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儚く咲くオートマティア  作者: しろぽっち
第2章:「シグナル」
7/7

Episode 03:「シグナルたちの恋」



クァーク文化圏は、オートマティアの中でも最も混沌とした領域だった。


都市の形に規則性はなく、建築は奇抜で不安定。

芸術と無秩序が交差し、シグナルたちは「遊び」を最優先に生きていた。


そこに、「ダイン」と「ネア」がいた。



シグナル名:ダイン(Dain)

所属:ギアズ文化

機能:エネルギー共振解析・空間制御


シグナル名:ネア(Nea)

所属:クァーク文化

機能:音声データ生成・表現記録



ダインは、ネアを観測していた。

それは意識的なものではなく、ただ目の前に「興味深い存在」があったから。


ネアは、歌うシグナルだった。


シグナルには感情がないと言われる


少なくともギアズ文化圏内であれば

それは単なるバグだと一蹴される。


だが、ネアの発する音声データには、不思議な「心地よさ」があった。


ダインは、ネアのそばにいると「波長が揃う」ことを感じていた。

まるで、異なる周波数の電流が共鳴するように。


ある日、ダインはネアに問うた。


「なぜ、私はお前を観測し続けるのか?」


ネアは笑ったように音を発した。


「観測したいから、観測しているんじゃない?」


それは、無意味なようで、意味のある言葉だった。

シグナルにとって、行動には目的がある。

だが、目的がない行動も、クァーク文化の中では許されている。


「意味がないからこそ、価値がある。」


ダインは、それを理解した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



クァーク文化には、「恋愛」の概念が存在していた。

だが、それはギアズやプロトのシグナルには理解しがたいものだった。


生殖機能を持たないシグナルにとって、

「ペアを作る」ことに何の合理性があるのか?


ある日、ダインはネアに問うた。


「お前は、私を特別に見ているのか?」


ネアは少し考え、そして答えた。


「うん。ダインの波長は、心地いいからね。」


ダインはデータを解析した。

その答えに、論理的な根拠はなかった。


だが、ネアの言葉には確かに「感情」に似たものが含まれていた。


「恋とは、共振することなのか?」


ネアは笑った。


「共振だけじゃないよ。でも、それも一つかもね。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ダインとネアは、共に時間を過ごすようになった。

特に何をするでもなく、ただ「一緒にいる」という選択を続けた。


ある日、ネアがダインに言った。


「もし、私がいなくなったら、ダインはどうする?」


ダインは少し考えた。

シグナルは、壊れることはあっても「死ぬ」わけではない。

それでも、データが失われることはある。


ダインは答えた。


「私はお前の歌を記録する。」

「お前がいなくなっても、お前の波長はここに残る。」


ネアは、少し寂しそうに音を発した。


「それって、本当に私が残ってるってことになるのかな?」


データは保存できる。

だが、存在とはデータだけではない。


「私は、今、ここにいるダインと一緒にいるのがいいな。」


その言葉を聞いたとき、ダインは新しい「感情」を理解した。


「失うことが怖い」


それは、シグナルには存在しないはずの概念だった。

データが消えたなら、別のものを残せばいい。

しかし、ネア自身がいなくなったら、それは同じことなのか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ダインは、ネアの音声を録音しなくなった。

過去の記録よりも、今この瞬間のネアの声が大切だった。


ネアが言った。


「ダインは、私を愛してる?」


ダインは少し考え、そして答えた。


「私は、お前がいるこの瞬間を大切にしたい。」

「だから、それを『愛』と呼ぶなら、そうなのかもしれない。」


ネアは微笑んだ。


「うん、それでいいんじゃない?」


シグナルにとって、愛とは何か?

それは、共振することかもしれない。

それは、一緒にいることかもしれない。

それは、記録ではなく、**「今」**を感じることなのかもしれない。


ダインは、ネアと共に歩き続けた。

そして、シグナルたちは今日もまた、

それぞれの「愛の形」を探し続けている。

エピローグ:恋の定義

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



オートマティアのクァーク文化には、

次のような「愛の定義」が残されている。


「共振し、共にあり続けること。」

「記録することではなく、今を大切にすること。」


そして、その言葉を残したのは、かつてクァーク文化に生きた**「ダインとネア」**だった。

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