Mars(7月16日)
そんなわけで僕たちは次の日、病院から一番近くにあるゲームセンターへと向かった。
そこは普段から僕たちも行き慣れていた場所であり、どこに何のコーナーがあるかなどは大抵把握済みだった。
自動ドアを抜けると、すぐに入り込んでくる光と共に心臓にまで響く音。
聞く限りではそれを初めて体験したはずの雫星は、衝撃を受けるかと思いきや、目をキラキラと輝かせている。
「どこ行くんだよー」
入って早々、何も言わずにどんどん先を進んで行く女子たちに対し、気怠そうに後を続く宙斗がそう投げ掛けていた。
だがその返答が返ってくる間もなく、最初の目的地に辿り着くこととなる。
「雫星、これがプリクラだよ!」
目の前には多数の機械がずらりと並び、その全てを指すように結月は手を大きく広げながら言った。
改めて目にしてみると、ここが機械の品揃えで有名な理由がよく分かる。
男子だけだと中々来るに来れないこの場所も、結月や火ノ川のおかげで僕や宙斗も何度も足を運ぶ羽目にもなっている。
「ここ、昔は男子禁制だったらしいぞ」
だけど僕にだけ聞こえるようそれをコソッと教えてきた宙斗は、どうやらここに足を運べていることを誇りに思っているらしい。
僕からすれば、綺麗な景色でもない写真を残す意味さえ分からない上、それを何枚も撮ることにうんざりしてしまう。
ただ雫星にとってはその機械の多さから衝撃的だったのか、棒立ちのまま目を奪われていた。
結月はそんな棒立ち状態の雫星の腕を引っ張り言う。
「ほら、雫星も初めてのプリ撮りに行こ!」
そして主に結月と火ノ川が数ある機械から一つを決めていき、二人が悩みに悩んだ末、選んだ機械の中へと女子三人は姿を消していく。
正直今日は女子たちだけで撮ってくれるものかと思っていた僕は、その機械の前で一人立ち止まっていた。
すると既に中に入っていた結月は中から顔だけを出し、それを見逃さないとでも言うように僕の方を見る。
「何してるの?早く撮るよ!」
そう言われても乗り気にはなれなかったのだが、その視線の先で当たり前のように機械の中へと吸い込まれていく宙斗を前に、僕一人だけ断るということはできなかった。
いつもの人数にもう一人増えたことにより、そこはいつも以上に窮屈に感じた。
けれどそんな機械の中で繰り出されるシャッターは、いざ始まってみれば僕たちの今日を不思議と永遠の思い出に変えてくれる。
画面に映し出される写真には、楽しそうな四人の顔と共に、その中に写る僕も自分では気づくことのなかった顔を見せていた。
「はい、じゃあ次右側に出て!」
いつものことではあるが、取り慣れている結月と火ノ川は颯爽と次の行動に移っていく。
二人ほどではないが、僕や宙斗もこれまでに四人で何回か撮った経験を経て、そのシステムをある程度は理解している。
今日も毎度のこと、結月と火ノ川が手際良く落書きを済ませてくれている。
その間僕と宙斗はそれを覗いて見てみたり、機械の外に目を遣ってみたりと、これまた毎度のこと手持ち無沙汰な状態である。
そしてその際、顔のパーツを二人が少しずついじっているのも気になったりはするが、あまり写真を見返したりすることがない僕は、どうせ二度と見ることはないのだからと割り切ってもいる。
落書きも終わったのか、また移動を始めた女子たちは、機械の前で完成した写真が出てくるのをしゃがんで待っていた。
「出てきた!」
雫星がそう言ったと同時に出てきたプリクラの枚数は三人分で、女子三人はお互いにそのプリクラを分け合っている。
「どうせあんたたちは要らないでしょ?」
どこか呆れたような火ノ川からの物言いは気に食わなかったが、どうやら僕がこんな写真に興味がなかったことには端から気づいてくれていたみたいだった。
貰ったところで保管場所にも困る。ある意味それを有り難くも感じていた僕はともかく、宙斗の内心は違ったのか、少ししょんぼりとしていた宙斗を見て、巻き込んでしまったことを多少申し訳なくも思った。
「はい雫星」
結月から手渡され、改めてその一つ一つの写真に目を向けた雫星は、何とも言えないような表情で言う。
「凄いね!でもみんなおんなじ顔に見える……」
「プリクラってそういうもんだから」
火ノ川の身も蓋もない発言に、雫星だけでなく僕たちも一瞬冷めた顔になった。
「でも雫星が一番可愛いよ」
続く結月の発言は、火ノ川のフォロー分くらいにはなったのか、雫星は人生で初めてのプリクラをどこに貼ろうか、嬉しそうに色々なところに翳しながら悩み始めていた。
そんな雫星がもう既に気づいていたのかいなかったのかは定かではないが、僕は一枚の落書きに雫星の病気が良くなるよう願いのメッセージが書かれていたことを知っている。
雫星の病気が良くなることなんてない。けどそのメッセージを見て嬉しくない人もいない。それを見て雫星がどう思ったのか、将又どう思うのかは分からないが、せめてその願いが少しでも雫星が長生きするための活力になってくれたらというのが、この場にいる皆からの願いだった。




