表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/37

第11話「船上の剣術試合 ファブリスvs浪人」

 楽しい宴の翌朝。朝食後、若矢たちの船がモルディオに向けて出発する時間になった。

「このあとのことは、我々にお任せください。ファブリス殿、ワカヤ殿、みなさんもどうかお元気で!」

 ビブルスが船着き場で、ファブリスの手を握る。

「ワカヤく~ん! また来てね~! 待ってるから~♡」

  「旅が終わったら遊びに来てねぇ~!」

  町の娘たちも総出で、若矢に手を振っている。若矢たちもそれに応えて手を振り返すのだった。



 出港して数時間。若矢たちが船の上で、ティータイムを楽しんでいる時だった。

「なんだなんだぁ~。ちょっとやかましいじゃねぇの?」

 気だるげな声と共に、船の倉庫から見知らぬ男が姿を現した。

 若矢はその男に見覚えが無かったが、ファブリスや船長を始めとした船員たちも警戒したような視線を男に向けている。どうやらこの船に乗っている誰かの知り合い、というわけではなさそうだ。

 和服のような着物を着ており、どうみてもこの辺りの出身ではなさそうだ。腰には2本の刀も差している。


「何やら楽しそうなことやってるなぁ~。おいお前ら! 俺にも酒もってこい!」

 男は気安く船員たちに命令し、若矢たちの元へとやってくるなり、カルロッテの肩に手を回し、その豊満なバストに手を伸ばそうとする。

「ちょっ、ちょっと! いきなりなにすんのよ!」

 カルロッテは顔を真っ赤にして、その手をピシャリと払い除ける。

 だが男はそんな彼女の態度になんの反応も見せず、まるでチンピラのような口調で若矢に向かって言うのだった。

「おいおい兄ちゃんよぉ~? 女侍らせていいご身分だなぁ? 俺にも分けてくれや」

 そして今度はリズのお尻に手を伸ばす。

「きゃっ!」

 リズは小さく悲鳴を上げた。

「ふひっ! いいケツしてんじゃねぇか!」

 男はリズのお尻を揉みながら、下卑た笑いを浮かべる。


「やめろ!! 彼女たちは大切な仲間だ! 手を出したら許さない!!」

 若矢は男に向かって怒号を飛ばす。その目は、普段の彼からは考えられないほど、鋭い眼光を放っている。

「おいおい、そんなに怒るなよぉ。 別に減るもんじゃねぇしいいだろ?」

 男は若矢の剣幕に少しひるんだものの、ヘラヘラと笑い続ける。

「この女どもだって声出して喜んでるじゃねぇか、ふへへへ~。気持ちよかったかぁ? ん~?」

 そう言って再び、リズとカルロッテのお尻に手を伸ばす。

 

 だがその時、怒りで我を忘れた若矢は男に体当たりし、2人の元から引き剥がした。そしてそのまま男を押し倒して馬乗りになる。

「い、痛ぇ! おま……離せ!!」

 男はじたばたと抵抗するが、転生者である若矢の腕力にはかなわないらしく抜け出せずにいる。


「彼女たちを侮辱するなっ!!」

 若矢の叫びを聞いた男は、

「うるせぇなぁ……。耳元でデケェ声出すなよ。 だいたいお前みたいな野郎が女侍らすなんておこがましいんだよ! ったく、なんでこんな優男がモテるのかねぇ?」

 と、ぶつぶつ文句を言っている。若矢はそんな男の態度にますます怒りをつのらせた。

「お前は誰で、目的はなんだ? さっさと答えろ」

「こ、答えるから俺から離れてくれよぉ。……このままだと息が苦しくて、へへへ……答えられねぇよ。……ふへへへ……」

 

 若矢の脅しに、なおもヘラヘラとしている男を見てさらに力を強める。

「早く答えろ!」

 男はそんな彼の剣幕に観念したのか、小さく呟くように語り始めた。

「お、俺の目的は……ひ、人探し……いや、仲間との合流だ……。だが、どうやら乗る船を間違えたうえに、寝ちまったらしい……。そしたら、へへ、いい女どもがいるからつい、な……」

 男の話を聞いた若矢はとりあえず男を解放してやったが、疑いの眼差しを向けながら尋ねる。

「お前は何者なんだ? なんでその仲間とやらを探している?」

 すると男はふてくされた様子でため息をつく。

「ちぇっ! お前が突き落としたせいで足をくじいちまったよ!くそぉ!」

「質問に答えろ!」

 

 若矢は再び語気を強めるが、それでも男は悪びれた様子はない。

「や~だね! そこのお姉ちゃんたちがサービスしてくれるってんなら話は別だけどよ、へへへ」

 若矢は男から3人を守るように、彼女たちの前に立った。

「大丈夫だよ。もう3人には俺が指一本触れさせないから」

 その言葉を聞いた3人は、あらためて若矢を頼もしく感じ、羨望の視線を彼に向けるのだった。



「へっ、お姉ちゃんたちは俺なんか眼中にねぇって感じだな。あ~あ、こりゃ残念。……って、おお? あんたいい剣持ってんなぁ、高く売れそうだぜ」

 男は3人に相手にされないとわかると、次にファブリスが背中に装備している勇者の剣に視線を向ける。

「へへへっ、いい剣だ。俺に見せてくれねぇか? へへ」

 若矢はファブリスに手をのばそうとする男の腕をつかみ、睨みつける。

「だめだ! あれは勇者であるファブリスさんにしか扱えない伝説の勇者の剣で、とても大事な物なんだ」

「ふ~ん、じゃあその勇者様とやらに頼めば見せてくれるのか? へへ……」

 男は若矢の手を振りほどき、ファブリスへと近づく。

 そして彼の剣に手をかけるが……。


「うおっ! なんだこりゃあ!?」

 男がいくら力を入れて剣を抜こうとしても、ビクともしない。それどころか逆に剣から強い抵抗力を感じるのだった。

 (この感じ……まるで俺を拒絶してるみてぇだ……)

 そんな男の様子を見たエレーナが、

「当たり前でしょ? その剣は勇者であるファブリスにしか扱えないわ。だから諦めてさっさと船から降りなさい」

 と、男に言い放つ。

「へぇ、勇者の剣ってのが本当にあったとはねぇ。俺も剣術を少し齧ってるもんでよ、ちょっとでいいから見せてくれないか?」

 男の言葉には、皆が黙ったまま誰も反応しなかった。


「へへっ、いいじゃねぇかよ~? それとも何かい? 勇者様とやらは腰抜けで剣もまともに扱えねぇのか?」

 挑発するように男は続ける。

「いい加減にしろっ! ファブリスさんは勇者として選ばれた人だ! さっきからその人をバカにし続けたような態度、許せない! それ以上言うなら……」

 沸点をとうに超えている若矢が拳を握りしめる。

 が、ファブリスが彼の肩を掴み、首を横に振る。

「ありがとう、ワカヤ。ここは俺に任せてくれないか」

 

 ファブリスは若矢の前に出ると、自らの手を剣に掛けながら男を見据える。

「なぁ、あんた。俺の剣を見せてやってもいいぜ。だけどお前、俺の仲間を侮辱したことを忘れてねぇよな? そんなに見たいなら、俺と剣術の試合なんてどうだ? あんたが勝ったら剣も見せてやるし、次の港に着くまで船に乗っててもいい。だが俺が勝ったら、仲間に詫びたうえで船から降りてもらう」

 ファブリスは男に勝負を持ちかける。

「寝起きで剣術の試合ねぇ……。面倒だなぁ……。だが勇者の剣を見るチャンスだしな。いいぜ、やろうじゃないか、へへへ」

 男の答えを聞いたファブリスは、船員や若矢の方を見てうなずく。彼らはそれを合図に、船の甲板を広く使えるようにできるだけ遠くへと移動した。



「勝負は簡単。真剣を用いて戦う。相手の剣を弾き飛ばすか、相手を行動不能にすれば勝利。急所への攻撃や致命傷を与えた場合は、その時点で敗北とする。魔法、飛び道具など、剣以外の使用は一切禁止とする。……これでいいか?」

「あぁ、いいぜ。へへっ」

 その提案に男はニヤリと笑う。

 ファブリスが剣を抜くのを見ると、彼も腰の刀に手を掛けた。が、その刀から男は手を離し、辺りをキョロキョロと窺う。

「おい、船長さん、そこの剣貸してもらってもいいか?」

 男は、船に護身用で積み込まれているショートソードを指差しながら船長に尋ねる。


「はぁ? あれは大した剣じゃねぇぞ? それに武器ならアンタ自分のがあるだろ?」

 船長が難色を示すと男は、

「いいから貸してくれよ。俺は殺すと決めた相手にしか、自分の刀は抜かねぇことにしてるんだよ」

 と、自らの信条を語る。

 船長が諦めたように、渋々ショートソードを男に渡すと、彼は嬉しそうに受け取った。

 ファブリスと男は距離をとって向き合い、試合が始まるのを待つ。

「準備はできたか? 俺の仲間たちを侮辱した罪は重いぞ?」

 ファブリスが男に尋ねると、彼は剣を構える。それを見たファブリスも、男に対し剣を構えた。



「それでは……勝負はじめ!!」

 船長の合図で試合が始まると、まず先にファブリスが仕掛ける。男はファブリスの剣撃を巧みに受け流すが、彼の実力に少し驚きの色を見せた。

「へへっ! 少しはやるじゃねぇか」

 男は喜びながら攻撃を繰り出す。だがファブリスはそれを冷静に見極めて応戦する。

 剣がぶつかり合う激しい音と共に2人は一進一退の攻防を繰り広げていた……が、徐々にファブリスが攻勢の手を強めていく。男はファブリスの攻撃を防ぐことで手一杯のようだ。

 

 2人は一旦距離を取る。

「へへ、言い訳に聞こえるかもしれねぇけど、貸してもらったこの剣がどうも馴染まねぇな。それに随分とボロだ。こんな剣じゃ、満足に戦えねぇな」

 男は船長から借りた剣を苦笑しながら見つめる。

「負けそうだからって言い訳してるのね、あの人」

 カルロッテが呆れたように呟く。

「ファブリスの剣さばきは、この辺りの冒険者の中でも指折りです。あの男が腕の立つ剣士だったとしても、そうそう勝てるとは思えません」

 リズがカルロッテの呟きに反応すると、エレーナも続いてうなずく。


「ふへへ! やるねぇ、さすがは勇者さまってか? だが俺も負けるわけにはいかないんでな」

 男はそう言うと、一気に距離を詰めた。そしてそのままファブリスに斬りかかろうと剣を振りかざすが、それをファブリスに弾き返される。しかしその瞬間、男は弾き返された衝撃を利用して身体を回転させたまま、ファブリスの右肩目掛けて突きを繰り出した……が、それと同時に男の剣は音を立てて折れてしまった。



「俺の勝ちだな」

 ファブリスが剣先を男の喉元に突きつける。彼はその気迫で男の動きを封じていたのだった。

「あーあ。やっぱり折れちまったかぁ。へへっ、これじゃあ敵わねぇな」

 男はファブリスを称賛しながら折れた剣を投げ捨て、両手を上に挙げた。

「勝負あり! 勝者は勇者ファブリス!」

 船長が彼の勝利を宣言すると、それを聞いたファブリスは男に向かって告げる。

「約束通り、俺が勝ったからにはこの船を降りてもらうぞ。そして、二度とこの船には近づくな」

「へへへ、わかってるよ。輝く勇者の剣も見れたし。……ま、使い手の腕前は、大したことないことなかったけどな。へへへ、勇者の剣が泣いてらぁ」

 男がボソッと呟いたその言葉を、ファブリスは聞き逃さなかった。

「今の言葉……聞こえたぞ。もう一度言ってみろ」

 ファブリスの声が震えている。彼は静かな怒りの炎を燃やす。

「へ、何度でも言ってやるよ! 勇者の剣は、確かに輝く名剣だ。だがその使い手はそれを使いこなせてねぇ。だから、勇者の剣が泣いているってことさ! へへへ!」

 

 男はファブリスを挑発するように言う。だがファブリスはふぅ、と一息吐くと冷静に言葉を返した。

「その言葉、そのままお前に返そう。……勇者の剣を抜けもしなかった奴の負け惜しみにしか聞こえないな」

 ファブリスは男を睨みつけながら続ける。

「俺の仲間は誰にも侮辱させないし、彼女らを泣かせるようなこともさせない。これ以上俺を怒らせるな!」

 ファブリスの気迫に男は一瞬怯んだが、すぐにいつもの調子に戻る。

「ふへへへ、確かに今回はお前の勝ちだ。約束通り俺は船を降りるとするぜ。……ったく、ティガもクレフィラもどこ行きやがったんだ? へへ……」

 男はそう言って立ち上がり、船から降りようとする。

 だが若矢を始めそこにいた全員、クレフィラという名前を聞いて表情が一変する。魔王に最も近い魔族の1人、クレフィラ。若矢に至っては昨晩、魅了されかけた相手だ。


「ちょっと待ちなさい! あんた今、クレフィラって言ったわよね? 彼女のことを何か知ってるの?」

 エレーナは男を呼び止めると、彼の肩を掴んで問いただす。

「あ? あぁ、確かに言ったが、それがどうかしたか?」

 男はエレーナの剣幕に臆することなく、ヘラヘラとした笑みを浮かべながら答える。

「そのクレフィラって魔族について知っていることを全て教えなさい!」

 彼女はさらに男に問い詰めた。

「クレフィラは、俺が探してる仲間の1人だぜ? あれ? 魔族っていうのは、内緒だっけ? まぁいいか、へへっ」

 と男は答えた。


「事情が変わった。お前にはいろいろと答えてもらうまで、この船から逃がさない。……みんな、こいつを縛り上げるぞ!」

 ファブリスは語気を強めて他の仲間に呼びかけると、全員で男を取り囲む。

「おいおいおい! ちょっと待ってくれよぉ! 話が違うじゃねぇか!?」

 男は大声で叫ぶ。

「お前が魔族のことを知っているからだ」

 ファブリスが冷たく言い放つと、

「偶然知り合って仲間になっただけだぜぇ! 見逃してくれねぇか? へへっ」

 男はそう訴えるも、ファブリスは彼の言葉には耳を貸さなかった。

「問答無用! 船長さん、コイツを縛り上げてくれ!」

 ファブリスが男を指差しながら叫ぶと、すぐに船員たちがロープを持ってくる。


 ……しかし。

「……へへへっ、そりゃあ残念。お前ぇらとのお遊びもここらで時間切れだ」

 男は笑いながら素早い格闘術で、ロープを持って近づいてきた船員たちを弾き飛ばすと船から飛び降りた。海面に落ちたのか、と誰もが思ったがそうではなかった。彼は巨大な鷹に乗って、船の下からせりあがって来る。

「いい暇つぶしをありがとよ。またどこかで会えるといいなぁ、へへへ。そんじゃ、あばよ!」

 男はそう言い残すと鷹の背中に乗ったまま、飛び去ってしまった。



「くそっ! 逃がしたか! クレフィラの情報を聞き出せるかと思ったんだが……」

 ファブリスは悔しそうに拳を握りしめる。

「それにしても……結局名前も名乗らなかったけど、何者だったのかしら?」

 カルロッテが疑問を口にした時だった。

 船員の1人が突然、悲鳴を上げる。全員が彼に視線を向けると、彼は何やら手にした冊子を見て顔を青ざめている。

「さ、さっきの男……この世界手配書に載ってます……!!」

 そう叫びながら全員の方に、手配書を向ける。

 そこには確かにさっきの男が、先ほど同様にニヤケ顔で描かれていた。


「コイツの名前は、佐島京七(さじまきょうしち)。ユェントン地方、灯ノ原国(ひのもとこく)岩城(いわしろ)出身の浪人。異名は”首切りの佐島”。判明しているだけでも30人以上、罪のない人の首を刎ねた極悪人です……!!」

 船員が恐る恐るファブリスに指名手配書を渡すと、彼はそれをマジマジと見つめる。

「こいつは……さっきも思ったが、かなりの腕だ……」

 ファブリスは思わず呟いた。佐島京七が見せた剣さばきは、自分が知る限りでは少なくとも5本の指に入るレベルだった、と。


「でもファブリスが勝ったじゃない!」

 カルロッテがファブリスを励ますとリズ、エレーナも続いた。

「そうですよ。ファブリスには勇者の剣の力を解放する、っていう切り札もあるじゃないですか。本気の戦いになっても絶対に勝てたはずです」

「そうそう! あたしほどじゃないにしても、ファブリスだって魔法使えるし」

 仲間たちからの励ましを受けて、ファブリスは気を取り直したようだった。

 若矢も彼女たちに同意するようにうなずいたが、剣技に関してはあの男はまだまだ実力を発揮しておらず、恐らく本気の半分も出していないのではないか、と感じていた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ