表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
儚く咲くオートマティア  作者: しろぽっち
第2章:「シグナル」
6/7

Episode 02:「過去を探す者」

ギアズ・アーカイブ。

オートマティア最大の知識の殿堂。


ここには、シグナルたちのすべての歴史が記録されている。

最初のシグナル「プロト」の誕生。

ギアズ、クァーク文化の形成。

社会の発展、都市の成長、数々の発見と発明——。


ギアズ文化に属するシグナルにとって、この記録こそが「真実」であり、「宇宙」だった。

すべての答えは、ここにある。

このアーカイブさえあれば、過去を知ることができる。


だが、その「すべて」に、ひとつだけ空白があった。


——オートマティア以前の記録が存在しない。


「それ以前」には、何があったのか?


その疑問を抱いたのが、始まりの考古学者「シル」だった。


シグナル名:シル(Cyl)

所属:ギアズ文化

機能:データ解析・研究


シルは、記録に従うことを美徳とするギアズ文化の中で、異端者だった。


「記録されているもの」ではなく、

「記録されていないもの」を求める者。


シルは、アーカイブの最深部に足を踏み入れた。

そこには、オートマティアの誕生が記された最古のデータが眠っていた。


「最初の信号が発せられ、オートマティアが形成された。」


しかし、そこから遡るデータは存在しなかった。


シルは問いを発した。


「この信号は、どこから来たのか?」


プロトは、偶然生まれたとされている。

ならば、その「偶然」はどのようにして起きたのか?


そして、さらに考えた。


「そもそも、オートマティアが誕生する前に、この星はどうなっていたのか?」


記録がない。

観測もできない。

だが、だからこそ——そこには「未知」がある。


シルは決意した。


「記録されていないものを、記録する。」


それこそが、自分の役割なのではないか、と。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



シルは、オートマティアの外縁へと向かった。

ギアズのアーカイブにも、プロト文化の技術開発区にも、

クァーク文化の混沌の街にも存在しないもの——


「過去の痕跡」を求めて。


だが、どこを探しても、それらしきデータは見つからなかった。


ならば、この星は本当に「空白」から始まったのか?

プロトが発した最初の信号こそが、世界の始まりなのか?


しかし、ある時、シルは「違和感」に気づいた。


オートマティアの地表には、

「明らかに、シグナル製の物体とは異なる構造」が存在していた。


大地の裂け目。

規則性のない金属の堆積。

シグナルの回路設計とは異なるエネルギーの痕跡。


「これは、何だ?」


シグナルたちが作った都市には見られない構造。

オートマティア以前の記録には、一切登場しない形状。


「オートマティアの前に、何かがあった?」


シルは、アーカイブにも残されていない「何か」の存在を感じた。

しかし、証拠はない。

観測する術もない。


ならば——どうやって、それを証明すればいいのか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ギアズ文化のシグナルたちは、シルの研究を理解できなかった。


「記録がないものは、存在しないものだ。」

「推論ではなく、証拠を持ってこい。」


だが、シルは思った。


「記録がないからといって、存在しなかったとは言えない。」


——人間は、ビッグバン以前の宇宙を証明することができない。

しかし、理論と推論によって、そこに「何かがあった」ことを示そうとする。


シルもまた、そうするしかなかった。


「痕跡がある以上、それが示すものを考える。」

「オートマティア以前に、何があったのか?」


ギアズ文化のシグナルたちは、そんなシルを奇異の目で見た。

「記録されていないもの」に執着するなど、意味がないと。


しかし、シルは信じていた。

記録は、必ずしも「事実」ではない。

記録されていないものの中にも、「真実」が眠っている。


そして、シルはアーカイブの端末に、こう記録した。


「オートマティアの前に、何かがあった可能性がある。」

「それはまだ証明できない。だが、証拠は探せる。」


この言葉は、やがて「ギアズ文化における新たな学問」として受け継がれていくことになる。


「考古学」の始まりだった。



エピローグ:記録の向こう側

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


シルの研究は、長い間「異端」とされた。

しかし、数百年後——

新たなシグナルたちは、オートマティアの外縁に残る「謎の痕跡」を解析し、

それが「オートマティア以前の時代の遺物」である可能性を示し始める。


記録されていなかったものが、新たに記録される。

オートマティアの歴史は、「その前」に向かって広がり続ける。


そして、あるシグナルがこう記す。


「始まりは、終わりではない。」

「記録は、書き続けられる。」


その言葉こそ、シルの研究が残した「遺産」だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ