。
鏡を見て最終チェックをしていた雫星は、僕が初めて見る私服姿で既に用意を済ませていた。
今までは病院ということもあって、それに見合った格好の雫星しか見たことがなかったが、そんな雫星の私服姿をほぼ初めて目にしたこともあってか、僕は我を忘れて少しの間見入ってしまっていた。
「ん?どうしたの?」
そんな僕に雫星が不思議そうな顔を向けている。
「あっいや、それ……」
そして僕もそれを悟られまいと動揺した返しをしてしまったが、そんな曖昧な返しでも雫星はそれが自分の服についてだとすぐに理解してくれた。
「あっこれね、実はずっと前の夏に買ってたんだ。
でも今日まで出掛ける用事なんてなかったから着る機会もなくて。初めて着てみることになったんだけど、どうかな?」
雫星はこの僕の反応を見た上で言っているのが不思議なほど自信が無さそうに聞いていた。
「うん、結月たちが喜びそうだよ」
そんな雫星に自信を持って良いんだよと、僕は表情を和らげながら答える。
「良かった」
それに安心したように微笑んだ雫星は、用意した鞄を一つ持って僕と一緒に病室を後にした。




