Mars(6月17日)
家に帰って携帯を開くと、着信履歴に雫星が入院している病院の番号があった。
僕は落ち着かない気持ちでその番号に掛け直してみる。
「301号室の金垣雫星さんに繋いでもらえますか?」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
浅い日数の中で、既に聴き慣れてしまった保留音と共に雫星が出るのを複雑な気持ちで待っていた。
「もしもし」
保留音が切れると、すぐに雫星の声でそう言われる。
「さっきの電話、出れなくてごめん。その……」
僕は何を聞かれるんだろうと、続く言葉を出せずにいた。
それに気遣ったのか、間を開けることなく雫星は言った。
「ううん、大したことじゃないんだけどね。謝りたいなって思って……」
「謝りたい?」
「うん。陽を私のために巻き込んじゃったかなって……
当たり前だよね。陽にはたくさん友達がいるのに、それを考えもしなかった私のせいで悲しませちゃったと思うから……」
「それは……」
「もうすぐ死ぬ私なんかのために……ごめんね。」
雫星の謝罪の全てを否定する事はできなかった。
正直僕も今日のことには理解が追い付いてはいない。結月が何故あんな事を言ってしまったのか。
それでも雫星のためを思っての行動だったとは思わない。“死ぬ”嘘偽り無いその言葉に多少の恐怖は感じていたのかもしれない。
それが僕にとっては善意という形で雫星との時間や関係性を作り出していただけであって、結月はその逆をいく結果となった。
そして雫星があの時結月に対して言った言葉。あまり自分から多くは発言しない雫星の気持ちを、僕は日々を通して少しずつ理解していた気持ちになっていた。
けどそれは飽く迄面だけに過ぎない。自分から分かろうともしていなかった僕に、雫星の複雑な内面まで分かる訳もなかった。
返せる言葉もなく、それを言った雫星の顔が見なくても十分に伝わっているのに、それでも何も言うことができない今の自分に腹が立った。
「明日、お見舞いに行くよ。」
またしても自分の口からは逃げの言葉しか出せなかったことに、情けない気持ちになった。
そして雫星からは一瞬、それに対しての返事は聞こえなかった。
だけど少ししてそれは聞こえた。
「うん」
その声はいつもの雫星に思えた。無理をさせてしまった雫星の返事に、僕には色々な後悔が浮かんだ。
後悔をやり直す術は知らない。だから僕は自分が後悔した分くらいには、心から望んで雫星の為に動くことを決意した。
結月と話すのは、それからの話だ。




