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Mars(7月16日)

 プリクラコーナーを後にしようと歩き出した時、そこを出てすぐの所で雫星は突如立ち止まる。

 その視線の先には、今流行りのキャラクターなのか、パンダのぬいぐるみが綺麗に並べられたクレーンゲームがあった。

 流行りに疎い僕にはこの魅力さえも分からないが、雫星がそれをどういう気持ちで見ていたのか。流行っているから。ただそれだけの理由かもしれなかったが、少なからずそれを欲しいと思っているのは雫星の真っ直ぐな視線から伝わってきていた。

「よっしゃ!俺が取ってやるよ!」

 最初にそう意気込んだのは宙斗だった。

 リュックを開け財布からお金を取り出すと、すぐさまコイン投入口へとお金を入れる。

 だが直後に響き渡ったのは宙斗の悔しそうな声であり、やる気があるのは確かだが、宙斗は不器用で意気込んだ時ほど毎回失敗するようなタイプである。

 そんな分かりきった展開に、雫星以外は呆れた顔をするしかない。

 けれど「もう一回!」「もう一回だ!」と何度も失敗しては繰り返されるその光景に、到頭僕は見るに耐えられなくなってしまう。

「宙斗じゃ無理だ!僕がする」

 僕は宙斗の肩を掴み、前後を入れ替わる。

 それでも僕も宙斗のことを馬鹿にできないほど下手、もしくは敢えて難しく設定された機械としか思えないほど、その道程は果てしなく感じた。

 けど僕たちの頭には何故か諦めるということが皆無だった。

「何あれ、一回も取れたことないのに無理でしょ。」

「男の意地ってもんじゃない?

財布が空になるのが先か、心が折れるのが先かってとこだね」

 そんな僕たちを見て、結月と火ノ川がコソコソと会話しているのが聞こえてはきたが、今の僕にはそれさえも気にならなかった。

 確かにクレーンゲーム自体は好きで何度かトライをしたこともあるが、ほとんど取れたことはない。だけど一回くらいはあったはずなのにも関わらず、一回もと言う結月の言葉にだけは納得がいかなかった。

 けれど続く否定しかないその会話のほとんどをどうでもいいと思えてしまったのは、自分の意思で諦められないのではなく、誰かのために諦めたくなかったからなのかもしれない。そして僕たちのことを悪いように言う結月や火ノ川はともかく、雫星だけは僕たちを心配そうに見守っていた。

 もはや何十回目のトライかも分からなくなっていた頃だった。

「「取ったーー!!」」

 僕たちはぬいぐるみを手にすることに成功した。

 その瞬間はアドレナリンが出ていたためか、目の前の達成した物事しか見えてはおらず、手にしたぬいぐるみを僕が渡すと、雫星は自分の半分くらいあるであろうぬいぐるみを強く抱きしめてくれていた。

 雫星がぬいぐるみを嬉しそうに抱えている間、僕たちは雫星が見ていない所で直後に火ノ川から現実を突き付けられる。

「見て、このぬいぐるみの定価は4500円。なのに実際はその倍のお金を費やして二人は取った」

 自分のスマホ画面を見せて言った火ノ川によって、僕たちのアドレナリン効果は徐々に失せていく。

 だがそんな後悔に苛まれそうだった時、僕たちの後ろにいる雫星に火ノ川と結月は優しい目を向けていた。

「嬉しい……」

 そう言ってくれた雫星の姿を僕たちは目の当たりにした。

 自然と溢れ出す笑みと同時に、今の僕たちには後悔なんて言葉よりも、果報という言葉の方がずっと合っていると改めて実感できていた。

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