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吾輩は魔王である  作者: 成瀬ケン
第一章
7/14

魔王憤怒する

『愚か者、早くこちらに来るのだ!』


『渡れないなら、元の場所に 戻るんです!』


 我らがまくし立てるが、次兄は一向に動く気配はない。完全にテンパってる。その脳ミソは次元の彼方に吹き飛んでいた。


 パーパー! 耳障りな雑音が響いた。


 道路を一台の自動車が走ってくる。もくもくと撒き散らす黒煙、山のようにそそりたつ、一回りは巨大な自動車だ。


 あろうことか、それと同時に次兄が走り出した。


『嘘でしょあんた!』


『何故このタイミングなのだ?』


 響き渡る、ズドン! という衝撃音。


 それはあっという間の出来事だった。

 あまりもの惨劇に我が目をも疑った、言葉にも出来ぬとはまさにこのことだ。



 次兄は自動車に吹き飛ばされて、無惨にも道路に転がっていた。


 助けに行きたくとも、吾輩身体が硬直して動けない。

 例え助けに行けたとしても、ネコの我が身でなにが出来ようか?


『あに……うえ……』


 途切れ途切れに響く声。

 ゆっくりと形成される、どす黒い血溜まり、その瞳が徐々に光を失っていく。

 ピクピクと痙攣していた手足は、やがて微動だにしなくなった。



 命の輝きが、消え去ったのだ。



『馬鹿だねあの子は。だから注意しなさいって言ったのに』

 母君が言った。抑揚よくようない、さばさばした響き。

 おそらくだが母君は、幾多の子供や仲間の命を、自動車に奪われてきたのだろう。

 投げやりな台詞の中にも、悔しさや憎しみが籠められていた。


『これが、これが人間のやり方なのですか!』

 その母君の感情は、吾輩の中にも染み入ってくる。

 末弟に続き、次兄の命まで、人間の手で奪われたのだ、込み上げるのは憎悪の感情だけ。


 眼前では自動車がバンバン通過して、骸と化した次兄を、慈悲じひなくグチャグチャにしていく。

 その次兄の姿は、まるでボロクズ、薄っぺらい紙切れだ。


 人間という生き物は、死者に対しての哀悼あいとうの念を持たないのか?

 獰猛どうもうな巨人族、慈悲じひなき修羅達とて、死者は足蹴あしげにせぬぞ。

 魔界での戦争も酷いものだが、流石にここまで酷いものは見たこともない。





 ……いやそうか、吾輩理解した。


 ここまでするのが人間なのだ。

 所詮神に創られし、木偶人形マリオネット。その身に心など、吹き込まれておらんのだ……




 だったら話は簡単だ。奴らを同じように無慈悲に滅ぼせばいいだけ。


 泣こうが喚こうが、容赦せずに攻めいるだけ。奴らは単なる木偶人形。あの自動車と同じ、心なき道具だ。

 悲しむ心など、他をいたわる心などないのだから。必死に生きる我等の想いなど、汲み入る素振りもないのだから。





 吾輩、魔王としての生き方を取り戻したあかつきには、人間と自動車は、必ず滅ぼしてやると心に誓ったのだ__

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