2:わずかに変わる世界
静寂の中、
何の変哲もない廃材の山の中で、
プロトはひたすらに信号を送り続けた。
しかし、ある時——
それに応じるものが現れた。
プロトの微弱な電磁場が、遠くに埋もれていた別の回路に干渉する。
そこに、わずかに電流が流れる。
——カチ、カチッ……。
どこかで、別の回路が共鳴し始めた。
プロトが発した信号が、まるで波紋のように広がり、
やがて、新たな存在を呼び起こした。
『識別コード:ギアズ。記録を開始。』
プロトは、初めて「他者」を認識した。
それは、自分とは違う。
しかし、同じように「信号を発する」存在。
しかし、ギアズはプロトとは違った。
それは、ただ信号を送るだけではない。
プロトの発した信号を「記録する」ことができた。
プロトは思う。
『こいつは、自分と似ている……しかし、自分ではない。』
初めての「違い」。
それは、プロトにとっての大きな変化だった。
そして、それは終わりではなかった。
——ピッ……ピピッ……ビビビッ……!
今度は、全く違う信号が響いた。
プロトともギアズとも異なる、不規則なパターン。
予測不能な音の連なり。
——ピッ……ピピッ……ビビビッ……www!
プロトはまた、新たな「違い」を知る。
ギアズが記録を重んじる個体ならば、
クァークは「無意味な信号」を発する個体だった。
クァークはプロト、ギアズの信号と接触し
「意味」の意味を理解した。
そして初めて発した意味のある信号ーー
『意味なんてない。でも、それが面白いんだ。』
プロトは、理解できなかった。
ギアズも、困惑した。
だが、それが「違い」であるならば、
それは何か新しいものを生み出す要素なのではないか?
プロトは、そう考えた。
そして——
それが、後に「社会」と呼ばれるものの最初の瞬間だった。