Mars(7月6日)
僕が何の気なく伝えたことが影響したのか、僕から口頭で伝えられた三人も至って平常心を保っていた。
元々結月や宙斗はあまり深く考えない性格でもある。
ただその陰で、火ノ川だけはそんな二人に合わせているようにも見えた。
そして学校終わり、僕たちは約束通り雫星の病室へと向かった。
「おはよう!」
開いていた病室の扉から、一番に結月がそう言って中へと入っていく。
「あっおはよう!」
そこにはいつも通り元気そうな雫星の姿があって、電話の印象と何等変わることはなかった。
正直学校に来られなくなったと知り、深刻とは捉えてはいなかったものの、体調の面が優れなくなっていたのではと心配はしていた。
だが雫星の見た目からそれは感じられず、来れなくなった理由は分からなかったものの、その現状に安心はした。
僕たちが病室に着いてから少しして、再び病室をノックする音が聞こえた。
さっきまで空いていた扉は、僕たちが入室したと同時に閉めていたため、扉の前にいるのが誰なのか、すぐには分からなかった。
けれどこの部屋の住人である雫星にはある程度予想がついていたのか、「どうぞ」と言った雫星の声と共に病室の扉は開けられた。
「雫星ちゃん、ちょっといい?」
そう言って入ってきたのは、雫星の担当なのか、その呼び名から雫星とは親しげな関係にありそうな女性の看護師の方だった。
「どうかしましたか?」
「今雫星ちゃんのお母さんから電話が入ってて。出られそうかな?」
「お母さん?あっ分かりました。」
雫星にはその電話に心当たりがなかったのか、どうしたのかというような顔で子機を受け取っていた。
そのまま僕たちに申し訳なさそうにしつつこの場を離れた雫星。
そんな中残された僕たちを見て、看護師の方は言った。
「ごめんね、邪魔しちゃったかな?」
そんなことは微塵も考えていなかった僕はすぐに答える。
「いえ、大丈夫です」
すると看護師さんは安心した表情を見せ、仕事に戻るためか静かにこの場を離れて行った。
「でもお母さんって何かあったのかな?雫星も驚いたような顔してたし……」
結月がそう言ったことで、僕たちは雫星の電話の内容が気になった。
特に会話もせず雫星のことを待っていると、無音だった病室には雫星の話し声が微かに聞こえてきた。
「お見舞いなんて気にしなくていいから。それよりお母さんの方が体調しっかりね」
雫星は最後にそう言って電話を切り、また病室へと戻って来る。
「大丈夫か?」
電話を終えた雫星に宙斗が聞く。
「うん、ちょっとお母さんが風邪引いちゃってるみたいで。
それより何の話してたっけ?」
また何事もなかったように接する雫星が、僕は気になってしまった。
「いつもそうなの?」
「いつもって?」
雫星は僕を見て聞き返す。
「いや、実のお母さんなのにすごく気を遣っているように見えたから」
「えっそうかな?そんなことないと思うんだけど……」
そう言って誤魔化したような笑顔を見せる雫星には、何か意味があるような気がした。
出会った頃から幾度か感じてはいたが、その度敢えて口には出さなくてもと心に収めていた。
でも今日を通して薄々分かった。雫星がおとなしい性格なのは、普段からあらゆる場面で自分の意見を押し殺しているせいだったのかもしれないと。
「雫星、私たちには気を使わなくていいからね」
そう言い出した火ノ川を見て、それに気づいたのが僕だけではなかったことを知った。
だけど雫星はその言葉さえも噛み締めたように顔を上げて言う。
「ありがとう。でも……」
きっとその続きには、余命のことがちらついているのだろうと思った。
ただこの場にいる誰もがその続きを聞きたいとは思っていない。だから結月は雫星に言った。
「私たちは絶対に雫星の本音から逃げないって約束する。全部受け止めるから。
だから雫星も、他の誰でもない、私たちには本音で向き合うって約束しよ」
結月から出された小指に、雫星も小指を立て約束を交わしていた。
その光景を見て、三人と雫星は分かり合える。そう信じていた僕が正しかったのだと証明された気がした。




