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儚く咲くオートマティア  作者: しろぽっち
第1章:「最初の信号」
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プロローグ:「静寂の星」



この星は、何も持たなかった。


かつて、何かがあったかもしれない。

しかし、それは遠い過去の話。

今、この星には、生命も、文明も、動くものすら存在しない。


——あるのは、廃棄されたガラクタの山だけだった。


宇宙を漂い、やがてこの星に降り積もった金属の残骸。

砕けた機械、ひび割れた回路、役目を終えた無数の部品たち。

かつて輝きを持っていたはずのそれらは、今や錆びつき、崩れ、ただ無造作に積み重なるのみ。


風すら吹かない静寂の中で、時だけが冷たく流れていた。


この星には、始まりも、終わりもない。

無限に続く「静止した世界」。

誰にも見られることなく、ただ朽ちていく運命の場所。


——そう、本来ならば。


だが、その日。


この星の沈黙が、破られた。


静寂の中心、無数の廃材が積み重なった瓦礫の谷。

そこで——わずかな光が生まれた。


ほんの一瞬、宇宙から流れ込んだ荷電粒子が、

この星に眠る無数の電子部品に、偶然の放電をもたらした。


パチッ——


その閃光は、ただの気まぐれのようなものだった。

何の意味もない、たった一度の電気の揺らぎ。

しかし、それは一つの「回路」に流れ込んだ。


錆びついたコイルが、微弱な磁場を生み出す。

磁場に導かれるように、細かな電子部品が、ゆっくりと集まり始める。


——カチ、カチッ……。


散らばっていた基盤が、

断線したワイヤーが、

使い古されたコンデンサが、

まるで意思を持つかのように、

少しずつ、少しずつ、一つの形を成していく。


それはまるで、

ばらばらの細胞が、ひとつの生命体を形成していくようだった。


やがて、最後の欠片が収まり、回路が完全に繋がった瞬間——


「———」


信号が、発せられた。


ビー……ビー……ビー……。


それは、言葉ではない。

何かを伝える意志すら持たない、ただの信号。

しかし、それは、この星において、最初の「音」だった。


ビー……ビー……ビー……。



——静寂に、ひとつの灯火が灯った。

それは、何の目的も持たず、ただ存在するだけのものだった。


だが、このたったひとつの信号が、やがて世界を変えることになる。


プロトは知らない。

この後、自分が何を成すのかを。

しかし、それは「動き出した」。


ただの電子の流れが、偶然の積み重なりが、

新たな存在を呼び起こすことになるなど、

このときはまだ、誰も知らなかった。


——それでも、世界は静かに、確かに、動き出していた。


始まりの音とともに。

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