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第6話「帝国軍との邂逅」

「あの船は……帝国の?」

 カルロッテが船を見ながら言った。

「そのようだな……まぁ、この話の続きはあとでだな」

 ファブリスはそう言うと、船長に合図を送った。船長はすぐに船員に命じて、帝国の旗を掲げさせる。

 若矢が不思議に思っていると、それは相手の船舶に敵意が無いことを示すためのものだとカルロッテが教えてくれる。民間の船、軍の船問わず、余計な緊張状態を避けるために主要な国家の旗が必ず積み込まれていることが多いとのこと。もっとも、それを悪用する海賊もいるため、絶対安心というわけにもいかないようだが……。

 彼女の説明を興味深く聞いているうちに、帝国の船との距離は近くなっていた。


「こちらは、帝国軍海兵隊第二部隊副隊長のビブルスという者だ。そちらの素性をお聞かせ願いたい」

 帝国の船から拡声器を通した声が響く。

「こちら、客船ナポリエス号! 私は船長のモッキン・モー。乗客は勇者ファブリスとそのご一行です!」

 と、こちらの船の船長であるモッキンが声を張り上げて返事をする。

 相手の船の船員がそれに応えるかのように旗を掲げて振る。あれもまた、敵意が無いことを表すものだという。

 しばらくして、お互いの顔がよく見える位置まで船は接近する。


「おお! 勇者ファブリス殿がいらっしゃるのか。あの魔王ムレクを討伐したと噂の……」

 どうやら、ビブルスは魔王ムレク討伐について知っているようだ。そのことがすでに伝わっていることから、帝国の情報網は相当なものだと推測する若矢。

「さすがは帝国、もう伝わっているとは……。では、彼のこともすでに?」

 ファブリスは若矢の肩に手を置きながら、ビブルスに尋ねた。

「ええ、もちろん存じ上げております。魔王ムレク討伐の功労者であるワカヤ殿ですね。お初にお目にかかります」

 ビブルスがそう答えたあと、船と帝国の船がゆっくりと横付けされる。そして、ビブルスを先頭に帝国からの乗組員がナポリエス号に乗り移ってきた。

「あなた方がファブリス一行なのですね。あらためてご挨拶を。私は帝国軍海兵隊第二部隊副隊長のビブルスと申します」

 ビブルスの挨拶のあと、若矢たちも1人1人自己紹介をする。



 話を聞くと彼らはどうやら、すぐ近くの小島にある町に向かう予定らしい。なんでもその小島の町付近では最近、魔物が頻繁に現れるようになったという。

 魔王ムレクが倒されたことで、魔物たちの鎮静化する可能性もある。だが過去の例を見るに、次期魔王の座を争って魔族たちの動きが活発になる、という真逆の事態に発展する可能性もあるとのことらしい。そのため帝国は、調査および討伐隊を派遣することになったという。

 この辺りはエレーナの故郷であるモルディオの所領だが、モルディオは帝国の属国であるため、実質的には帝国の管轄地だ。


「でも帝国がわざわざビブルスさんのような位の高い人物を派遣するということは、相当危険な魔物……ということでしょうか?」

 話を聞いていたリズが、ビブルスに質問した。

「ええ、実は魔王ムレクの後釜に最も近い1人と目される魔妖妃(まようひ)クレフィラの姿が頻繁に目撃されているとかで……」

 ファブリスたちは思い当たる節があるのか、難しそうな顔で唸る。

「クレフィラとはパーティーを組み立ての頃に一度だけ戦ったことがある。あと一歩のところで逃がしちまったけどな」

「でも、正直その時点では魔王の後釜になれるだけの力量はなかったように感じたけど……」

 腕を組みながらファブリスとエレーナがそう話す。


「恐らく何らかの力に目覚めたのかもしれませんね。その秘密ももしかしたらわかるかもしれない。それで、もしよければなのですが……」

「なるほど……それで俺たちに協力を仰ぎたいと……」

 ファブリスの言葉にビブルスはうなずく。そして、彼は若矢の方を見た。

「勇者ファブリスご一行と、魔王ムレク討伐を果たしたあなたのお力添えがあれば心強いです」

 と頭を下げるのだった。若矢たちは顔を見合わせると、うなずく。

「よしっ! じゃあ決まりだな! 本来のクエストもあるが、急ぐ旅じゃない。ここは帝国に協力しよう」

 ファブリスの言葉に、若矢たちは皆同意するのだった。

 ビブルスたちは自分が乗ってきた船に乗り、若矢たちが乗る船を目的地の小島に案内する。



 船を降りると早速目の前には美しい草原と、森が広がっていた。

 目的の町であるマクロフは、船着き場から数十分歩いたところにあるらしい。マクロフに向け、ビブルスたち帝国軍を先頭に歩いているとビブルスが足を止めた。

「……オオカミの群れだ。武装しているこちらにとっては大した相手じゃないが、各自油断はしないように」

 ビブルスは小声で帝国兵たちに指示を出す。オオカミの群れは、こちらに気付くと低い唸り声を上げる。その数は10頭前後といったところだろうか?

 しかし、帝国兵たちは冷静に対処して見せた。帝国の兵士が剣を振り下ろすと、オオカミたちはあっという間に切り裂かれてしまう。

 そして、ビブルスが剣でとどめを刺すと残りのオオカミたちも一目散に逃げていったのだった。


「オオカミはこんな小島にも生息してるんだな。ほんとネズミとオオカミはどこにでもいやがる……」

 と、ファブリスは呆れ半分でつぶやく。一行はその後すぐに森を抜け、その奥にある町マクロフに到着したのだった。

「おお! ビブルス様!」

 町の入口に立っている兵士がビブルスの姿を見つけ、駆け寄ってきた。そして彼はビブルスから事情を聞き、一行を町長の家まで案内するのだった。

 

 町を歩いていた若矢は極端に女性が多いな、と感じていたが、案内された町長の家でその理由を知るのだった。

 町の男性の多くは家族を養うためにモルディオの首都であるシェコなどの近隣の大きな都市に、出稼ぎに行っている者が多いのだという。

 この辺りの海は比較的安全で、海賊などが現れたこともない。人に危害を加える可能性がある生息生物も、オオカミやネズミ、グレートクラブといった危険度が低いものばかりだ。

 そのため兵士や猟師といった最低限の男手だけでも、この町では安全に過ごすことができていたらしい。

 

 しかし最近になってオオカミやネズミの数が急速に増え始め、その凶暴性も増したのだという。さらにはこれまで見られなかった、魔物の姿も目撃されるようになったことで状況は一変してしまった。

 この町の住人が安心して暮らせるように、どうか魔物の調査と退治をお願いします、と町長はビブルスたちに深く頭をたれる。そんな町長にビブルスはもちろん、若矢たちも力強く答えるのだった。



 島の本格的な調査は明日から、ということになった。その日泊まることになっている宿屋に移動しながら、若矢は横を飛んでいるラムルに話しかける。

「ラムル、今日はずっと静かだったけどなんで話さないんだ?」

 ビブルスたちがラムルについて何も触れていないのもおかしい、と若矢は感じていた。するとラムルは意外なことを口にした。

「それなんだけどね! 僕の姿が見えているとみんなにいちいち説明しなきゃならないし、いろいろと面倒かなって思ってさ。若矢くんだけにしか僕の姿も声も認知できないようにしたんだ」


「えっ!? ファブリスさんたちは? もうラムルの姿も見てるし……」

 驚く若矢にラムルは、ファブリスたちの記憶から自分のことを消した、と説明するのだった。

 ラムルは神の使いであるため、その力を悪用しようと企む者が現れることもあるのかもしれない。

 若矢はそれ以上は深く言及しないでおくことにした。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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